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クリント・イーストウッド、94歳に! 心配なニュースあったが新作は完成。世界にはさらに最高齢記録も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2020年1月、89歳の時のクリント・イーストウッド(写真:ロイター/アフロ)

5月31日、クリント・イーストウッドの誕生日。今年(2024年)で94歳となった。しかも彼は映画監督として、新作を完成させたことが伝えられている。

2021年に公開された監督作『クライ・マッチョ』には、自らも出演。その後、『Juror No.2(陪審員2番)』という新作に取りかかり、すでに撮影や編集を終え、公開を待つばかりの状態である。殺人事件の陪審員を務める主人公が、自身も事件に関係していることに気づく物語。そしてこの作品で、イーストウッドは監督業を引退すると言われている。

映画ファンにとっては、イーストウッドは永遠のタフガイのイメージ。まだまだ新作を撮り続けてほしいという声もあるが、今年の3月には、エコロジー関連のイベントに出席した彼の姿がメディアに流れ、ちょっとしたショックを与えた。髪はボサボサで、体重も減ったように見えたうえ、ステージに上がるのも手助けが必要だったという。最近はめったに公の場に姿を見せていなかったこともあって、その急変ぶりに心配の声が上がったが、年齢を考えれば仕方ないことかもしれない。ただ健康面は大丈夫との報道もあり、一安心だ。

2024年3月のイベントを報じたPeopleのインスタグラムより
2024年3月のイベントを報じたPeopleのインスタグラムより

今後は他に、自身の監督作以外で、トム・クルーズが主演する『ガントレット』にプロデューサーとして名を連ねている。1977年のイーストウッド主演作のリメイクだが、製作が進むのか詳細は未定だ。

クリント・イーストウッドは、『許されざる者』と『ミリオンダラー・ベイビー』で2度のアカデミー賞監督賞を受賞。その他にも、『マディソン郡の橋』や『ミスティック・リバー』、『グラン・トリノ』、日本人キャストで撮った『硫黄島からの手紙』など、傑作を挙げたら次々と出てくる。年齢が80代になっても『アメリカン・スナイパー』、『ハドソン川の奇跡』など、力作を生み出してきた。マカロニウエスタンの『荒野の用心棒』や、ヒーローの善悪の混沌が魅力となった「ダーティハリー」シリーズで俳優として大スターになった後、監督でもここまでの大成功を収めたのは、他に類をみないケース。イーストウッドは、まさに“映画の神”である。

イーストウッドがこの年齢で新作を送り出すのも、ちょっとした奇跡であるが、世界には、彼の94歳を超えて新作を撮った映画監督もいる。有名なのが、ポルトガルのマノエル・ド・オルヴェイラ。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞(『クレーヴの奥方』)するなど世界的巨匠の彼は、遺作となった『レステルの老人』をヴェネチア国際映画祭に出したのが、なんと105歳のとき。その翌年の2015年、106歳でこの世を去った。

マノエル・ド・オリヴェイラ監督。2010年のカンヌ国際映画祭にて。このとき101歳。
マノエル・ド・オリヴェイラ監督。2010年のカンヌ国際映画祭にて。このとき101歳。写真:ロイター/アフロ

また日本には、新藤兼人監督がいる。脚本家としても多くの作品に携わり、『裸の島』や『絞殺』、『午後の遺言状』など監督作は国内外で受賞を繰り返す。あのギレルモ・デル・トロ監督は新藤監督の『鬼婆』を人生のベストムービーの一本に挙げていたほど。『一枚のハガキ』が劇場公開を迎えたとき、新藤監督は99歳。オリヴェイラと同じく、最後の作品の翌年に亡くなった。享年100歳。このような先例があるからこそ、クリント・イーストウッドにまだまだ創作意欲があるのなら、引退撤回してほしいという映画ファンは多いはず。

現役の監督では、日本映画を代表する山田洋次92歳。今年の9月で93歳なので、イーストウッドよりひとつ年下。2023年の最新作『こんにちは、母さん』からも衰えは感じさせず、山田監督から引退の言葉は聞こえてこない。そして今年3月公開の『わたしのかあさん ー天使の詩ー』を撮り上げた山田火砂子監督は、92歳。寺島しのぶ、常盤貴子が共演する同作は、70歳で監督デビューした彼女にとって長編10作目。2人の“山田監督”の次回作が待たれる。

イーストウッドの最新作にして引退作と言われる『Juror No.2』は、いつ観ることができるのか。首を長くして待っているファンも多いと思うので、1日も早い公開を望みながら、巨匠の誕生日を祝いたい。

60年前の1964年『荒野の用心棒』のクリント・イーストウッド
60年前の1964年『荒野の用心棒』のクリント・イーストウッド写真:REX/アフロ

『硫黄島からの手紙』で来日。渡辺謙と。
『硫黄島からの手紙』で来日。渡辺謙と。写真:Fujifotos/アフロ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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