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どうなる、地球温暖化時代の「冬季五輪」

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 日本人選手の活躍もあり、韓国ピョンチャン冬季オリンピックが盛り上がっている。この後、3月には冬季パラリンピックも開かれる予定だ。

温暖化の最悪シナリオとは

 ところでトランプ米大統領が何を言おうと、人為的な二酸化炭素排出による気候変動により地球が温暖化し続けているのは事実だ。もっとも温暖化のすべてが「悪」というわけではないが。

 そんな暖かくなりつつある21世紀の地球では将来の冬季オリンピック開催が危うい、という論文(※1)があったので紹介したい。これはカナダのウォータールー大学などの研究グループによる調査研究で、参加研究者の所属はオーストリアのインスブルック大学、米国のミシガン州立大学、中国の北京大学と多彩だ。

 冬季オリンピック・パラリンピックは、オリンピックが2月、パラリンピックが3月に行われることになっている。ピョンチャンの次は2022年の北京大会で、2026年以降は未定。これまで南半球で開かれたことはない。

 研究者は、冬季オリンピックという寒冷な地域に限定的なスポーツ大会が、気候変動と温暖化に強く影響されるのではないかと考え、温暖化のシナリオを強弱2つのパターンで比較した。これは代表的濃度経路(Representative Concentration Pathways、以下、RCP)と呼ばれ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書を作成するために立ち上げられた統合評価モデルコンソーシアムが開発したシナリオだ(※2)。

 RCPは2100年までに想定される4つのシナリオからなる。単位のW/平方メートルは放射強制力といい、数値が高いほど地球を暖める影響力が強くなる。

・RCP8.5:2100年時の温室効果ガスの最大排出量を想定したシナリオ。12W/平方メートル。

・RCP6.0:気温が最大摂氏4.9度上昇するシナリオ。2100年時に6.0W/平方メートル。

・RCP4.5:2100年時のPCP6.0を150年かけて4.5W/平方メートルに抑えるシナリオ。

・RCP2.6:将来排出量が最も低いシナリオ。将来の気温上昇を摂氏2度以下に抑えることが目標。2.6W/平方メートル。

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RCPシナリオに基づく放射強制力(W/平方メートル。実線がRCPシナリオで定める4つの放射強制力の経路。破線は比較のためのもので、従来のSRESシナリオに基づいて求めた放射強制力)。小さな枠内はRCPシナリオに対応する化石燃料からの二酸化炭素排出量。Via:文部科学省「RCP(代表的濃度経路)シナリオについて

2080年代の候補地は4カ所だけに

 この論文では、最も楽観的なRCP2.6と悲観的なRCP8.5で比較した。すると、RCP2.6でみた場合、2月に開かれるオリンピックは2050年代に21候補地(以下同じ)のうち13カ所、2080年代では12カ所でしか開催されなくなる恐れがあり、3月に開かれるパラリンピックは10カ所でしか可能性がなくなるという。

 RCP8.0のシナリオになった場合はさらに悲惨だ。オリンピックは2050年代に10カ所、2080年代には8カ所、パラリンピックは2050年代に8カ所、2080年代には4カ所でしか開催できなくなる可能性がある。

 オリパラを同じ開催地で行う場合、最悪、2080年代には世界でアルベールビル(フランス)、カルガリー(カナダ)、ソルトレークシティー(米国)、北京(中国)の4カ所しか立候補できなくなるかもしれないのだ。ちなみに最悪シナリオで札幌は、2080年代3月にパラリンピック開催ができなくなる可能性が高い。

 冬季オリンピックの第1回大会は1924年のシャモニー(フランス)で、その歴史はまだ100年にならない。夏季大会での東京オリンピックは1964年だったが、実際には15年戦争中の1940年に開かれる予定だったのは有名な話だ。

 軍部の圧力で夏季大会の開催権が返上されたが、同じ1940年に札幌での冬季オリンピック招致をしており、本来ならこちらもアジアで初めての冬季オリンピック(第5回大会)になるはずだった。

 冬季オリパラは開催地域が限られ、用具も高度化されて高価なものばかりだ。選手たちの肌の色や人種をみればすぐにわかる。例えば最近話題になっているボブスレーなどをみても、競技場所は限られ、用具の開発にもけっして安くはない資金が必要となるように、参入障壁の高い大会なのは確かだ。

 このまま温暖化が進めば、冬季五輪を開催できる国はもちろん、参加できる国もどんどん少なくなっていくだろう。そもそも冬のスポーツ自体ができなくなるかもしれないのだ。

※1:Daniel Scott, et al., "The changing geography of the Winter Olympic and Paralympic Games in a warmer world." Current Issues in Tourism, Vol.18, Issue10, 2018

※2:文部科学省:RCP(代表的濃度経路)シナリオについて

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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