他人の著作物を使用したアイコンの法的リスクについて
「"Twitterアイコンが丸くトリミングされるのは同一性保持権侵害" アイコン無断使用を巡る裁判で」というニュースがありました。
ということです。
以前も似たような事件があり記事にしていますが、原告はその時と同じ人です。現時点では、裁判所のサイトでは判決文が公開されていませんが、原告の方のブログ記事を見ると仮処分の決定文が載ってます。
前回の判決は、ツイッターにおいて画像を含むリツイートを行なうときに画像がトリミングされてしまうことが著作者人格権(同一性保持権)を侵害するというものでした。
今回は、アイコン画像そのものの改変の話なので、通常の文字ツイートだけでも著作者人格権の侵害になるというものです。このケースでは、当然に複製権、公衆送信権等も問題になりますが、上記「ねとらぼ」の記事によると、仮処分のため、まずは同一性保持権による判断が優先されたとのことです。
前回も今回もそうですが、これらの裁判はツイッター社に対する発信者情報開示請求(その前提として著作権侵害の有無が争われた)であって著作権侵害訴訟ではありません(ツイッターが賠償金を払ったりするわけではありません)。この後、ほぼ確実に、原告は、ツイッター社によって開示された発信者情報に基づいて、ISPに再度発信者情報開示請求を行なって投稿者の身元がわかった後に、投稿者に対して著作権侵害訴訟を提起することになるでしょう。ちなみに、原告のブログによると、他のケースでは、写真を無断使用した投稿者が25万円くらいの損害賠償金を支払っています。
なお、前回の判決は、問題となった投稿者が最新のログイン時に使用したIPアドレスの開示は認められませんでした。これは著作権の話ではなく、プロバイダー責任制限法の解釈の話で、開示が求められるのは実際に画像リツイートを行なった時点(同一性保持権を侵害した時点)での情報に限られるという裁判所の判断によるものです。一般に、ツイッター等のネットサービス提供者やISPはプライバシーの観点から投稿者のIPアドレスをそれほど長期的に保存しませんので、前回の判決ですと、ツイッター登録時のメアドがプロバイダー提供のものでもない限り、投稿者の個人情報を得ることは困難ではないかと思います。
これに対して、今回の判決では、投稿者が仮処分直前に使用したIPアドレスの開示が命令されたので、投稿者の個人情報の獲得は前回よりはるかに容易になりました。ツイートすればアイコンが表示され、その度に同一性保持権が侵害されるという解釈によるものと思われます。
なお、今回の原告は、写真の無断使用に関して、さくらインターネットなどのISPやメルカリ(アイコンでの使用について)等に対しても数多くの訴訟を提起しています。
他人が作成したイラストや写真を許可無く勝手にアイコン等で使うことは元より著作権侵害に当たります。今までほとんど問題になっていなかったのは、単に著作権者が大目に見ていてくれた、ないし、訴えても裁判費用の元が取れないので訴えなかっただけに過ぎません。今回のように自分の著作物に強いこだわりを持つ権利者が出てくればその前提は崩れます。その点では、引用や私的使用目的複製のように著作権法上明確に規定された権利制限(権利者は訴えたくても訴えられない)とは明確に区別して考えるべきです。
ネット有名人と呼ばれる人々も含めアニメキャラ等他人の著作物を無断でアイコンに使ってる人は多いと思いますが、そろそろ考え直すタイミングと言えるでしょう。(なお、自分のツイッターアイコンは自分でテキトーに撮った写真です)。