「理論派なだけじゃない」上原浩治が考える阪神・藤川球児新監督の本当の凄さ
プロ野球・阪神の新監督にOBの藤川球児氏が就任した。2005年のリーグ優勝に救援投手として貢献し、メジャーリーグや日本の独立リーグなどでもプレー。球団の功労者でもあり、広い見識を持つ若きリーダーとして、いずれは阪神の監督になる人材だと思っていたが、2軍監督などの指導経験を踏まずに起用した球団の決断にも驚いた人事だった。(※プライベートでは球児と呼んでいるが、今回のコラムでは、藤川氏と表記します!)
現在の監督の顔ぶれをみても、2軍監督を経験してから1軍で指揮を執る指導者は多い。今季、就任1年目でリーグ優勝を果たした巨人の阿部慎之助、ソフトバンクの小久保裕紀の両氏もそうだ。昇格組の監督は、選手からすれば、いきなりチームの外から来る監督と比べれば、コミュニケーションが図りやすいかもしれない。では、いきなり監督になる藤川氏のようなタイプには、デメリットかといえば、そうとも言い切れない。
大事なことは、必要なケースで対話を重ねることができるコミュニケーション力を備え、選手やコーチと適度な距離感で同じベクトルへ導けることではないだろうか。私の現役時代で言えば、原(辰徳氏)さんは、選手と向き合って対話をしてくれるリーダーだった。藤川氏は球団本部付スペシャルアシスタント(SA)という立場でもあり、完全に外から来るのではなく、選手とも近すぎず、遠すぎずの適度な関係にあったのではないだろうか。
会見の中では「コーチに主体的に動いてもらう」とも話していた。私は指導者経験がないので、選手の立場からの話になるが、コーチの存在は大きかった。組織のトップである監督は野手、投手のすべての状態を詳細に自分の目で確かめることはできない。この点をフォローし、選手と監督のパイプ役になってくれるのがコーチだと思っていた。
藤川氏とは高卒、大卒の違いはあれども、1998年秋のドラフト会議で指名された同期でもある。2006年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や08年北京五輪で、ともに日本代表のユニフォームを着た。巨人と阪神というライバルチームの選手同士ということもあったので、食事に行くようになったのは、藤川氏がメジャーに移籍してからだったが、その後は親交が深まった。
私は後輩から気を遣われることがあまり好きではないのだが、藤川氏はこのあたりの距離感もうまく、会話が弾む。一緒に食事に行っても、居心地が良い空間になるのだ。プライベートではお互いに野球の話はしないが、プロ野球解説の仕事などで一緒になると、配球や投手心理など詳細に解説する姿が印象的だ。世間で理論派と呼ばれるのも納得する。
波長が合うと思うのは、自分の考えをはっきり口にするタイプだからだろう。現場のことだけでなく、将来の日本球界のことも念頭に、球団や球界にとって耳の痛い話でも直言する姿勢は、影響力が大きくなる監督になってからも持ち続けてほしい。いまは球場に多くのファンが詰めかけているが、将来を見据えれば、少しでも野球の魅力を広めるアイデアは、もっともっと必要だろう。グラウンド目線だけではなく、藤川氏は球界全体を見渡せる広い視野がある。運営面においても、良い意味で口出しができる存在だと思っている。
もちろん、大事なことは、監督として現場を統率し、チームをリーグ優勝、そして日本一へ導くことだろう。藤川氏も会見で「当然、勝ちに行く。タイガースを日本一にし続けたい」と決意を語っていた。来季は、阪神にとって球団創設90周年という節目のシーズンになるという。44歳の藤川氏がどんな采配を振るうのか。私に言われなくても、わかっているだろうが、ぜひ、自分がやりたい野球を、貫いてほしい。