タイガースアカデミー岡山校・森田一成コーチが子どもたちと甲子園に!
阪神のOBがコーチを務め、子どもたちに野球のすばらしさを知ってもらおうと始まったタイガースアカデミー・ベースボールスクール。2021年1月には、初の姉妹校として『タイガースアカデミー岡山』が開校しました。コーチは岡山出身、在住の元阪神タイガース・森田一成さん(33)です。
森田さんがタイガースアカデミー岡山校を立ち上げる際の話、その前の2017年に始めた自身の野球教室について、また阪神を戦力外となった時のことなど、2021年から2014年までの記事はこちらからご覧ください。
↓
2021年【タイガースアカデミー岡山校・森田一成コーチが受け継ぐ平田イズム「挨拶はすべての基本!」】
2020年【変わらぬ虎と地元への愛 元阪神・森田一成さんがタイガースアカデミー岡山校のコーチに】
2017年【元阪神タイガースの森田一成さん “縁”と“恩”に感謝のセカンドステージ】
2014年【レフトスタンドへ夢を運んでくれた森田一成選手 その続きは…】
◆岡山校初のイベント!
開校からもうすぐ2年になる岡山校ですが、本校のようなイベントはまだなかったとか。もちろん本校でもコロナ禍で開催できない時期はあったものの、それ以前はいろいろ行われていたんですね。それで、岡山校の子どもたちにも何かできないかと考えたのが今回の催しでした。
題して『タイガースアカデミー岡山校~甲子園体験ツアー~』。11月23日に開幕する第18回タイガースカップの初日を観戦し、全試合終了後に甲子園球場を体験するというものです。
タイガースカップは中学生硬式野球の関西No.1決定戦。シニア、ボーイズ、ヤングの3リーグの交流戦として定着しています。タイガースアカデミー岡山校は小学1年生から6年生までが対象なので、“先輩”のプレーを見学することになるわけですね。
それも楽しみだったはずなのですが、この日は朝から雨…。予定されていたタイガースカップは4試合とも中止になり、スタンドでの観戦はできませんでした。でも甲子園体験ツアーは、開始時刻を早めて実施されています。
しかもツアー中は雨もほとんど降らず、終わって解散した午後3時半頃から、なんと傘も役に立たないほど激しい雷雨に!いや~さすが、晴れの国・岡山から来られた皆さんですねえ。雨が避けてくれました。
ワクワクの甲子園体験
13時過ぎに8号門前で集合。阪神タイガースの事業本部振興部所属で、タイガースアカデミーのコーチでもある白仁田寛和さん(2007年ドラフト1位で阪神に入団。2014年オフにオリックスへ移籍。2016年に現役を引退)から説明を受けて、ツアー開始です。
ちなみに、カメラを向けると飛びっきりの笑顔で応えてくれた白仁田さんと森田さん。「同期ですよ~同期」という森田さんの言葉で思い出したんですけど、確かに2人とも2007年のドラフト組でした!この時は高校生と大学・社会人が分かれていたんですよね。
大学・社会人ドラフトの1位が白仁田寛和投手(福岡大)、2位が石川俊介投手(上武大)、3位が黒田祐輔投手(シャンソン化粧品)。高校生ドラフトの1位が、このたびトレードで阪神へやってきた高濱祐仁選手の兄・高濱卓也選手(横浜)、3位が森田一成選手(関西)、4位が清原大貴投手(常総学院)でした。
一塁ベンチ&室内練習場
話を戻しましょう。甲子園体験ツアーの一団は、まず一塁側の通路を通ってグラウンドへ。階段を上がったところで開ける球場の景色に、あちこちから「おお~」「うわ~」と感嘆の声が漏れます。ついで一塁側ベンチに入り、最初は1、2年生が座って、ついで3、4年生、最後は5、6年生。
そのあと同行の親御さん方も一緒に座って記念撮影。やはり、お父さんやお母さんの方が興奮気味でしたね。ここにいつも阪神の監督やコーチ、選手が座っているんだなあという感覚でしょうか。またベンチから見るグラウンドやスタンドの光景は格別だったかもしれません。
もちろんプロ野球だけでなく、高校野球経験者のお父さんにとっては夢と憧れの場所。今回は一塁線の手前、人工芝部分しか入れなかったものの、皆さん本当に堪能されていたようで何よりでした。
グラウンドを後にして、今度は室内練習場へ。ここでは子どもたちが、普段のレッスンと同じようにウォーミングアップ、キャッチボール、ノックなどを行いました。保護者の皆さんは中へ入れないので、入口付近で写真や動画の撮影。ただ一緒に来た弟や妹たちは入りたかったみたいですね。
恩師と一緒に立った甲子園
なお、この日のツアーに森田さんの母校である岡山・関西高校野球部部長の守安基弘先生も参加されていました。タイガースアカデミー岡山校は関西高校野球部のグラウンドで行われていて、息子の保翔(タモツ)くんもアカデミーの3、4年生クラスに通っています。
森田さんは守安先生との2ショットを撮ってもらいながら「部長と一緒に、ここへ来たんですよね~。何年前?15年ぶり?」と感慨深げ。関西高校野球部として、おふたりが一緒に甲子園のグラウンドに立ったのは2007年の春ですから、15年ぶりになりますね。
守安部長も何度か立ったベンチ前ですが「実は8年間、甲子園に出ていないんですよ」と少し寂しそうでした。ぜひ来年、戻っていらしてください!森田さんもスタンドで張り切って応援するはずです。
◆ユニホームがよく似合う稀衣ちゃん
ではここで、参加された方々の中から3家族のお話をご紹介します。
岡山県倉敷市の女の子・宗村稀衣(キイ)ちゃんは2年生。この日は母・彩さん、5歳の妹・音希(トキ)ちゃんと3人で参加していました。稀衣ちゃんは恥ずかしかったみたいで、主にお母さんのお話です。
父・和磨さんは来られなかったそうで「きょう仕事が休みになったから一緒に行ける!と思ったんですけど、雨で集合が早まってしまって起きられなくて…。残念です。稀衣の写真を撮りたかったはず」とのこと。なるほど、当初の予定より2時間以上早くなりましたからね。
アカデミーに入ったのは、稀衣ちゃんが年長さんの時に「小学校に入ったら習い事はどうする?」とお母さんに聞かれて「野球がやりたい」と答えたのがきっかけです。父・和磨さんが野球好きで、稀衣ちゃんは3歳くらいから公園でよくキャッチボールなどをしていたとか。
お母さんいわく「それでタイガースアカデミー岡山校の見学に行ったら、女性コーチもおられて安心感がありました。本人もここがいいと言うので」と、1年生の4月に入校。
今のところ女子は1人という状況ですが、稀衣ちゃんは「もともと男の子の友だちが多いから」とお母さん。じゃあ心配無用ですね。お父さんは、そのお父さんの代から阪神ファンで「娘が安心して野球のできる環境があってよかった」とおっしゃっているそうです。
高校まで野球を続けたい!
お母さんによれば「毎週楽しみに行っていますよ。家でも練習するんです。8畳の部屋を1つ野球部屋にして、ネットを張ってボールが出てくる機械(室内用のトスマシーンみたいな感じでしょうか?)を置いて打つ。マンションなので庭がないから」とのこと。
おお、自宅内に練習部屋があるんですか!それはなかなかすごいですね。「私も手伝いますけど、稀衣の打球を今はもう捕れないです。上手になったと思います。知らないうちに」。さらに、お母さんはこんな話もしてくださいました。
「本人は『高校まで野球をやる』と言っています。でも女子の野球部が公立高校ではなかなかないみたいで。倉工(倉敷工業高校)も、倉商(倉敷商業高校)も、家から近いんです。散歩した時に倉商で野球部の練習を見ていたら、監督さんがボールと帽子をくださって『おいでよ』と」
それはもう嬉しかったでしょうねえ、稀衣ちゃん。ますます行きたくなっちゃったかも。
室内での練習が終わるころに、少し本人の言葉が聞けました。阪神で好きな選手は?と尋ねたら「近本選手と、はると選手」という答え。はると選手?ピッチャーの?「う~ん…29番の」とヒントをくれたので判明。高橋遥人投手ですね。
甲子園球場のグラウンドに入った感想は「大きかった!」で、そのあと室内練習場でのキャッチボールなども「楽しかったぁ」と笑顔です。最後に、週1回の岡山校でのレッスンは楽しい?と質問したら「うんっ!」と大きくうなずいてくれました。
◆佐藤3兄弟の末っ子・吏希大くん
次は、2020年12月と2021年2月の記事でもご紹介した“佐藤3兄弟”です。
昨年4月から3人揃って在籍中で、長男・有希大(ユキト)くんが6年生に、次男・光希大(ミキト)くんが4年生に、そして三男・吏希大(リキト)くんが2年生になっていました。それぞれ5、6年クラス、3、4年クラス、1、2年クラスでレッスンを受けています。
今回は三男・佐藤吏希大くんをご紹介しましょう。前に会った時は、まだ年長さんだったので、ボールを追いかけるお兄ちゃん2人をうらやましそうに見ていたんですよね。でも誰より元気に走り回っていて、ものすごく印象に残っていました。
それを思うと、今回は話しかけても少しはにかんだ様子です。周りに「変顔!変顔!」と要求されても「いい」とそっけなく拒否(笑)。グループでの動きも協調が取れていて、ことしは年下の1年生も入ってきたせいか、すっかり“お兄さん”になったみたいですね。
ただし、話しかけたら以前と変わらないヤンチャな吏希大くんが見え隠れします。阪神の誰が好き?「てるあき!」。佐藤輝明選手ね。って…呼び捨て?(笑)。どこが好きか聞くと、隣から「同じ佐藤じゃけえ」という声が。なるほど、そういう理由もありでしょう。
アカデミーは楽しい?「楽しい!ゲームが一番好き。バッティングも好き」。ポジションは?「セカンドとサード」。ここで兄・光希大くんから「違う。ライトとセカンド」と訂正が入りましたが、吏希大くんは「セカンドとサード!」ときっぱり。
母・真弓さんによればピッチャーをやりたいみたいですよ。吏希大くんは将来、プロ野球選手になりたい?「はーい!」。どこの?「阪神!」。ですよね~。
一生のうちの貴重な2年間
ちなみにタイガースジュニアのセレクションを長男・有希大くんも受けたけどダメだったとか。でも考えたら次は次男・光希大くん、その次は三男・吏希大くんに受験のチャンスがやってきますね。お母さんいわく「3人の中で吏希大が一番ガッツあるので」とのこと。まだまだ楽しみ継続の佐藤家です。
そして、お母さんは「3人が去年は1、3、5年生。ことしは2、4、6年生。家族が一緒に同じように動けて、本当にベストでしたねえ。でも来年から長男は中学で硬式のチームへ入るので…。この2年間が、一生のうちの貴重な時間でした」と、しみじみ。
ところで、お父さんは?「きょうは仕事です。家族のために働いてもらわないと(笑)」。お父さん、これからもよろしくお願いします!
◆第1期メンバーの悠雅くん
最後は6年生の川嵜悠雅(ユウガ)くん。この日は父・博之さん、母・有紀さん、そして3歳の弟・惺葵(ショウキ)くんの4人で参加です。まずお父さんに伺いました。
悠雅くんが4年生の終わりに岡山校のことをネットで知って体験会に参加。本人が行きたいと言うので入会したそうです。さらに森田さん主宰の野球教室『Links』にも通っているので、岡山県玉野市からだと送迎も大変。担当はもちろんお父さんですよね?
「そうです。Linksの方はまだ近いんですけど、アカデミーは片道1時間ちょっとかかります」と言いながら、高校まで野球をされていたお父さん、苦にはならないという表情でした。
悠雅くんは4人きょうだいの3番目。2歳上のお兄さん(長男)が野球をやっていて、それで自分もやりたいと言って始めたそうです。「最近は阪神ファン、というかプロ野球のファンですね。チームより個人が好きみたいです」。そのあたりはのちほど本人に伺いましょう。
アカデミーに通う子たちの夢は“タイガースジュニア”に選ばれること。球団OBが監督とコーチを務め、小学6年生で結成されるチームで、年末の『NPB12球団ジュニアトーナメント』に出場します。各球団のジュニアチーム出身者がプロ入りしたこともあり、子どもたちの目標となっていますね。
そのメンバーのセレクションが夏に行われ、悠雅くんも受験しました。1次を通過し、2次の1回目もクリアしたものの、2次の2回目で不合格。最終の3次手前で涙をのんだとのことです。
「体の大きさが違った。みんな頭1個分大きかった。その場の空気にのまれましたね」とお父さん。悠雅くんはその時に148センチか149センチ(今は152センチの私をもう上回っていました!)と標準身長だったのに、周囲の子たちはゆうに160センチを超えていたとか。
夢は大きくメジャーリーガー
悠雅くん本人も「みんな160くらいあって大きかった…」と苦笑いしましたが、セレクション受験は「楽しかった!」と言います。そして「めちゃくちゃ悔しかった」とも。楽しくて悔しかった6年生の夏。この経験は必ず、どこかで生きてくるはずです。
プロ野球そのものが好きで、一定のチームではなく個人が好きだという悠雅くんの、今の推しは「坂本勇人選手と近本選手」。自身がピッチャーとショートをやっていて、セールスポイントは「足と守備」らしく、納得の名前ですね。悠雅くんも俊足、強肩だそうですよ。
ところが、こんな選手になりたいというのはあるかと聞いたら、坂本選手でも近本選手でもなく「タティスJr.」とMLBの選手名が出てきました!パドレスのフェルナンド・タティス・ジュニアですね。走攻守どころか“5ツールプレーヤー”と呼ばれ、ショートも外野も守る選手です。
悠雅くんいわく「総合的にすごい!」とのことで、来春から中学生となる自身の硬式用グローブもタティスJr.モデルにしたとか。そうですか~。これはもうメジャーまで応援しなくちゃいけません。長生きしますね。
ところで、今回の体験ツアーで甲子園のグラウンドに立った川嵜家の皆さん。お父さんは「感動ですね!やっぱり聖地ですからね!」と興奮気味でしたが、悠雅くんは「意外と狭いなあ。放り込めるかも」という感想だったとか。
それを聞いて、実際に何度も放り込んだ森田さんが「放り込めるって?さすがやなあ」と話しかけ、森田さんも悠雅くんもニコニコしていました。近い将来、それを目の当たりにできることを期待します!
◆「みんなが喜んでくれて最高!」
締めは森田一成さんのコメントです。今回の甲子園体験ツアー、子どもたちだけでなく保護者の皆さんもすごく盛り上がっておられたようですね。雨でタイガースカップの試合が見られなかったのは残念ですけど、大成功と言えるでしょう。
森田さんは「みんなを見ていたら、楽しさはもちろん何か不思議さもあったみたい。どこか(甲子園球場に)のまれたような感じ?テレビで見ていたところが急に目の前に広がるなんて、非現実的なことだから」と言っていました。確かにそれはありますね。
また「個人的には、守安先生と甲子園のグラウンドに立てたのが嬉しかったなあ。15年ぶり?あの時とは違う形で、一緒に立てると思わなかったから」と。守安先生も嬉しそうでしたね。同じユニホームで並んでいた、当時を思い出しておられたかもしれません。
「とにかく、みんなの笑顔が見られてよかった!みんなが喜んでくれたのが嬉しかった。親御さんとかも、みんなが嬉しそうだった」と繰り返したあと「で、アシスタントも嬉しくてね」と笑うので横を見たら、アシスタントコーチの皆さんが思いきりはしゃいでいました。
みんなが喜ぶイベントになってよかったですね。今後の目標としては、やはり岡山校からタイガースジュニアが誕生すること?「そうですね。去年も最終まで残った子はいたけど、まだなので」
「それもあるけど、野球人口が減っているので、これを機に増えたら一番いいかなと思います。岡山は今、J1昇格を目指しているファジアーノ岡山の影響もあってサッカー熱がすごいから。負けちゃいられないですね」。なるほど、野球人気を高めるためにも頑張りましょう!
周囲の方々の支えに感謝
「阪神をクビになって、年数が経つにつれ、いろんな人に支えられて助けられて、幸せに生きていると感じます。それとともに、助けてくれる人たちのお陰で周りの人が喜んでくれていることのありがたさが増すんだ、と。改めてそう思った一日でした」
そして「プロ野球選手だったって、すごいことなんや!と実感(笑)」と言ったあと、こんなふうに締めくくりました。「球団振興部の井筒さん、泰(中村泰広)さん、にた(白仁田)さんのお陰です。こういうイベントをしてもらって、本当にもう感謝しかないです!」
先輩も同期も後輩も、さらには力を貸してくださる方々もいて、自分はすごく恵まれている。本当に運がいい。と常に森田さんは話しますが、これは本人の人柄によるものでしょうね。これから先もずっと、その“縁”に“恩”を返していく日々は続きます。
<掲載写真は筆者撮影>