上原浩治のセ・リーグ優勝予想 キーワードは…距離の近い指揮官・自己犠牲・若手の成長
プロ野球は春季キャンプが打ち上げになり、いよいよオープン戦がスタートした。
2月下旬の4日間、TBS系列の情報番組「サンデーモーニング」とNHKのスポーツ情報番組「サンデースポーツ」の取材で沖縄を訪れた。古巣の巨人に加え、昨季の日本一・阪神、広島、ヤクルト、ロッテと5球団を訪れた。
現役時代の自分の経験からもキャンプだけをみたところで、あまり参考にならないというのが正直な感想だ。それは当然で、キャンプは、自分の技術を磨く場となる。この時点でコンディションが悪ければ1軍にはいないわけで、大事になってくるのは、これからの実戦の場になるだろう。投手なら打者と対峙したときに、どれだけブルペンと同じボールを投げられるか。打者は投手の生きた球に対し、どれだけ自分のタイミングでバットを振れるか。ブルペン捕手を相手に気持ちよく投げたり、打撃マシンで快音を飛ばしても、やはり実戦は蓋を開けてみないとわからない。
この時期、日に焼けて、いい表情をしている新指揮官にもインタビューをしてきた。巨人の阿部慎之助監督である。自分にも他人にも厳しい一面があり、そういう姿勢でプロの超一流へとのし上がった選手だったが、監督としては「選手と良い意味で距離を近くしている」という姿が印象的だった。昨季までヘッドコーチだったこともあり、選手のことはよくわかっているだろう。その中で、「距離を近く」は、選手にとっても相談しやすい雰囲気作りを心掛けているように見えた。
かつてのプロ野球の監督像は、選手とは一線を画してほとんど会話を交わさず、「絶対的」な存在だったが、近年は時代の変化もあるのだろう。もちろん、監督と選手の関係は「なあなあ」では続かない。誰を1軍で残し、レギュラーで使うか。選手が出した結果に対して非情な決断を下すことも監督の使命だ。そういう意味でも、慎之助(阿部監督だが、コラムではあえてこう呼ばせていただく)は時代に合わせつつ、厳しさと優しさの両面を持った指揮官の姿を思い描いているように見えた。
新指揮官はチームに明確な意思統一を図る。それが“自己犠牲”の野球だ。数字だけで2軍との昇降格を行わずチームへの貢献度をみる。報道によれば、「投手の与四球1割減」など具体的な数値目標も定めた。阪神の岡田彰布監督が打者の四球で査定ポイントをアップさせて得点力を上げたのに通じるものがある。
そんな巨人は、解説者目線での私の「イチ推し」である。
2月25日に放送された「サンデースポーツ」でも話した通り、巨人を今季の優勝に予想した。まず、メジャーやFAで抜けた選手が、中日へ移籍した中田翔選手くらいで、昨季から大きな戦力ダウンにはなっていないことが大きい。この点は、優勝争いの「軸」になると予想される阪神も同様に変わらないが、巨人には若手の成長というプラス要素が大きい。投手で言えば、慎之助は開幕投手に昨季12勝(5敗)の戸郷翔征投手をイチ早く指名しているが、昨季10勝(5敗)の山﨑伊織投手、先発で12試合(5勝5敗)に投げた赤星優志投手、さらにはドラフト1位の西舘勇陽(中大)らも楽しみな存在だ。
菅野智之投手の巻き返しにも大きな期待が持て、外国人投手もいる。慎之助は先発を「6人で回すが、(インタビュー時点では候補が)7、8人いる」とオープン戦でのハイレベルな争いを楽しみな様子で話してくれた。
西舘投手からはキャンプ取材中、フォークの握りを聞かれたので、自分の握りを教えた。戸郷投手にもフォークについて聞いたりしていて、探究心があるように映った。握りは人それぞれだが、自分に合うものを見つけてほしい。新人ながら球威もあって、変化球もいい。一方、他の評論家も指摘しているように、体の開きは気になる。体が早く開けば、打者からすれば、腕が早く見えるのでタイミングを合わせやすくなる。球の出所がみえやすいというのは、打者目線では「怖さ」がなくなってしまう。ただ、本人が投げやすいフォームで、あとは打者との対戦の中でどうするかは自分で答えを見つけていくしかない。特に西舘投手の場合は、先発するのか、後ろで投げるのか。新監督の采配にも注目したい。
他球団にも、楽しみな若手はたくさん出てきそうだ。どんな選手が台頭するか。新しいシーズンの楽しみである。