教員の9割「残業代ほしい」 若手に顕著 教員の「意識」に迫る
公立校の教員には、残業代が支払われない。労働者として重大な問題であるはずだが、実際にはそのことを知らずして教職に就く者も少なくない。はたして教員は、残業代不払いの現状をどう受け止めているのか。日本労働組合総連合会(連合)が先日公表した調査結果とその再分析から、時間外労働のあり方に関する教員の「意識」に迫りたい。
■「サラリーマン教師」であってはならない
教員の世界には、「サラリーマン教師」という言葉が古くからある。
これは、仕事に情熱的ではない、冷めた教師のことを指している。サラリーマンに対して失礼な言葉ではあるが、そのことは置いておくとして、教師というのは、勤務時間内に決められた仕事をするだけではなく、子どものために、時間に関係なく献身的に働くものとされる。
「サラリーマン教師」であってはならない。時間に関係なく対価を求めずに働くことが、教師のあるべき姿なのである。
■公立校教員には残業代がない
自己犠牲を美徳とする教員のメンタリティは、労働時間に関する法制度によって下支えされている。
1971年に制定されたいわゆる「給特法」(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)によって、教員は月額4%の上乗せがある代わりに、「残業をしていない」言い換えると「自発的に居残っている」という扱いになっている(詳しくは、拙稿「残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度」)。
ところがこの法律については、その存在を知らない教員も多い。
つい昨日も、ツイッター上で私は、「教員になってからはじめて、残業代がないことを知った」「教員養成の授業で『給特法』という言葉を聞いた記憶がない」といった声を聴いたばかりだ。残業代がないという事態は、まだ教育界においてさえ、十分に議論されていないと言える。
■教員の「意識」に迫る
さて先日、日本労働組合総連合会(連合)から、公立校教員の半数が過労死ラインを超えて働いているという調査結果が発表された(10/18 朝日新聞)。
これまで教員を対象とした各種調査によって、時間外労働の「客観的実態」が調べられてきたが、じつは連合の調査では、時間外労働のあり方に関する教員の「意識」も問われている。はたして教員は、長時間労働の現実をどう受け止めているのか。
連合の「教員の勤務時間に関するアンケート」は先月中旬、全国の公立学校に勤務する教員1000名(小学校432名、中学校240名、高校327名、その他8名で、一部重複)を対象に、インターネットリサーチにより実施された。今月18日に、その結果が公開されたばかりである(調査結果の資料はこちら)。
そこで私は連合の総合政策局に個票データ(分析される前のデータ)の提供を依頼し、厚意により個票データを入手することができた。以下、連合が公開した結果と、さらには私自身の再分析の結果から、教員の「意識」の一端を示したい。
■不払い残業をどう受け止めているのか
今回の調査では、「自発的に居残っている」とみなされる時間外の実労働について、それを勤務とみなすような制度改革、ならびにそこに残業代を支払うような制度改革への賛否がたずねられている[注1]。
連合の資料によるとまず前者については、「賛成」「まあ賛成」が86.2%を占めている。大多数の教員が、時間外の実労働を正式な勤務として扱うような制度改革を求めている。
後者についても、「賛成」「まあ賛成」が86.3%を占めている。大多数が、残業代が支払われるような制度改革が必要であると考えている。
端的にまとめると、ほとんどの教員は、働いている分はちゃんと労働として取り扱ってほしいし、そこに残業代をつけてほしいと望んでいる。少なくとも個々の意識としては、自発的に無賃で働く姿を、安易に美化しているわけではない。
■年代別にみた「賛成」の割合(小学校)
次に、個票データをもとに私自身がおこなった再分析により、教員の意識にもう一歩踏み込んでいきたい。
先述の分析は、さまざまな学校種別(小学校、中学校、高校、特別支援学校等)を一つにまとめて実施したものである。学校種別により業務内容等が異なるため、以下の再分析では、もっとも調査対象者が多かった小学校(回答者が432名いるため、細かい分析に耐えうる)に焦点を絞ってみる。
小学校の教員に限定したところ、時間外の業務を勤務とみなす制度改革に「賛成」「まあ賛成」であるのは、88.0%、時間外の業務に残業代を支払う制度改革に「賛成」「まあ賛成」であるのは86.8%と、先述の教員全体の数値よりわずかに高い。
興味深いのは、年代別にみた場合である。
年代別に「賛成」の割合を比較してみると、時間外の業務を勤務とみなす制度改革も、時間外の業務に残業代を支払う制度改革も、いずれも若い年代でより積極的な支持が確認でき、20代と60代ではおおよそ30ポイント近くも差が開いている。若い世代ほど、より「サラリーマン教師」的であると言える[注2]。
■残業代の支払いとともに考えるべきこと
時間外の業務に対する公立校教員の意識は、じつに率直なものであった。
朝は早く夜は遅くまで、土日も含めて働いている現実を、「自発的に居残っている」とみなされるのは勘弁してほしい。明確に勤務として位置づけて、残業代が支払われるべきと考えているのだ。
そして小学校においては、とくに若い世代でそうした意識がより強い傾向にある。自己犠牲を美徳とする姿は、もはや古い世代の教師像なのかもしれない。
ただし、次の2点について注意しておきたい。
第一に、個々人の意識と職員室全体の教員文化との間には大きな乖離があると想像される。個人的には制度改革を理想視していても、教員集団としてそうした考えが強いとは必ずしも言えない[注3]。
第二に、法制度として残業の事実を認め、そこに支払いが生じるようになればそれでよいということにはならない。罰則付きの上限規制によって残業は抑制されるべきであるし、そもそも「学校や教師の業務を大幅に減らすこと」(妹尾昌俊「対症療法の策はいらない。抜本的な働き方改革とは!?」)が必須である。
ここ数年で、教員の長時間労働の現状は、それなりに明らかになってきたものの、それでもまだ見えていないことがとても多い。改革はまだ始まったばかりである。
【謝辞】
本文中でも言及したとおり、本記事の執筆にあたって連合からは、個票データの提供を受けた。この場を借りて、深くお礼申し上げたい。
- 注1:前者の質問文は「『教員による自発的な行為』とされる、勤務時間外に行った授業準備・成績処理・調査報告物の作成などの業務を勤務とするような制度の見直しを行うことについてどのように思いますか」、後者の質問文は「教員にも、残業代を支払うように制度の見直しを行うことについてどう思いますか」である。回答の選択肢はいずれも、「賛成/まあ賛成/まあ反対/反対/わからない」の5択である。
- 注2:調査対象者の年代によって男女比が大きく異なっているため、男女別に分けたうえに年代別で分析を試みたところ、男女それぞれにおいてほぼ同様の結果(若手ほど積極的に賛成している)が得られた。
- 注3:たとえば部活動指導の担当において、個々の教員は「希望制」を重視していても、学校全体としては「全員顧問制」をとっている。詳しくは、拙稿「教員の部活指導 校長の苦悩」を参照。