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カフェハラとは何か? 怒れるカフェインハラスメントへの強い違和感

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

カフェインハラスメント

ハラスメントといえば、何を思い浮かべるでしょうか。

嫌がらせ。いじめ。「セクシュアルハラスメント」「パワーハラスメント」

[補説]英語では、苦しめること、悩ませること、迷惑の意。

出典:コトバンク

ハラスメントとは嫌がらせのことであり、権力による嫌がらせであるパワーハラスメントや性的な嫌がらせであるセクシャルハラスメントが有名です。

他にも精神的な嫌がらせであるモラルハラスメント、タバコによる嫌がらせであるスモークハラスメント、飲酒の嫌がらせであるアルコールハラスメントなどがあります。

様々なハラスメントが問題となる中で、カフェインの嫌がらせであるカフェインハラスメント、略してカフェハラが起きているというのです。

訪問先でコーヒー

<「来客にコーヒー提供」は「カフェハラ」? マナー講師の見解は...>で、カフェインハラスメントが紹介されていました。

訪問先の打ち合わせでコーヒーを出されたことに端を発します。

投稿によれば、体質や健康面などからカフェインの摂取を控える人はいるにもかかわらず、問答無用で勧められると指摘。気心の知れた相手なら断ることもできるが、初対面であれば難しいとして「『アルハラ』(アルコールハラスメント)は社会問題として定着したが、『カフェハラ』は問題にもされていないのだ」と憤慨する。

出典:「来客にコーヒー提供」は「カフェハラ」? マナー講師の見解は...

投稿者は、こういったカフェハラに対して以下のように述べています。

以上を踏まえ、(1)ノンカフェインまたは低カフェインの飲料を出してほしい(2)お湯を注いだカップにスティック状のコーヒーやお茶のティーパックを添えて、カフェインの有無を選択できるようしてほしい――と要望した。

出典:「来客にコーヒー提供」は「カフェハラ」? マナー講師の見解は...

カフェインを含有しているコーヒー以外の選択肢がほしいと要望しています。

カフェインハラスメントは耳慣れない言葉ですが、投稿者の事案を踏まえて考察していきましょう。

カフェイン量の比較

件の前提にあるのは、コーヒーはカフェインの量が多いので、カフェインを控えている人にとってはハラスメントになるという論理です。

カフェインが人体に与える影響については以下の通り。

カフェインには、適量摂取することにより頭が冴え眠気を覚ます効果が有ります。

他方、過剰に摂取した場合の一般的な急性作用は、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、

震え、不眠症、下痢、吐き気をもたらすこともあります。

出典:食品中のカフェイン - 食品安全委員会

カフェインを摂取して頭がクリアになったり、摂取しすぎて夜中に眠れなくなったりする経験を持つ方は多いのではないかと思います。

では、コーヒーは本当にカフェインの含有量が多いのでしょうか。

  • レギュラーコーヒー抽出液 約60mg
  • インスタントコーヒー抽出液 約60mg
  • 玉露 約160mg
  • 煎茶 約20mg
  • 紅茶 約30mg
  • ウーロン茶 約20mg
  • ミルクチョコレート 約25~36mg
  • 高カカオチョコレート 約68~120mg
  • カフェインサプリメント 約200~600mg/日
  • エナジードリンク 約22~142mg
  • 缶コーヒー 100~150mg/本

出典:知っていますか? 自分のカフェインの「安全量」/NIKKEI STYLE

  • ほうじ茶 20mg
  • 玄米茶 10mg
  • 番茶 10mg
  • 抹茶 64mg

出典:気になるお茶の【カフェイン】1日どのくらいなら安全なの?/茶活 CHAKATSU

コーヒーのカフェイン量は、確かに飲料物の中では多い方ですが、最も多いわけではなく、コーヒーよりずっと濃厚なものもあります。投稿者はティーバッグ(記事中ではティーパック)をコーヒーの代替品として挙げていますが、お茶もカフェインが少なくありません。

したがって、コーヒーだけをカフェインハラスメントの対象とするのはいささか偏っているように思います。

もしかすると、投稿者はカフェインが気になるからコーヒーを控えたいということではなく、単にコーヒーの味が苦手だからコーヒーを飲みたくないだけではないでしょうか。

もちろん、コーヒーを苦手にしていることが悪いといいたいわけではありません。私の身近にもコーヒーが苦手な方がいますし、私はだいたいコース料理の最後にコーヒーではなく紅茶を希望します。

私がいいたいのは、カフェインハラスメントが起きたのではなく、好みではない飲み物が提供された、つまり、ありきたりの事案が起きただけではないかということです。

断るのもマナー

食品中のカフェイン - 食品安全委員会によると、健康な成人に対する悪影響のない1日のカフェイン最大摂取量は400mgとされており、コーヒーではマグカップ3杯分の237mlに相当します。

件のように訪問先で提供されるコーヒーくらいであれば、紙コップ1杯なので100mlからせいぜい150mlのボリュームとなるでしょう。

提供されたものを飲み終えた方がよいことは確かですし、これくらいの分量であれば飲めるようにも思えます。しかし、カフェインへの感受性は個人差によるところが多いので、飲めなくても仕方がないでしょう。

接待でどこかのレストランに訪れているわけではなく、打ち合わせで訪れているのです。事務的に提供されたコーヒーを全て飲めなくても、相手に悪い印象を与えたり、契約が破断となったり、会社間の信頼感に歪みが生じることはないのではないでしょうか。

アルコールハラスメントでよく問題となる一気飲みとは異なり、コーヒーを飲むように強要されているわけはありませんし、コーヒー賞味会とは違ってコーヒーを嗜む集まりではないので、コーヒーに口をつけなくても場の雰囲気を壊してしまうことはありません。

全日本コーヒー協会の資料を参照してみると、日本のコーヒー需給表ではコーヒーにおける2018年の国内消費量が20年前より約30%も伸びていることを示しており、日本国内の嗜好飲料の消費の推移では、緑茶や紅茶の消費量が低迷していることを明らかにしています。

こういった状況を鑑みれば、コーヒーは日本で極めてポピュラーな飲み物なので、相手がよかれと思って一方的に提供してしまうのは、仕方ないと許容するしかないでしょう。

もしもコーヒーが飲めないのであれば、提供された時に伝えて、飲まないか変更してもらうかするのが、ビジネスパーソンとしての最適な解であるように思います。

飲食店でのカフェインハラスメント

飲食店でカフェインハラスメントが起こることはあるのでしょうか。

ファインダイニングではもちろん、カジュアルダイニングでも通常、コース料理でコーヒーが提供されます。

しかし、メニューに「コーヒー」「カフェと小菓子」と記載されていても、ほとんどの場合にサービススタッフが「コーヒーになさいますか。紅茶、ハーブティーもございます」と訊いてくれるものです。

私の身近にいるコーヒーが苦手な方は、コーヒーが苦手であることを伝えますし、そうでなくとも、コーヒーが無理に提供されたことはなく、紅茶やハーブティーを選ぶことができています。

フランス料理だけではなく、イタリア料理でも同様です。イタリア料理でも、エスプレッソもしくはカプチーノだけしか選べないということはなく、紅茶やハーブティーも選べるのが当たり前となっています。

場合によっては、フランス料理やイタリア料理をベースにしていたとしても、モダンであったり、フュージョンを謳ったりするところでは、最後に日本茶が提供されることもあります。カフェインが比較的多いコーヒーどころか、コーヒーよりもさらにカフェイン含有量が多い玉露や煎茶が出されることもあるのです。

飲食店では、ファインダイニングにとどまらず、食事の最後に提供されるドリンクにいくつか選択肢が用意されていることが多いので、コーヒーを強要されて困ることはかなり少ないのではないでしょうか。

複数提供

冒頭の記事最後では以下のように述べられています。

なお、投稿者が提案した「お湯を注いだカップにスティック状のコーヒーやお茶のティーパックを添えて、カフェインの有無を選択できるようしてほしい」との意見は、相手に手間をかけさせてしまうためマナーといえないとした。

出典:「来客にコーヒー提供」は「カフェハラ」? マナー講師の見解は...

確かに、ドリンクを提供する際にお湯だけが注がれたカップが置かれ、コーヒーのパウダーとお茶のティーバッグ(記事中ではティーパック)が添えられていれば、飲み手としてはどちらかを選択できるので便利でしょう。

しかし、選ばれなかった方はどうするのでしょうか。

飲食店などでは衛生面や安全面を考慮して、客に一度でも提供されたものは、他の客に提供することができず、廃棄することが一般的です。そう考えると、必ずどちらかは廃棄されてしまい、確実に食品ロスが生じてしまうので、非常にもったいないことになるでしょう。

また、たとえ提供されたものを廃棄しなかったとしても、提供者に用意したり戻したり管理したりする手間を掛けさせてしまうので、会社訪問の打ち合わせで行うサービスにしては過剰であるような気がします。

こういったことを鑑みると、飲み手に選択させる機会を用意するのであれば、複数の飲料物をテーブルまで持って行くのではなく、持参する前に尋ね、選んだものだけを提供するのが最適ではないでしょう。

食に関するハラスメントへの違和感

食に対する嗜好や感受性は非常に複雑です。

何でもおいしく食べたり飲めたりできることが最も望ましいかもしれませんが、アレルギーを有していたり、苦手な食材があったり、好きではない料理や飲み物があったりすることは少なくないでしょう。

カフェインが苦手な人にカフェインが強いものを無理に飲まそうとしたり、コーヒーが苦手な人に飲むことを強要したりすることは、暴力をふるうにも等しく、決してよいことではありません。

ただ、投稿者の状況であれば、インスタントで作ったのであれ、ミルで挽いてハンドドリップしたのであれ、コーヒーメーカーで淹れたのであれ、いずれにしても提供者は来客者のためにせっかくコーヒーを用意したのです。

コーヒーが提供された時に「カフェインに敏感なので、他のものをいただけますか」「コーヒーは苦手で、紅茶をいただきたいです」と伝えるのは重要なことではないでしょうか。

こういった食のコミュニケーションによって、相手のことをより知ることができたり、気軽な話のネタにつなげたりすることができます。

何でもかんでもハラスメントにしてしまえば、相手のために何もできなくなってしまうのではないでしょうか。

もちろん状況によりますが、ハラスメントであると叫ぶ前に、食の好みや嗜好、さらには、信条やスタイルを通して、お互いを理解しようとする姿勢が重要なのではないかと、私は考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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