タイガースアカデミー岡山校・森田一成コーチが受け継ぐ平田イズム「挨拶はすべての基本!」
もと阪神タイガースの森田一成さん(31)がコーチを務めるタイガースアカデミー岡山校は、ことし1月18日に開校しました。タイガースアカデミー初の姉妹校として、森田さん自身が運営にも携わっています。その経緯と、昨年11月30日に行われた無料体験会の様子はこちらの記事でご覧ください。→《変わらぬ虎と地元への愛 元阪神・森田一成さんがタイガースアカデミー岡山校のコーチに》
開校してまもなく1か月経ちますが、その前の2月8日に講習会場の関西高校第2グラウンドへお邪魔してきました。風がかなり強くて寒い日だったものの、最初のクラスが始まる頃はまだ明るかったですね。11月末に比べると、ずいぶん日が長くなったのを実感。また、この日は開校して2度目となる“ゲーム”も各クラスで行われました。
随時、無料体験者を受け入れており、その子も含めて実戦みたいな形式で行うゲームは、みんな楽しみな様子。なお1、2年生クラスは黄色いテニスボールを使って打って走るのですが、一塁側のライン沿いにある“輪っか”にバットを置いていかねばなりません。これがなかなかできない子どもたちに笑っちゃいます。
森田コーチが「バットは投げちゃダメ。置いて、そこに置いて!」と繰り返しても無理でした。輪っか付近にバットを置くだけで1得点というルールでも、打ったら走るのに必死で、なんとバットを三塁側へ飛ばす子もいれば、逆に通りすぎてからわざわざ戻って置いていく子も。本当にさまざまですね。
タイガースジュニアは大人気
森田コーチは約1か月を振り返り「みんな楽しんでやっていますね。無料体験会とは全然違う。体験会で出会っていた子はいるけど、そうでない子も多いのに、もうみんな仲がいい。子ども同士は早いですね」と笑います。毎回、その日の講習が始まる時にキャプテンを決めていて「立候補制。1、2年生はみんなやりたがるから、一巡するまでは待ってと言っている」そうです。
また「タイガースファンの子と、タイガースジュニアに入りたい子が多いのにビックリしました!」とのこと。
プロ野球の球団がそれぞれジュニアチームを結成し、年末に『NPB12球団ジュニアトーナメント』が開催されているのは、皆さんよくご存じでしょう。各球団が推薦および編成した小学5、6年生で構成されるチームで、今や本格的にセレクションを行ってメンバーを選んでいます。そして何より、ここ数年はジュニアチームに所属した選手が数多くプロへ入っていることも話題です。
阪神の場合、これまでタイガースジュニアを経験してプロに入った選手はいて、また高山俊選手(2005年度)のように他チームジュニア経験者が阪神に入ったこともあります。しかしタイガースジュニアからの阪神入団は、ことしのドラフト1位ルーキー・佐藤輝明選手(2010年度)が初めてなんですね。残念ながらタイガースアカデミー岡山校の子どもたちは、そこまで知りませんでしたけど。
関西以外に住む選手でも、練習に必ず参加するという条件がクリアできれば応募可能だそうです。親御さんのサポートは必須ってことですね。しかも兵庫県の隣でタイガースファンの多い岡山県、夢はまずタイガースジュニア!という子どもたちは多いでしょう。もちろん、そうではなく野球初心者の子もいます。
今は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、各クラスとも20人までという制限つきですが、4月開講分からは通常の30人ずつになるそうです。ちょうど、きょう15日から先着順による申込みがスタートしました。また新たな顔ぶれが増えるかもしれませんね。
さて、それでは現地で聞いてきた話をご紹介しましょう。
おなじみ?佐藤3兄弟
11月末に行われた無料体験会の際、佐藤3兄弟について書いたのを覚えていらっしゃるでしょうか?小学4年生の有希大(ゆきと)くん、2年生の光希大(みきと)くん、そして年長さんの吏希大(りきと)くんです。詳しくは冒頭に“→”をつけて貼りつけた記事でご覧ください。
この日は自身の講習終了後に「楽しい!時間が短すぎる」と息を弾ませた、3兄弟真ん中の光希大くん。「一番楽しかったのはゲーム」だそうで、マスクをし忘れるほど熱中していまい、森田コーチから「マスク、マスク」と言われて取りに走っていましたね。保育園の時から野球を始め、梅野選手に憧れてキャッチャー志望。近本選手も好きな2年生です。
一番下の吏希大くんはお兄ちゃん2人の練習をお母さんと一緒に見学するだけでしたが、4月からはピカピカの1年生!満を持して1、2年クラスに入る予定です。お兄ちゃんはそれぞれ進級して5年生と3年生になるので、佐藤家3兄弟が全クラス制覇しちゃいますね。付き添いのご両親が大変でしょう。
母・真弓さんは「いえいえ。子どもたちが楽しくやっているので。今だけですよ。小学校が一番大変と皆さんおっしゃっています」と笑っておられました。そして「やっぱりタイガースジュニアチームに入りたい!セレクションを受けたい!というのがあって。去年(2020年)のチームにも、岡山から何人か入っているんです」とのこと。2つ違いの3兄弟、楽しみも3倍ですね。
突如始まったドラフト会議?
ここでちょっとゲームでの話をご紹介します。1、2年生は打ってからバットを置いて走るというものでしたが、3、4年生クラスは交代で守備にもついています。そして5、6年生は4人しかいないので2人ずつがチームを組み、開始前に自チームに欲しいコーチを指名する『ドラフト会議』が行われました。
まずコーチ陣が子どもたちに向かって何やら話しています。少し近づいて聞いてみたところ、どうやら指名を勝ち取るための自己アピールみたいで「僕のセールスポイントは…」と、そこそこ真剣に売り込んでいましたよ。「打ちますが走れません」なんてのもあったような。コーチ同士はウケていたけど、子どもたちは真面目に検討中です。
やがて相談がまとまり、一巡目の発表となったのですが…なんと2チームとも同じコーチを指名しちゃいました。森田コーチは大爆笑!プロ野球のドラフト会議では抽選が行われる場面ですが、ここではシンプルにじゃんけんです。結局、ゲームは見られなかったため、競合の末に獲得が決まったドラフト1位コーチはどんな活躍をしたのかは不明。また聞いておきます。
バッティングが得意な大凱くん
森田コーチが「たいが、たいが」と呼んでいた辻井大凱くんは4年生。お父さんの亮太さん(38)もタイガースファンです。それで息子さんの名前も“たいが”?「そうです(笑)」。ちなみに誰がお好きですか?「もういないけど…鳥谷選手が」。岡山には鳥谷選手ファンの方が多いですねえ!ここでお話を伺ったお父さんやお母さん方は、ほぼ鳥谷選手の名前を出されました。
大凱くん本人にも聞きましょう。誰のファンですか?「梅野選手です。キャッチャーをやっているので」。なるほど。子どもたちには梅ちゃんが人気です。
ちなみに小学1年生の時、森田コーチが経営している野球教室『Links』の体験会に参加した大凱くんですが、まだ1年生と小さかったこともあり、その時は正式加入を断念。4年生になった今、タイガースアカデミー岡山校ができると知ったお父さんから「どうする?」と聞かれた大凱くんは「入りたい」と答えました。
正式に開校してから1か月弱ながら「楽しそうですね。すぐみんなと仲よくなっていましたよ。もう1回目、2回目くらいで早くも」とお父さん。大凱くん本人も「他のチームの人と一緒にできるのが楽しい」と言っていました。野球チームに所属している子も参加していて、知り合いでなくても「あ、あのチームの子がいる」という面識程度はあり、それが一緒に練習するわけですからね。
森田コーチは優しい?「優しいです」。練習はどう?「楽しい!ゲームが楽しい」。やっぱりそうでしょうね。何が一番好き?「うーん。バッティングが得意です」。お~それは楽しみ。そんな大凱くんにも、やはり「タイガースジュニアに入りたい」という夢があります。その先には、高校野球で甲子園を目指し、そして阪神タイガースへ。私も一緒に追いかけてみたい夢です!
野球に初めて触れた励皇くん
タイガースアカデミーは、そういう子どもたちの夢を応援していますが、それだけではありません。小さい時から野球に親しんで好きになってもらって、野球の素晴らしさや楽しさを知ってほしいというもの。だから、一度もボールを握ったことがない、バットを持ったことがない子も大歓迎なんですよね。
4年生の湯浅励皇(れお)くんは、ここで初めて野球に触れました。本人が講習を受けている時間、お母さんの由佳さんに伺った話をご紹介します。
野球は?「まったく経験ありません。キャッチボールすらやったことがない。でも私の弟が大学までずっと野球を続けていたので、甥の励皇にも野球をやってほしかったみたいですね。そんな時、森田コーチより先に知り合っていた森田コーチの奥さんがLINEで1枚の画像を送ってきてくれて、それがアカデミーのチラシでした」
へえ~!先に奥さんとお知り合いだったとは。これこそ森田さんが一番大事にしている“縁”でしょう。その縁でタイガースアカデミー岡山校が始まると知り、昨年12月に開催された無料体験会へ参加されたわけですね。
「ソフトボールもやらせようかと考えたことがあったけど、とにかくヤジがすごいから…。大人の男性との接点があまりないので怖いんですよね」。たとえ威圧的でなかったとしても、大きな声で何かを言われるのは励皇くんにとって、すごく怖い。それで萎縮し体が固まってしまうこともあるでしょう。
「だから本人にも聞きました。大丈夫?って」。ところが、無料体験会のあと「やりたい!」と自分からお母さんに言った励皇くん。「俺は野球をやりたい。ここでやりたい」と宣言しました。小学校卒業までやると約束しているサッカーも続けながら、毎週月曜は野球の日です。
大人の男性である森田コーチですが、お母さんいわく「“ゆあさ”じゃなく、れお!れお!って呼んでくれるのが嬉しいですね。森田コーチは本当に優しい。本人もやる気になるみたいです。通りすがりに何か必ずアドバイスをくれる。こんなに人数が多いのに」とのこと。
なお3、4年生クラスのゲームで、野球未経験の励皇くんはピッチャーの投げる球になかなかバットを当てられないので、ティー打撃用のティーにボールを置いて打って走りました。終了後に聞くと「楽しかった!」という感想。何が一番?「投げるのが楽しい」。どのポジションをやってみたい?「レフトをやりたいです。遠くに飛んできた(打球)のを捕るのが楽しい!」
野球は続けますか?「はい」。中学に行ったらどうする?サッカー?とこれはお母さんからの鋭い質問。「それはもう野球」。おっ、言い切った!これにはお母さんも少しビックリされたみたいです。好きな選手がいるかという問いには「大谷翔平」と回答。
月曜日が待ち遠しい!
お母さんは、弟さんがやっていたとはいえ野球について全然わからないそうですが、励皇くんの楽しげな様子をとても歓迎されています。そしてこんなエピソードを教えてくださいました。
「先週の金曜日、サッカーへ行く途中に励皇が『はよ月曜日が来んかなあ』と言うので、月曜?何で?と聞いたら『野球』と。へえ~と思いましたね。その次の日に『月曜日まだ来んかねぇ』、日曜日にもまた同じことを言っていた(笑)。きょうは私が車で迎えに帰ったら、何と!もう着替えて家の前に出て待っているんですよ。グローブを片手に」
お母さんは本当に驚いたと目を見開いて話され、そんな表情がすごく幸せそうに見えて、私は一緒に笑いながら涙が出そうになりました。明るく前向きにいろんな話をしてくださったお母さんですが、子どもたちのため一生懸命に働いてこられた中で、数えきれないほどの不安や苦労があったと思います。だからこそ、チャレンジする励皇くんの姿は何よりの贈り物なんだと感じました。
きょう15日もきっと励皇くんは、早々に着替えてグローブを手にお母さんの車を待ち構えていたことでしょう。
この話を森田コーチに伝えたら「嬉しいなあ」とにっこり。アカデミーでは、ボールを投げる、受ける、そんな動作を覚えてくれたらいいと言い、野球は楽しいってことを教えてあげたいと話す森田さんなので、始めたばかりの励皇くんが首を長くして月曜日を待つ話はコーチ冥利に尽きますね。
そうそう、お母さんが名前を呼んでくれてありがたいと。「頑張って覚えてるんよ!4月からはアカデミー本校と同じTシャツになるので背中に名前入りだけど、今は顔で覚えないと」。マスク着用が必須だし、みんな同じようなウエアを着ているし、大変でしょう?でも覚えてもらった子どもはすごく嬉しいという気持ちもわかっているはずで「覚える努力をしている」と言います。
また、お会いした親御さん方が「みんな挨拶がちゃんとできますね」と感心されていた点は「大きな声は出さないようにしているけど、挨拶はしっかりしなさいと言っています。そこは厳しく。それが平田イズムじゃけぇ!」と言ってニヤリ。阪神時代、厳しく指導してもらった平田勝男ファーム監督の名前は今もよく出てきます。
現役時代に「僕は褒められて伸びるタイプだから、怒られると…」が口癖の森田コーチでしたし、本当にもう怖くて仕方なかったという平田監督だけど、教わったことは忘れずに守っています。アカデミーに通う子どもたちは、プロ野球選手を目指すにしても、まだ夢は定まっていないにしても、挨拶だけはきちんとできる人になってほしい―。それもまた森田コーチにとって阪神タイガースへの恩返しと言えるでしょう。
《掲載写真は筆者撮影》