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新生「アーケードゲームの祭典」 現地で見た展望と課題

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「アミューズメント エキスポ」のプライズフェアコーナー(※筆者撮影。以下同)

アーケードゲームの業界団体、JAIA(一般社団法人 日本アミューズメント産業協会)が主催するイベント「アミューズメント エキスポ in TOKYO BIG SIGHT」が、11月25日に東京ビッグサイトで開催された。

「アミューズメント エキスポ」(※旧称「ジャパン アミューズメント エキスポ」)は、ゲームメーカーをはじめプライズゲーム用の景品、およびゲーム関連機器の製造、販売などを手掛けるメーカー各社が出展する毎年恒例のアーケードゲームの展示イベントで、全30社が出展した。来場者は、各社が出展した最新のアーケードゲームを無料で遊べるだけでなく、新作情報やゲーム大会などのステージイベントを自由に見ることができる(※入場料は有料)。

本イベントは、前回までは毎年2月に、幕張メッセで2日間にわたり開催(※初日は業界関係者のみ入場できるビジネスデイで、一般公開は2日目のみ)されていたが、今回から開催時期を11月に変え、期間は1日だけに変更した。

「アミューズメント エキスポ」会場
「アミューズメント エキスポ」会場

なぜ本イベントは開催時期を変更し、1日だけの開催になったのか? その答えは、今までは主にメーカーとオペレーター(※ゲームセンターの経営会社)による商談の場として運営されてきた本イベントを、今後は一般のゲームファンがより楽しめるような展示に注力するとの方針をJAIAが打ち出したからだ。

はたして、新生「アミューズメント エキスポ」は、JAIAの目論見どおりのイベントとなったのか? 以下、筆者が会場に足を運んだうえで気付いた、本イベントならではの面白さや今後の課題などをお伝えする。

フォトスポットとステージイベントが目白押し

本イベントの筆者の第一印象は、今までとは違ってスーツを着た業界関係者の姿が目立たなくなったこと。各社のブース内に商談スペースを用意せず、新たに展示ホールの角に「ビジネスエリア」を設けたのがその要因だろう。

商談スペースに代わって目立っていたのが、ゲームのキャラクターや新作プライズ(景品)などと撮影ができるフォトスポットだった。特にプライズ関連の出展コーナーでは多くのフォトスポットが設けられ、ブースによっては着ぐるみとの撮影会も実施され、多くの親子連れの客が楽しそうに参加していたのも好印象だった。

会場には、プライズゲーム用の景品やキャラクターを飾ったフォトスポットがあちこちに登場。写真はフリューブースのフォトスポット
会場には、プライズゲーム用の景品やキャラクターを飾ったフォトスポットがあちこちに登場。写真はフリューブースのフォトスポット

各メーカーのブースで開催されていた、アーケードゲームならではのステージイベントも総じて面白かった。

例えばタイトーブースでは、同社直営のゲームセンターと、オンラインクレーンゲーム「タイトーオンラインクレーン」で実施された予選を通過したプレイヤーが参加した、クレーンゲーム実力ナンバーワン決定戦「第3回クレーンゲーム選手権」が開催されていた。

またコナミアミューズメントは、メイン会場とは別の1ホールを丸ごと使用したうえで、同社が毎年行っている恒例のゲーム大会「KONAMI Arcade Championship2023」の決勝ラウンドを開催した。本大会は、同社製の定番音楽ゲーム「beatmania IIDX 30 RESIDENT」から、メダルゲーム「エルドラクラウン 紅蓮の覇者」に至るまで一挙14タイトルを使用した、実に大きな規模の日本一決定戦であった。

タイトーブースのステージで開催された「第3回クレーンゲーム選手権」
タイトーブースのステージで開催された「第3回クレーンゲーム選手権」

数あるステージイベントの中でも最も盛り上がっていたのは、特設ステージで開催された各社の音楽ゲームに楽曲を提供したアーティスト、声優などが出演するライブ「AMUSEMENT MUSIC FES 2023」だった。

本ライブの入場チケットは1枚6000円と高価ながらほぼ満員となり、無料で入れる立見スペースも時間の経過とともにどんどん人が増え、多くの人がサイリウムを振り回す光景は壮観だった。以下の埋め込みは、セガのX公式アカウントに掲載された本ライブのステージ写真である。

プライズゲームは花盛りの一方、他ジャンルの新作タイトルは少数

現在のオペレーション(ゲームセンターの)売上高は、プライズ(景品)ゲームだけで全体の約60パーセントを占める。今回の会場は、そんな市場トレンドを反映するかのように、新作プライズの展示とクレーンゲームの体験コーナーが例年にも増して目立ち、多くの来場者を集めていた感がある。

対象的に、ビデオゲームやメダルゲームの新作は非常に少なく、すでに発売または配信中のタイトルも少なからず展示されていた。とりわけ、長年にわたりビデオゲームに親しんでいるコアなファンにとっては、物足りなさや寂しさを覚えたことだろう。

プライズフェアコーナーは、どのクレーンゲームも開場直後から1時間以上の待ち時間ができるほどの大盛況に
プライズフェアコーナーは、どのクレーンゲームも開場直後から1時間以上の待ち時間ができるほどの大盛況に

新作が少ない中でも、バンダイナムコアミューズメントの人気シリーズ最新作「アイドルマスター ツアーズ」と、コナミアミューズメントの新作音楽ゲーム「ポラリスコード」は、いずれも開場直後から多くの来場者が押し寄せて長蛇の列ができていた。前者に至っては、プレイするための整理券が開場からたった15分(!)で配布を終了し、キャンセル待ちの行列もできるほどのすさまじい人気を集めた。

昨今は目立ったビデオゲームのヒット作が出ていないこともあり、両タイトルによって再びビデオゲーム目当ての客が増え、全国各地の店舗が盛り上がることを期待せずにはいられない。

こちらも大賑わいとなった、バンダイナムコアミューズメントブースの「アイドルマスター ツアーズ」
こちらも大賑わいとなった、バンダイナムコアミューズメントブースの「アイドルマスター ツアーズ」

eスポーツ関連の出展から見えた、アーケードゲーム業界の大きな課題

タイトーブースには、すでにカプコンが家庭用で発売中の対戦格闘ゲーム「ストリートファイター6」のアーケード版が出展されていた。多くの来場者が集まっていたのだが、残念なことに本作の撮影は(報道関係者も含め)一切禁止されていた。

その一方で「本家」のカプコンブースでは、同社直営のゲームセンター3店舗で運営中のeスポーツ施設「CAPCOM eSPORTS CLUB」の体験コーナーを設け、家庭用の「ストリートファイター6」が遊べるだけでなく、eスポーツ大会を模した実況、実演も行われていた。

今回出展されたアーケード版は開発中のバージョンゆえ、権利上の問題が発生する恐れがあるため撮影NGになったものと思われる。だが、プラットフォームこそ異なるが、同じゲームが同じ会場で出展されているにもかかわらず、片方では撮影OKで、もう片方ではNGである状況は、ファン目線で見れば不自然以外の何物でもなく、せっかくの宣伝の機会も逃しているように思われる。

カプコンブースの「ストリートファイター6」を使用した「CAPCOM eSPORTS CLUB」体験コーナー
カプコンブースの「ストリートファイター6」を使用した「CAPCOM eSPORTS CLUB」体験コーナー

セガブースでは、1997年に同社が発売した懐かしの対戦格闘ゲーム「バーチャファイター3tb」をオンライン対応にした「Virtua Fighter 3tb Online」を、11月28日より稼働開始するとの発表があった。

ところが、である。実はセガでは、同じシステム基板上で2021年から「Virtua Fighter esports」を稼働させており、すでに公式全国大会を実施した実績もあるのだ。今後は「Virtua Fighter 3tb Online」でも同様の大会を実施するのか、そして、わざわざ「esports」の名を冠した「Virtua Fighter esports」は、今後どのように運営を続けるのか? プレイヤーが混乱しないよう、近々の運営についての詳報も同時にアナウンスしてほしかった。

今や多くの対戦格闘ゲームは家庭用が常に先行し、アーケード版の発売、あるいはオンラインアップデートが後回しにされることは、もはやプレイヤー間では常識になっている。この状況では、今後もゲームセンターにおける対戦格闘ゲームの将来には悲観的にならざるを得ない。

前述の「KONAMI Arcade Championship2023」は、各競技のレベル自体は文句の付けようがなかった。だが、メインの会場とは客導線がつながっておらず、その規模の大きさとは裏腹に、一般来場者はあまり足を運んでいなかったように見えたのも、筆者が大いに気になったところだ。

本大会の会場は、メイン会場からは自動ドアを隔てた別の建物に移動する必要があり、また本大会の看板も全然目立っていなかったので場所がわかりにくく、中には筆者が開催ホールを教えるまで本大会の存在にすら気付かなかった同業者もいた。

ゲームセンターは風営法によって厳しく規制されているので、ゲームの結果によって賞金や賞品を提供する方式のeスポーツ、あるいは対戦イベントなどを店内で実施することはできない。この大原則を踏まえつつも、実はアーケードゲームならではのeスポーツ大会が開かれていることを、多くの人に生で見てもらえるまたとない機会だっただけに、非常にもったいなかったように思う。

さらに言えば、当日は国体の文化プログラムの一環として、2019年から行われている「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の開催日でもあった。特にeスポーツに関心が高い、Z世代とも呼ばれる若年層にアーケードゲーム、あるいはゲームセンターの楽しさを訴求するのであれば、はたして主催者が選んだ11月25日は開催日として適当だったのか、ここにも疑問の余地が残る。

「KONAMI Arcade Championship2023」の会場となったホールはメイン会場から離れており、場所がわかりにくかったのが残念だった
「KONAMI Arcade Championship2023」の会場となったホールはメイン会場から離れており、場所がわかりにくかったのが残念だった

会場内で感じられなかった「ゲームセンター」の存在

新生「アミューズメント エキスポ」において、筆者が最も残念に思ったのが、アーケードゲームの展示イベントでありながら、会場内で肝心の「ゲームセンター」の存在がほとんと感じられないことだった。

唯一、新業態をアピールすることで店舗の存在が明確に伝わってきたのが、今回が初出展となった大手オペレーターのGENDA GiGO Entertainmentブースだ。同社のブースは、東京都新宿区に今冬オープン予定のポーカールーム「FLIPS」の体験コーナーを設け、各テーブルではディーラーが初心者でも遊べるようにレクチャーをする、ほかのブースとは一線を画す出展であった。

同社以外のブースでは、現在各社が注力するオンラインクレーンゲームの体験コーナーが非常に目立っていた。オンラインクレーンゲームを宣伝するなとは言わないが、特に直営店を持つメーカーは、リアルの店舗に行けばどんな遊びが体験できるのかを、もっと知ってもらうための工夫があってもよかったように思えてならない。

近々オープン予定のポーカールーム体験コーナーを設けていたGENGA GiGO Entertainmentブース
近々オープン予定のポーカールーム体験コーナーを設けていたGENGA GiGO Entertainmentブース

また、ビジネス重視の展示から方針転換を図ったのであれば、一般来場者が興味を持ったゲームがどこに行けば遊べるのか、自分の生活圏にそもそも店舗が何軒存在するのかなど、ゲームセンターがもっと身近に感じられる仕掛けを主催者が用意すべきだったようにも思われる。

冒頭に写真を掲載した、主催者企画の「プライズフェア」や「メダルゲーム体験会」コーナーは、特に前者はたいへん賑わっていた。ゲームセンターの店舗数が減少し続ける昨今、今後の業界の活性化のためにも、店の存在を少しでも多くの人に知ってもらうための仕掛け作りが、今後ますます重要なポイントとなるように思えてならない。

主催者企画による、新旧メダルゲームが遊べる「メダルゲーム体験会」コーナー。このようなコーナーは、もっとスペースを広く割き、設置台数を増やしたほうがよかったかもしれない
主催者企画による、新旧メダルゲームが遊べる「メダルゲーム体験会」コーナー。このようなコーナーは、もっとスペースを広く割き、設置台数を増やしたほうがよかったかもしれない

一般来場者は前回に比べ減少。今後はプロモーションにもさらなる尽力を

JAIAの発表によると、今回の一般来場者数は5816人で、ビジネスおよび報道関係者の来場者数の合計は3141人であった。今年2月に開催された、前回の一般来場者数は8026人、ビジネスおよび報道関係の来場者数は(※2日間合計で)6348人だったので、一般来場者数は残念ながら減少となってしまった。

来場者数が増えなかったのは、新作タイトルの少なさだけでなく、主催者のプロモーション不足も大きな原因であったように思う。あくまで筆者の私見だが、今回はゲーム専門メディア以外の取材クルーをほとんど見掛けず、プレスルーム(報道関係者の作業場)も終日閑散としていてた印象は否めなかった。

本イベントの公式サイトが発信した情報も少な過ぎた感がある。トップページには開催概要のテキストしか表示されず、これでは本イベントの楽しさが、特にその存在を知らない人に対しては、その魅力と面白さが全然伝わらないように思われる。

例えば、今回の会場でひと際目立っていた「巨大ロボット実演展示」コーナーのトレーラー映像をトップページで流すだけでも、宣伝効果は全然違っていたのではないだろうか。あるいは「注目の新作タイトル」を紹介するページを追加し、ユーザーがSNSなどで情報を拡散しやすくする手もあっただろう。

コロナ禍がようやく落ち着き、プライズゲームが好調という追い風も吹き始めたアーケードゲーム業界。次回以降はさらなる工夫を凝らし、より一般来場者が楽しめる、かつ市場規模の拡大につながる「アミューズメント エキスポ」になることを願ってやまない。

(参考リンク)

・「アミューズメント エキスポ」公式サイト

会場で多くの注目を集めていた巨大変形ロボット。このような絶大なインパクトがある展示があることを、事前にもっと宣伝してもよかったように思われる
会場で多くの注目を集めていた巨大変形ロボット。このような絶大なインパクトがある展示があることを、事前にもっと宣伝してもよかったように思われる

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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