できる幹部は、叱られた「直後」が違う ~変容する企業の役割~
■ 企業を変えるのは「人」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。このような仕事をしていると、時には残酷な判断をしなければならないときがあります。クライアント企業から、1年や2年で明確な成果を求められるからです。
残酷だと思うのが「人」に関すること。
常に相手を「できる営業か」「できる管理者か」「できる幹部か」といった視点で、日々「人」を洞察しています。
「できる人」かどうかは、その人のポジション、役割によって変わってきますが、意識しているのは「計算できるか」ということ。この表現は、野球選手に向かって使う言葉としても有名です。「彼は計算できるピッチャーだ」「今度トレードでやってくる打者は計算できる外野手だ」このように使います。
たとえば高校野球を代表するスラッガーをドラフト会議で一位指名し、獲得しても「計算できるバッター」という評価はしません。大リーグで活躍したピッチャーを手に入れても、同じ。「計算できる」という表現を使うことはないでしょう。
「計算できる」かどうかは、「好き」とか「好み」という感情で判断するのではなく、『過去データ』のみを参照して判断します。
「3年前は13勝、2年前は11勝、去年は14勝している。3年連続で10勝以上しているから、今年は最低でも10勝。よくて15勝ぐらいはやってくれるだろう」
このように、必ず正しい『過去データ』を使い判断します。「期待できる」と「計算できる」とは意味が違うからです。
企業で結果を出すために私たちは「期待できるか」ではなく「計算できるか」でプロジェクトメンバーを選びます。つまり近年の過去実績を参考に「人」を見るのです。
(※過去実績は、最終成果よりも行動指標のほうを重視する)
印象や肩書だけで「人」を判断しないのは、外部コンサルタントだからこそできることだと思っています。
■「できる幹部」と「できない幹部」
とくに私たちが着目するのは「幹部」。
組織を大胆に変える場合、まず経営幹部が「できる人」か「できない人」かの見極めはさせてもらいます。
幹部が「できない人」だと、どんなに現場力があっても、安定した成果を見込めません。
では、私たちが「幹部」を見るうえで、どんなところに着目するか。本日はその例をひとつご紹介します。それが「叱られた直後」です。
「幹部を叱る」という表現を見てドキッとした方もいるでしょう。しかし、改革には避けて通れないポイントです。
これまでの延長線上でやっていては、うまくいかないわけですから、たとえ幹部であろうと、私たちコンサルタントは遠慮しません。
「本部長、ひらめきで解決策を考えないでいただきたいです」
「事前にCV率を考える必要がありますね」
「少々不明確な部分があります。きちんとアプローチ数などの設計をしてもらえませんか?」
という風に、「改善したほうがいい」と思う部分に関しては、はっきりと本音をぶつけます。
クライアント企業だからといって、躊躇って優しい言葉をかけてばかりでは、目標を達成できません。
もちろん、私どもコンサルタントがお叱りを受けることもあります。お互いぶつかり合ってこそ、成果を出せる組織に生まれ変わるわけですから、ガチンコでやります。
このように幹部を叱ったあと、「叱られた直後」「注意された直後」に、相手がどんな行動に出るか。私はいつも着目しています。
■ 叱られた直後の反応
まず、仕事ができる幹部は、叱られた直後に次のような反応をします。
● できる幹部のケース:
「申し訳ない。事前に仮説を立ててからやるようにと言われていたのに、独断で進めてしまって。これからは、同じようなことがないように、部課長に私から言っておくよ。今からすぐ部課長に連絡する」
● できない幹部のケース:
「申し訳ありません。わかりました。これから気を付けます」
できる幹部は、頭の回転が速い。叱られた直後に、その場で事後対応を口にし、すぐ手を打とうとします。
いっぽう仕事ができない幹部は、叱られたことは素直に受け止めますが、事後対応を口にしません。謝るだけで、自分のデスクに戻ってまた淡々と仕事を進めようとします。
「企画書の、このページがおかしいです」と言われても「申し訳ありませんでした」と言うだけです。すぐ修正して再提出しようとしません。
「どうしてAがBなんでしょう?」と聞いても「申し訳ありません」。
「これは、Aだと伝えたはずです」と言うと「申し訳ありません」。
「AさんにBと言われたら、Cと言って断ってください」と伝えると「申し訳ありません」。
叱られた直後、受け止めてくださるのですが、それだけです。
誰でも、叱られたり、注意されたりしたら、たとえ自分の責任であったとしても気分のいいものではありません。しかし、「できる幹部」は、そのストレスを肯定的にとらえ、事後対応を瞬時に考えます。
謙虚だからそうしているのではなく、頭の回転が速いのでしょう。だから、言い訳したり、反論したりするのは生産性が悪いと理解できるのです。
たったこれだけ。これだけなのですが、この「微差」がとてつもなく大きいのです。現場で働いている若者の微差ではなく、幹部の意識の微差だから、経営成果に大きな影響を及ぼします。
■ 幹部を叱るのは、企業の責務
現場から離れ、会議ばかりやっている幹部は、まるで「離職期間が長い求職者」のよう。創意工夫して事態を打開する力が、明らかに衰えています。
考える深さも足りないし、意思決定スピードも遅い。残念ながら、私たちコンサルタントと同じ密度で、仕事を進めることができないことが多い。
経験上、居心地のいい大企業の幹部ほど危ないと言えるでしょう。
稲盛和夫氏が、事実上倒産していたJAL(日本航空)を再生させる際、幹部社員を愛ある叱責で、鼓舞したというのは有名な話。稲盛和夫氏も素晴らしいですが、叱られても歯を食いしばって耐え、組織を生まれ変わらせようとしたJALの幹部も優秀です。
今の時代、もはや幹部は「サラリーマンの終着駅」ではありません。プロ野球の監督と同じように、成績が悪ければ交代させられるというポジションです。そういう意味でも、企業が永続するためには、常にできる幹部を選定すること。そして、叱ってでも幹部を成長させることです。
これは、その幹部自身のためでもあります。
企業の役割は、「雇いつづけることで守る」から、「社会で活躍しつづけられるよう支援することで守る」に変容が求められています。
(※ 経済産業省が2017年に公表した報告書「『人生100年時代』の企業の在り方」より)