3日で計9時間かけて金正恩氏が読み上げた報告――バイデン新政権への恫喝と、党員たちのざんげの誘導と
北朝鮮の朝鮮労働党大会では、初日(5日)から3日がかりで金正恩党委員長が活動総括報告を読み上げた。金委員長は▽国防におけるこれまでの成果と今後の兵器開発の方針▽今後5年間の経済戦略▽対米方針と南北関係――を中心に、自国の立場を表明した。金委員長が読み上げに費やしたのは計9時間という長さだった。党大会は10日も続けられている。
◇兵器開発
前回(16年5月)の活動総括報告では「(北朝鮮は)責任ある核保有国」などと表明しながらも、兵器開発の方向性を具体的に述べるようなことはなかった。今回はそれを詳細に語り、米国や日本を圧迫するとともに、国内の引き締めを図った。
金委員長は初めて、原子力潜水艦の導入の意思を明らかにした。原潜は長時間の潜航や深い水深での航行が可能で発見されにくく、奇襲攻撃が視野に入る。「極超音速兵器」開発の考えも初めて表明した。これまで超音速兵器の開発は観測されており、今回、北朝鮮側がそれを認めた形だ。各国に整備された既存のミサイル防衛(MD)システムでは迎撃が不可能とされ、防空網を無力化できる兵器といわれる。
また、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の命中率を高め、米国の首都ワシントンを射程に収める15,000km圏内の「任意の戦略的対象を正確に打撃・消滅できるようにする」としている。加えて「多弾頭個別誘導技術」をさらに向上させるための研究事業を進めるとも言及している。昨年10月の党創建75周年に合わせた軍事パレードで初公開された新型ICBMは、弾頭部に核弾頭2~3個を装着できる多弾頭ミサイルとの分析があり、この技術向上を指していると思われる。
核兵器の小型軽量化や超大型核弾頭生産も継続。軍事偵察衛星を運用して偵察情報の収集能力を確保するとしている。
今回の報告は、バイデン米新政権発足を前に、対米交渉力を高めるのが目的とみられる。実戦配備に向けて開発が進んでいるものもあれば、政治的効果を狙って研究段階なのに表に出したとみられるものもあり、韓国の専門家は「計画成功の可能性は限定的」と指摘している。
◇対米メッセージ
報告では対米方針にも詳しく触れている。バイデン氏当選以後、対米方針を明らかにしたのは今回が初めてだ。
金委員長は対外政策に関連して「最大の主敵である米国を制圧し、屈服させることに焦点を合わせる」と表明し、敵対関係を前提にした過去の米朝関係に戻ったことを明らかにした。トランプ大統領と首脳会談を繰り返し、個人的親交も深めたにもかかわらず、関係改善の糸口をつかめなかった経験を踏まえ、「米国で誰が政権の座に就いても、米国という実体と対(北)朝鮮政策の本心は絶対に変わらない」との結論に達したようだ。
金委員長は、米朝交渉再開の条件として「米国が対朝鮮敵視政策を撤回するところにある」と改めて主張した。バイデン新政権の対北朝鮮政策が明らかになる前に北朝鮮側から先にボールを投げた形で、米朝関係の主導権を握ろうという意図がうかがえる。
一方、報告には「非核化」への言及が見当たらない。バイデン次期政権が北朝鮮側の主張を一定程度受け入れて対話が再開されたとしても、北朝鮮側は「自国は核保有国」と主張して、米朝交渉を「核軍縮協議」として扱うという考えが垣間見える。
◇経済政策の失敗、指導部メンバーが自己批判
昨年8月19日の党中央委員会総会では、前回の党大会で決定した「国家経済発展5カ年戦略」の目標を達成できず、人民生活の向上が実現しなかったと認める決定書を採択した。北朝鮮が経済計画の失敗を明かすのは異例のことだった。
今回の報告でも金委員長は改めて「国家経済の成長目標を達成できなかった」と認めた。そのうえで党員に向かって「これまで蔓延してきた誤った思想観点や無責任な活動態度、無能力を放置し、今のような旧態依然とした活動方式を続けていては、いつになっても国の経済を盛り立てることはできない」と叱りつけ、自覚を促した。
金委員長の報告を受けて、党大会では8日から9日にかけ、報告に対する討論が進められ、李炳哲副委員長や金徳訓首相ら最高幹部をはじめ党指導部のメンバーが意見を表明した。
発言の中でメンバーらは、自身の所属機関で確認された欠陥とその原因、教訓を総括し、▽党活動で親現実的・親人民的な方法を積極的に実行できなかった▽自身の部門の事業を研究しなかった▽人民に対する服務精神が足らなかった――などと自己批判し、覚悟を持って奮起する考えを示した。
北朝鮮では、最高指導者が目標未達成を認めるような場合、住民は最高指導者の責任を問うのではなく、「最高指導者に不名誉な発言をさせてしまった」「その責任は自分たちの側にある」という理屈で整理される。
8日は金委員長の誕生日だったが、祝賀行事は今年も公開されなかった。金委員長は個人的な事情を顧みることなく、党指導に向き合っているという姿勢を前面に押し出しているようにもみえる。
党大会の参加者は猛省を促され、経済の立て直しを迫られている。経済制裁、新型コロナウイルス感染防止に伴う国境封鎖、度重なった自然災害という厳しい状況の中での華々しい成果を求められ、強烈なプレッシャーを受けているのは間違いない。