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特別定額給付金が秋の総選挙の焦点に? 補正予算が与党の選挙対策となるか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
党首討論で国民民主党玉木雄一郎代表の質問を聞く菅義偉内閣総理大臣(写真:アフロ)

第4波の緊急事態宣言では給付金なし

 昨年4月、コロナ第1波で全国へ発出された緊急事態宣言に対応する経済対策として、特別定額給付金1人10万円の支給が決定しました。麻生財務大臣は昨年の記者会見で、この特別定額給付金を「緊急事態宣言を全国に拡大したという状況を踏まえて簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計の支援を行って、我々が連帯して国難を乗り越えていくためのものという」ものと定義しており、このことが第2波以降、政府が頑なに緊急事態宣言を全国に出さない理由になっていることは明白でしょう。

 第4波の緊急事態宣言も6月20日で解除の方向と言われています。全国的にコロナワクチン接種が進んでおり、これまでのような大きな波が再度来るのかもわかりませんが、第2波〜第4波でも緊急事態宣言を全国に発出しなかったことを考えれば、その可能性は低くなったと言えるでしょう。

「OECD諸国比較」の表と裏

 菅総理大臣は、先の党首討論で立憲民主党枝野代表の質問に対し「新型コロナの影響が長引く中で、わが国の失業率は先進国で最も低い状況です。倒産件数も低い水準にあります。」と答弁したほか、「我が国の実質GDPについて、OECDでは年内に新型コロナ前の水準に回復する見通しだと、つい先般発表されています。」との答えました。

 ところが、国民民主党玉木雄一郎代表の質問では、この数字について更なる質問が入りました。「日本の失業率は低いとか、いろんなことをおっしゃっていますが、失業率の計算はもう喜んで働こうと思わない人がいなくなったら、つまり希望する人がいなくなると名目上、失業率は下がっちゃうんですよ。」と、失業率に関しては質問の前提により数字が狂うことを明らかにした上で、「今年来年の日本経済の戻り、G7の中で最低だけではなく、G20の中でも最低、さらにOECD38ヶ国の中でも下から2番目。」と突っ込みを入れます。要は、政府は諸外国と比べると失業率やGDPなどがそこまで酷くないというアピールをしていましたが、玉木雄一郎代表の質問では、別の数字ではOECD38ヶ国の中でもワースト2位であることや、政府が持ち出す失業率の数字が「都合が良い」数字であることを明らかにし、現実的に生活に困窮している世帯に対する対応策を求めました。要は、政府与党が引き合いに出す「OECD諸国との比較」は、都合の良い側面だけを見せている節があり、野党にその点を追及されると答えが出ない状況であるのもまた事実なのです。

 政府と野党とのすれ違いはこれだけではありません。野党各党は経済回復のための追加措置としての補正予算を求めましたが、総理は昨年度未執行の予算30兆円などがあり、まずはこの未執行分で経済対策を行うから、補正予算は不要との認識を再三にわたって示しています。この点についても玉木代表は「「繰り越しが30兆あることを自慢したらダメ。それはもともと3次補正は本来であれば年度内に執行するもの。予備費もそう。それを令和3年度に持ち越して、30兆も持ち越しがあるから組まないというのは、やるべき宿題をしていないから、次の宿題をできませんと言っているのと同じ。」と厳しい意見を述べましたが、与野党はすれ違ったまま党首討論は終局しました。

未執行分の30兆円や補正予算の行方は

 現実的に補正予算が通常国会で組まれないことがほぼ確実となった今、未執行分の30兆円の行方が気になるところです。政府は、生活保護に近い経済水準の世帯で、かつ預貯金が100万円以下等の複数の要件を満たす場合、3ヵ月間で最大30万円を給付する自立支援金の支給を決めたほか、特例貸付の申請期限を8月末まで延長することも決めました。また、未執行分については永田町では東京五輪の無観客開催などによる経済損失やインバウンド消失に伴う旅行業宿泊業向けの対策に使われるとの観測があります。「GoToトラベル」キャンペーンも中途半端な形で中断していることもあり、コロナ後の景気再浮上を狙うためにもこれらの予算を経済活性化や飲食・旅行業に回すことはほぼ確実でしょう。

 補正予算はどうでしょうか。現実問題として未執行分の昨年度予算を消化せずに補正予算を策定することは財務省が反対するでしょう。財政の問題に関しては特にこのコロナ禍でバラマキが増えた昨年度から、コロナが全体的に収まりつつある現状を考えれば、更なる補正予算に消極的になるのは当然のことです。自民・公明党内では今国会での補正予算を目指す議員らの動きもありましたが、結果的には「時間が足りない」との判断で見送りになった経緯があります。予備費も5兆円が未執行としてある中で、ワクチン接種が広がる現状から考えれば、年内はこの予備費で十分との意見が与党内を支配したというところでしょう。

自民党内でも給付金支給の動きが

特別定額給付金の申請書
特別定額給付金の申請書写真:森田直樹/アフロ

 それでは、自民党内では特別定額給付金の再支給の動きはもうないのでしょうか。自民党内でも経済・財政政策に知見を持つ安藤裕衆院議員が会長を務めていることで知られる議連「日本の未来を考える勉強会」は、消費税の3年間課税停止、消費税は10月から3年間課税を停止、中小企業向けの持続化給付金200万円の再支給のほか、個人を対象にした同様の給付金制度を創設など、とても与党とは思えない積極的な提言をとりまとめて、補正予算提言として4月、二階幹事長に提出をしています。

 野党からも対象を絞った経済給付ではなく、幅広な給付金が必要との声も上がっている状況に変わりはなく、またアメリカでもワクチン普及のタイミングで追加経済政策が行われたことなどから、衆院選にかけて更なる給付金支給の動きも出てくるでしょう。

総選挙前に給付金の動きが出るかどうか

自民党にとって厳しい選挙とも言われている次期衆院選
自民党にとって厳しい選挙とも言われている次期衆院選写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

 遅くとも今秋までには行われる衆院総選挙で、この「給付金」問題がどこまで焦点になるかにも注目をしています。与党自民党は東京都議会議員選挙でも、これまでの経済政策やワクチンといった実績を前面に戦っていますが、必ずしも都議選は順風満帆という状況ではありません。内閣支持率も低い水準で留まっており、仮にワクチンの普及や東京五輪開催によっても内閣支持率が低い状態が続けば、更なる経済政策としての「給付金再支給」が党内外から更に強く求められるのは間違いないでしょう。

 昨年の特別定額給付金の執行にかかった総額は、約13兆円(支給総額と事務執行費用の合計)でした。昨年度未執行分は30兆円を残していることから、再度の支給は十分に可能です。また、予備費残余5兆円は、特別定額給付金には不足しますが、金額を下げた形での実施も可能と言えるでしょう。経済立て直しのためにも、現金給付ではなく有効期限のあるバウチャー形式や、地域経済の潤う形での電子マネー発行など、あらゆる手段が考えられます。いずれにせよ選挙前という絶好のタイミングで、政府与党がどのようにこれらの「予算」を選挙対策も含めて使っていくのか、注目です。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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