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屋上緑化でウミネコ繁殖。「そんなはずじゃなかった」……恥ずかしい失敗事例は住宅内にも

櫻井幸雄住宅評論家
写真はウミネコの雛のイメージで、マンションやビル屋上で育った雛ではありません。(写真:イメージマート)

 東京都の江東区や中央区など海に近い場所のマンションやビルの屋上にウミネコが巣をつくり、繁殖しているというニュースがたびたび報じられている。その原因の1つに屋上緑化がありそう、ということも。

 屋上緑化というのは、建物の屋上で植物を育てること。建物の断熱性が高まるし、植物が水分を発散することで、建物周辺の空気を冷やす効果があるとされている。つまり、植物の機能を利用し「地球温暖化」や「ヒートアイランド現象」などを抑制しようとして、行われるものだ。

 東京都は、2001年から一定基準以上の敷地の建物に対して屋上緑化を義務化している。これにより、多少なりとも夏の暑さが和らげばよいのだが、実際には別の問題=ウミネコの繁殖が生じてしまった。

屋上の緑は、都会にあって最高の繁殖地に

 緑化した屋上にウミネコ(カモメの仲間)が巣をつくり、繁殖すれば、その鳴き声がうるさいし、フンをまき散らす弊害もある。

 東京都が進めた屋上緑化は、基本的に屋上に植物のスペースを設けることを目的とし、子供の遊び場や憩いの場をつくろうとしたのではない。

 そのため、マンションの場合、周囲に安全柵を設けず、屋上に上がるための安全な階段もないのが普通。人間の立ち入りは禁止されている場所なのだ。人が来ないため、ウミネコにとっては、安心して子育てができる……人や車が多い都心部で、日当たりのよく、草が生い茂った場所など滅多にみつからないため、マンションやビル屋上の緑地は絶好の繁殖地になってしまった。

 結局、マンション住人は、ウミネコを駆除したり、近寄らないような対策を施したりしなければならなくなった。

 住宅には、このように「やってみたら、意外な不都合が生じた」という失敗事例が少なくない。最終的には恥ずかしい失敗となるのだが、発端は居住者の幸せを願って考えられたもの。つまり、「よかれ」と思ったアイデアだが、考えが浅かったと反省する事例がたびたび出てしまう。

 これまで見てきた、ちょっと恥ずかしい失敗事例を入浴関係の設備、アイデアから紹介したい。

子供が育ったら、ムダに広いだけの浴槽

 21世紀に入った2001年から2005年くらいまでで一気に広まったのが写真の浴槽。親子浴槽とか、シェル型浴槽と呼ばれたものだ。

シェル型浴槽の事例。2001年から2005年くらいまで、多くのマンションで採用された。筆者撮影
シェル型浴槽の事例。2001年から2005年くらいまで、多くのマンションで採用された。筆者撮影

 その目的は、親子でゆったり入浴できること。浴槽内に小さな出っ張りがあり、小さな子供はそこに腰掛けることができた。開発者(チーム)は、親子2人とか親子3人が一緒にお湯につかり、笑いあっている姿を思い描いたに違いない。家族の幸せづくりに役立つ浴槽だ、と。

 実際、マンションのモデルルームで「入浴が楽しくなること請け合い」と力説する販売員もいた。

 確かに、楽しいときも生まれただろう。が、親子が一緒に入浴する期間は決して長くない。小学校の中学年あたりから、子供は親と一緒の入浴を嫌がるようになる。

 結局、1人ずつ入浴するようになると、親子浴槽はムダに広いだけの浴槽になってしまう。1人で入るのに大量のお湯をためるのはもったいない、と湯量を減らす事態も生じる。すると、底のほうに張られた湯に、苦心して全身をつけなければいけなくなる。「どこが、楽しいこと請け合いだ」とグチりたくなる状況が生まれた。

 さらに、浴槽が張り出している分、洗い場が狭くなり、頭や体を洗うとき、肘がぶつかりやすい。シャンプーの泡が浴槽に入りやすいなどいろいろな不都合が生じ、今はすっかり姿を消した浴槽である。

自宅で温泉に入ることができる!

 それより前、1980年代には、「温泉付きマンション」がいくつか登場した。

 箱根や草津の温泉地帯につくられたのではない。東京23区内や横浜市内につくられたのだ。

 じつは、火山が多い日本は、多くの場所で地中深く掘れば温泉や鉱泉(冷泉)が出る。よい泉質のものは少ないのだが、とりあえず温かい湯は出やすい。その「地中深く掘る」作業にお金がかかるので、普通はやらないだけなのだ。

 その点、マンション建設では、地盤調査のため、お金をかけて「地中深く掘る」作業を行う。その過程で、温泉が出るケースがあり、「だったら、温泉付きマンションにしよう」と考えられたわけだ。

 「家に居ながら、毎日温泉に入ることができる」。それを喜ばない日本人はいないはず、と開発者は考えた。お風呂を沸かす必要がないので経済的だ、とも。いいことずくめで、温泉を利用しないほうがおかしい、と考えられた。

 しかし、実際に「自宅の温泉」を利用し始めると、ここでもいくつかの不都合が生じた。

 まず、給湯設備が温泉の成分で傷んだ。温泉地では、温泉の吐出口に硫黄成分がこびりついていることがある。それと同じような現象が各住戸の給湯設備に発生したのだ。

温泉でよく見かける現象。これと同じようなことが各家庭で起きてしまった。
温泉でよく見かける現象。これと同じようなことが各家庭で起きてしまった。写真:イメージマート

 加えて、温泉税を払わなくてよいのか(これは解釈が分かれていた)という問題があるし、毎日同じ温泉に入っていると、やがて効能が表れにくくなるなど、よいことばかりではないと分かり、温泉付きマンションは姿を消した。

朝シャンに最適とされたが……

 入浴関係で、もうひとつ「やってみたら、意外な不都合が生じた」ものがある。それは「シャンプードレッサー」と呼ばれるもの。洗面台なのだが、服を着たまま髪を洗うことができる設備だ(下の写真参照)。

1980年代に広まった「シャンプードレッサー」。当時「朝シャン」が流行ったことで、住宅設備にも広まった。が、今、新築マンションでこの設備をみることはない。1990年代に、筆者撮影
1980年代に広まった「シャンプードレッサー」。当時「朝シャン」が流行ったことで、住宅設備にも広まった。が、今、新築マンションでこの設備をみることはない。1990年代に、筆者撮影

 「シャンプードレッサー」と一般の洗面台の違いは2点ある

 まず、洗面ボウルが大型だ。そして、蛇口がシャワー型になっており、ヘッド部分を引き出すことができるようになっている。

 以上の特徴で、服を着たまま、前屈みになればシャンプー(髪洗い)ができるようになっているのだ。

 時代は、1990年前後。昭和から平成に変わるあたりだ。

 当時、女子高生を中心に若い女性は、朝、出かける前に髪を洗うことが流行った。きっかけは、化粧品メーカーがテレビCMで「朝のシャンプー」という言葉を使ったこと。これにより、若い女性たちの間で「朝シャン」の言葉が広まった。「朝シャン」は1987年には流行語大賞で「新語部門・表現賞」を受賞したが、死語にならず、今も使われ続けている。

 社会的現象となった朝シャンに対応した住宅設備として開発されたのが「シャンプードレッサー」。新世代の設備として、多くの新築マンションに採用されたのである。

 が、これも「やってみたら、意外な不都合が生じた」設備だった。

 朝シャンをする女子高生はルンルン(これは死語か)だったろうが、お母さんはプンプンだった。娘が出かけた後の洗面所を見たら、鏡や壁にお湯と泡が飛び散り、毎朝、大がかりな掃除を行う羽目に陥ったからだ。

 最終的に「髪は、服を脱いで風呂場で洗え」としごく当然なご意見により、シャンプードレッサーは廃れていった。

 ただし、「シャンプードレッサー」は、本来の用途以外で便利という声もあった。それは、ペットのお尻を洗うとき。お湯がでるし、姿勢が楽なのでよい、というのだ。

 また、乳児の沐浴にもよいともされた。

 ペットを飼っている家庭に赤ちゃんが生まれたら……どちらを優先させるか、ちょっと戸惑う事態が生じたはずである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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