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都会の未婚女性と農村未婚男性の「マッチング」案でわき出た中国の格差意識――「両者は別々の世界に住む」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国の農村で営まれた結婚式の会場の様子=百度写真より筆者キャプチャー

 結婚願望があるのに良縁に恵まれない都市部の女性に、農村の未婚男性を引き合わせる――中国で深刻化する男女比の不均衡を緩和しようと、シンクタンク関係者がこんな「マッチング」を提案したところ、インターネット上で大きな波紋を呼んだ。「住む世界が違いすぎる」「現実とかけ離れている」という見解以外にも、農村男性をさげすむような言動もあり、断絶の深刻さが浮き彫りになった。

◇「田舎の男とデート? 無理です」

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)などによると、中国の非政府組織「山西シンクタンク開発協会」の呉修明・事務局次長が最近、次のような提案をしたという。

「中国の農村では、何百万人もの未婚男性が花嫁を探している。都市部には『剰女』も多くいる。『剰女』に移住を促すことで、男女比の不均衡に対処できないか」

 その際、呉氏は「剰女」に向けて「農村に行って生活することを恐れてはなりません」というメッセージも添えた。

 中国ではこの「剰女(sheng nu)」という言葉がよく使われる。SCMPによると、27歳以上の未婚女性で、都会に住み、高学歴である例が多いそうだ。その逆の「剰男(sheng nan)」という表現もある。

 呉氏の提案は瞬く間に批判にさらされた。中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」では「現実とかけ離れている」との意見が相次いだ。

 中には次のような内容もあったという。

「どこにそんな発想ができる脳みそがあるのか。『都市部の剰女』『農村の剰男』という、この二つのグループの間にある大きな格差を見たことがないのだろうか。彼らは基本的に“パラレルワールド”に住んでいて、両者のコミュニケーションは極めて困難なのだ」

「都会の女性はおろか、農村女性でさえ、農村男性との結婚を望んでいない」

「これは人間を『動物』ととらえた考え方だ。呉氏の目には、これら二つのグループの人々が『単なる動物』にしか映っていないのだ」

 上海の不動産業界で働く独身女性(38)は「地方の男性をパートナー候補とは見なさない」と語ったという。「田舎の男とデートするのは不可能です。たとえ、ほかに男がいなくても、そうはならない」

◇「一人っ子政策」で加速した歪な人口構造

 SCMPが記した中国国家統計局データによると、中国での男女比は若い年齢層で不均衡が顕著になっている。女性100人当たりの男性数は、30〜34歳で101人に対し、25〜29歳では107人。20〜24歳では115人、5〜19歳では118人となっている。各年齢層での不均衡が積もりに積もって、中国全体では男性が女性よりも3000万人以上も多いという状態になっている。

 中国では歴史的に、男子が家を継ぐ傾向があり、男子を尊ぶ極端な「男子偏重」の風潮があった。これに、1980年ごろ人口抑制策として導入された「一人っ子政策」(夫婦1組に子供1人と制限)が拍車をかけた。一人っ子として「女子」を授かった場合、妊娠期間中であれば中絶したり、出産後なら遺棄したりするようなこともあったようだ。

 一方で、経済が発展するにつれ、農村の若い女性たちは仕事やパートナーを探すために都市部に向かい、農村での男女比の不均衡が著しくなった。それに伴い、農村男性のパートナー探しは困難になり、相手を探す際、高い経済力のあることを求められるようになったという。国営新華社によると、山西省や河南省、湖南省の農村男性は、花嫁候補に結婚を申し込む際、100万元(約1600万円)程度を提供する必要があるという。農村では女性の数が圧倒的に少ないため、婚活競争は熾烈を極めているそうだ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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