トヨタはなぜアジアの森林にお金を払うのか
トヨタ自動車「グリーン調達ガイドライン」の改定
トヨタ自動車が「グリーン調達ガイドライン」を改定した。これは、2016年1月に発行されたもので、5年ぶりの新版となる。トヨタ自動車は、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しており、かなり広い環境への取組みを含めている。
これまで、単独の企業として環境対応を述べておけばよかった。それが、グループ会社全体での環境対応が求められるようになった。いまでは、グループ会社の枠を超えて、自社のサプライチェーン全体での取り組みが求められている。自分たちの製品が完成するまでのすべてのプロセスにおいて、CO2削減などの温室効果ガス全般を低減させる。あるいは、生物の多様性なども担保せねばならない。
G7サミットでも環境対策が注目された
5月に伊勢志摩で主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)が開催された。世界経済の成長や、フランス、ベルギーで発生した無差別テロの対応にG7各国が協調姿勢を見せた。
ところで、このサミットの前年、ドイツ・サミットで、「責任あるサプライチェーン」が討議されている。
この宣言を受け、あるいは受ける前から、各企業の調達・購買部門では、CSR(企業の社会的責任)調達が行われている。
地球環境を念頭に置いた持続可能な社会実現、ならびに、新興国における労働者の労働環境や雇用条件にも企業(元請け)として、積極的な改善関与が求められる。
トヨタの取り組み
なお、トヨタ自動車は、これらに先んじ、さまざまな対策を講じてきた。最近のニュースでは、トヨタがWWFと協業し、生物多様性と気候変動の分野での改善に努めるものだ。
WWFとは、公益財団法人世界自然保護基金ジャパンのことで、秋篠宮文仁親王殿下が名誉総裁になっていらっしゃる。生物多様性の保全や、自然環境への負荷軽減活動を主に行う。
そのWWFとトヨタ自動車が協業する。考えるに一企業である、トヨタ自動車がこのような協業をする意味は大きい(ちなみに日本企業ではWWFでのこの種の提携は初となる)。さきほど、「生物多様性と気候変動の分野での改善」と書いたが、具体的にはまず天然ゴムの保護に取り組む。
現在、アジアの森林が急速に失われている。インドネシアのボルネオ島では、80年代と比べると、森林が30%も減少してしまっている。その他、50%減少してしまっている島もある。乱伐しているあいだは良いかもしれないが、それでは安定調達が難しい。また、社会的責任も果たせない。
また、自社の調達に関しても、天然ゴムを将来にわたって安定調達できるのであればメリットも大きい。トヨタ自動車はタイヤメーカーなどにも声をかけながらルール作りを推進していく。
SBTルール
なお、現在では、企業にたいし、温室効果ガスの排出削減目標を共有する動きがある。これを「Science Based Targets(SBTと略される)」と呼ぶ。トヨタ自動車はこの賛同企業であることからも、サプライチェーン全体のCO2削減はこれからも重要関心事項となるだろう。
企業があらゆることに関心を払い、そして地球環境を考えなければならない。この現状は、社会と将来のことを考えるのであれば当然でもあり、現場の調達部門からすれば厳しくもある。
しかし、実際には、SBT(あるいは近似ルール)を推進しなければ、市場からは投資対象としてみなされなくなる、といった予想も出ている。つまり、社会の持続可能性を追及することは、もう企業自体の持続可能性を追及することと同義になりつつある。
さらに、私が公開している「知らないと生産が崩壊する!サプライチェーン震災からの教訓」でも書いたとおり、調達先を二重化、あるいは地域をわけるなどの工夫も必要だ。やるべきことは無数にある。
調達とサプライチェーンへの注目はこれからも続いていく。