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Jリーガーの海外移籍のトレンドと移籍金の「裏側」を代理人田邊伸明氏に聞いてみた

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
株式会社ジェブエンターテイメント代表取締役田邊伸明氏(スタッフ撮影)

プロサッカー選手の代理人、田邊伸明氏にJリーガーの移籍事情を伺う連載コラム。前回は日本代表DF冨安健洋選手のビッグクラブ移籍の可能性について聞いたが、第2回となる今回はJリーガーの欧州移籍における昨今のトレンドについて話を伺った(取材日:2019年1月30日)。

Jリーガーの海外移籍先の主流がドイツでなくなった理由

アシシ:まずは東京五輪世代の海外移籍について、話を聞かせてください。一昨年、堂安律がオランダのフローニンゲンに移籍し、昨年は冨安健洋がベルギーのシント=トロイデンに移籍しました。更に今年は中山雄太がオランダのPECズヴォレ、板倉滉が堂安のいるフローニンゲンに移籍と、東京五輪世代の欧州移籍が相次いでいます。最近のJリーガーにおける海外移籍のトレンドについて、どう思われますか?

田邊:トレンドという観点で言うと、少し前まではJリーガーが海外移籍するならドイツ、というのが主流でした。日本人の生活的にもドイツが合っていますし、ドイツ人の気質的にも日本人に対して理解があり、移籍先の環境としては日本人にフィットしていました。しかし、最近はそのトレンドに陰りが見えてきました。

アシシ:確かに最近、ブンデスリーガのクラブへ移籍する日本人をあまり見なくなりました。それはなぜですか?

田邊:誤解を恐れずに言うと、ここ数年、ブンデスリーガで失敗する日本人選手が増えてきたからです。海外移籍の成功と失敗の定義はすごく難しいですが、目立った活躍例で言うと、クラブのブンデスリーガ優勝に貢献した長谷部誠や香川真司は、明確な成功例と言えますよね。それ以来、成功と定義できる日本人の移籍が極端に減ってきていて、ドイツのクラブが日本人選手を獲得するのに尻込みするようになってきたのが実情です。

アシシ:だから最近、その周辺諸国、ベルギーやオランダなどへの移籍が増えてきているわけですね。

田邊:ブンデスリーガであれば、中堅クラブでもそれなりの移籍金を払える財力がありますが、ベルギーやオランダとなると、上位クラブ以外には潤沢な予算があるわけではありません。それに対して、選手を移籍させる側のJリーグのクラブは、代表クラスの選手を放出するからには、それなりの移籍金が欲しい。なので、Jクラブとしてはお金を持っているクラブに移籍させたいんですが、選手本人が最も重視するのは出場機会です。よって選手の意向としては、1部リーグの中でも中堅クラブあたりに移籍したい。でもそうすると、目標とする移籍金がJクラブに入らない。

アシシ:三者三様の事情により、そういったジレンマに陥るわけですね。

田邊:そうなんです。そこで、それら三者の事情を汲み取るために落としどころを探った結果、弊社が手掛けた移籍が浅野拓磨のアーセナル移籍です。まずは予算規模が桁違いのアーセナルに買ってもらって、そこからのレンタル移籍先は自分たちで探す、という形です。アーセナルは広島に大きな移籍金を払っていますが、彼らのクラブ規模からすると小さな金額なわけです。

ビッグクラブが選手をレンタルで出す目的

アシシ:予算が潤沢なビッグクラブを間に挟むことで移籍金問題を解決させると。そうするとひとつ疑問なんですが、間に入って移籍金を払うだけのビッグクラブにとってのメリットは何ですか? わざわざ買い取ってレンタルで出す目的は?

田邊:まずは試合に出させることで欧州のフットボールはもちろん、ヨーロッパの文化や習慣に慣れさせるのが、レンタルで出すことの目的です。イングランドの場合はビザの問題があるからなおさらです。さらにレンタル先でその選手が活躍して市場価値が高まれば、次のステップアップの移籍で最初の投資額を上回る移籍金が手に入る可能性もあります。

アシシ:となると、ビッグクラブは転売目的で若手を買っている、ということですか?

田邊:いえ、そんなことはありません。ビッグクラブは最終的には、自クラブでの活躍を前提にして選手を獲得しています。ただし、アダプテーション(適応)のリスクの有無はプレーさせてみないとわかりません。レンタル先で急激にレベルアップする選手もいれば、適応できない選手もいる。だからまずは試合に出場できる環境を与えるわけです。

アシシ:なるほど。浅野拓磨のアーセナル移籍を例に挙げてもらいましたが、先日マンチェスター・シティに買われて、フローニンゲンにレンタルされた板倉滉も同じケースですか?

田邊:そうですね。鹿島の植田直通も、昨夏にベルギーのサークル・ブルッヘに完全移籍しましたが、あのクラブはフランスのモナコの下部組織的な位置付けなので、お金の流れ的には実質モナコに買われたようなものです。

アシシ:なんと。植田選手の移籍のケースも、そうやって移籍金の問題を解決しているわけですね。

田邊:そういう解釈ができます。大きなお金を日本のクラブに残すために知恵を絞った結果、編み出されたやり方と言えます。

アシシ:まさに代理人にしか語れない、舞台裏の話ですね。

田邊:ビッグクラブを間に挟む形の移籍が、ここ数年で3例できました。今後は、この仕組みによる欧州移籍がトレンドになるかもしれません。

(了)

田邊伸明氏インタビュー連載コラム

【第1回】日本代表DF冨安健洋はビッグクラブに移籍可能か? 担当の代理人に直接聞いてみた

【第3回】「サッカーの代理人って普段どんな仕事してるの?」 エージェント田邊伸明氏に聞いてみた

【第4回】サッカー代理人がベンゲルから学んだ「移籍先を選ぶ時に最も重視すべき点」

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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