春季キャンプinうるま 訪問記《阪神ファーム》
阪神タイガースの春季キャンプは、ことしからファームも沖縄のうるま市で行い、2月11日と12日には1軍の宜野座へ“遠征”して紅白戦を行ったり、岡田彰布監督がファームの練習を視察したり、メンバーが入れ替わったり。沖縄と高知では難しかった動きが見られました。選手たちにとっては大きな刺激と発奮材料になったでしょう。
私は2020年2月、新型コロナの感染が拡大する直前に宜野座へ行ってから3年ぶりの沖縄でした。うるま市自体は滞在したことがあるものの、具志川野球場は初めてです。立派なドームもあって、ブルペンもメイングラウンドのすぐ前。階段を昇り降りしなくていいから楽ですよね?とトレーナーさんや選手たちに聞くと「いや~それが…」と苦笑い。
実はウエートトレーニングをする施設がかなり遠くて、行きはメイングラウンドから緩やかな登り坂を歩いて約10分。そこから既にトレーニングが始まっているわけですね。私も試しに歩いてみようと思ったんですけど、遙かかなたにある建物を見て挫けました。
北風>太陽=寒すぎた終盤
お邪魔したのは最終クールだけで、しかも26日にうるまを離れたため打ち上げ風景を見られずじまい。昨年の安芸キャンプは終盤に感染者が続出してラスト3日間は全体練習なしの流れ解散みたいな終わり方だったので、ことしは連帯歩調や挨拶、一本締めまで見届けたかったんですけど残念です。
また初日の23日は、和田豊ファーム監督が「いい時に来たねえ!やっと暖かくなったよ~」と言われるほど、日差しが強く暑いくらいの好天。油断した手首が火傷のように赤くなって、さすが沖縄だなあと感動したのですが、翌24日夕方からは雨や曇りで最高気温が20度に達しないままでした。
特に25日はまったく日差しがないうえ、朝から晩まで10メートルの強い北風が吹き続けて厚手の肌着やストッキング、ストールなど総動員しても体は冷えまくり。手もかじかんで、足先に感覚はなく…「何でこんなに寒いねん!」と悪態をつく始末。
それと、シーズン中は人数制限により鳴尾浜へ行けないので、もしかして会うのは1年ぶり?という選手が多く、コロナ以降は新入団選手発表会へも参加できていないため、新人選手は完全に初対面。向こうも、とりあえず挨拶はしてくれるものの「え、誰?」と不信感いっぱいだったでしょうねえ。
とはいえ、快く取材に応じてくださった監督やコーチ、選手の皆さん、トレーナー、スタッフの方々、本当にありがとうございました!では早速『初うるまキャンプの総括』をお送りしましょう。いきなり総括で、すみません。
1軍との“近さ”が刺激に
まずは和田監督です。テレビインタビューでのコメントも合わせてご紹介します。「うるま市の関係者の皆様にお礼を申し上げたいと思います」と、開催に向けて尽力くださった地元の方々への感謝を述べた和田監督。
そのあと「やはり沖縄の暖かさというところで、選手たちの動きはランニングにしてもバットの振りにしても、初日から非常にハツラツとした、そういう1か月を過ごせたと思います」
「初の合同というか、近くでキャンプをすることができて、呼んでもらうこともありましたし、また紅白戦等で一緒にプレーできて1軍の空気を少し吸わせてもらって、ファームの選手たちはすごく刺激になった」と続けました。
「前半は森下(翔太・ドラフト1位)や富田(蓮・同6位)が、いい状態で呼んでもらえた。それで練習試合やオープン戦でも使ってもらって、それなりのいい結果を今のところ残せている。今はまだプロの怖さもわかっていない中、向かっていく姿勢をゲームでも出して結果が出ているので、これを続けていってほしい」
「後半に何人かの選手が入れ替わり、ここにいる選手も“次は俺だ”と準備して、その時を待っているという感じですね。また“いつか1軍でやりたい”という思いが余計に強くなったと思う。声がかかった時のために今、目の色を変えて必死になってやっている」とのこと。
「頑張ったのは山本と馬場」
さて、うるまキャンプのMVPは誰でしょう?という恒例の問いに対して、MVPというよりも、よく頑張った選手で…。そう前置きしたうえで選出していただきました。
「ファームですので、全員が“チャンスをもらえたら”と、本当に虎視眈々と狙っているというか必死になって練習をしています。その中で、30歳前後の選手が本当に自分でよく考えながら練習をしているなと」。そして、このあと何人かの名前が出てきます。
「野手の方でいうと北條(史也)や山本(泰寛)あたりは、朝の早出に指名していなくても自分から毎日顔を出して、ティーバッティングや色んなことをやりながら準備している。もちろん全体のメニューはあるんだけど、それを離れた時に自分の足りないところや調整度などを考え、朝練から特守まで1か月それを続けてくれた」
「山本はずっと状態がいい。練習だけでなく、ゲームで結果を出しながら呼んでもらう準備が整っていて。そんな1か月だったと思います。30歳前後というとピッチャーでも秋山(拓巳)や小林(慶祐)がブルペンで1球1球、自分の感触を確かめながら段階を踏んでトレーニングしている」
「そのへんの選手の名前が挙がるのはちょっと寂しいかもしれませんけど、彼ら中堅と新人との間に挟まれた選手たちが、そういう先輩の姿を見て“負けてらんないな”という気持ちが出ていたんじゃないかな。先輩を見習って、考えながら練習するのが見て取れました」
なるほど、30歳前後の中堅と新人が与えた影響ですか。それはおっしゃる通り、間にいる選手たちを刺激する効果がかなりあったかもしれませんね。では改めてMVPを選んでいただけたら。
「まあファームなんでね、MVPをとったからどうこうじゃないけど。山本は1か月を通し、紅白戦に始まってずっと試合に出るたび結果を出し続けているので。どちらかというと守りの選手のイメージはあるけど、バッティングも見てください!という形でね。充実した1か月を過ごせたんじゃないかな。彼にとってはよかったのでは」
「投手では馬場(皐輔)。1か月通して調子を維持し、頑張った!MVPというより、よく頑張ったという意味で名前を挙げたいですね」。というわけで、山本選手と馬場投手に決定です。
新人選手の突き上げも効果大
続いて和田監督は「若手でいうと、特に新人が目立っていましたね。ピッチャーでは門別(啓人・ドラフト2位)がブルペンでもよかったし、マウンドに上がっても球の力やコントロールも含め、しっかり投げている」と絶賛でした。
「それを少し上の年代が間近で見るから、より競争が激しくなってくると思うよ。茨木(秀俊・4位)は、まだ段階を踏んでやっている状態で、少しペースはゆっくりになっていますけど」と高校卒のルーキー2投手の話。
「バッターも新人がねえ!井坪(陽生・3位)が、練習だけでなくゲームの打席でも雰囲気ありますし。対応力というか、コンタクトがね。内容のいい打席を送れています。1年間ファームで打席に立たせて、どれくらい数字が残るかなという楽しみを持ちましたね」
「新人の突き上げが激しいですねえ。戸井(零士・5位)は今ちょっと本隊から外れているけど、そこらへんがいい動き見せている。だから、これまた上の年代が“しっかりせんと抜かれるぞ”という気持ちで、必死になってやってるね」。想定を超える相乗効果だったかもしれません。
精神の競争に勝ち残ること!
そんなルーキーの中から、井坪選手と門別投手のことをもう少し伺いましょう。
「門別も井坪も(高校出の)新人で、まだ1か月しか一緒に練習していないけど、何年もやっている選手と混ざっても遜色ない。物怖じもしていない。井坪はまだこれからやることがたくさんあるけど、でもゲームに入ると実戦向きなんだろうね。違うものがまた見える」
「森下もそうだけど、打つだけの選手になってほしくないので守備や走塁などやらないといけないことはたくさんあるんだけど、この1か月でもう光るものが見えた。それは続けてほしいし、少し上の選手の刺激になっている。追い抜かれたら…っていう気持ちもあるだろうし、より一層頑張らないと!ってね」
「こっちはこっちで、いい競争になっている。結果というより精神的な競争?ライバル意識というか。“次に呼んでもらうための権利を、俺が絶対つかみ取ってやる”という思いでやってくれていたと思います」
「ファームは1(いち)を大事にということと、“球際”を全面的に押し出している。何とか球際に強くなろうと。それが精神的なところにも繋がっていくんで。ファームでいい成績を残していても気持ちの弱さが1軍で出てしまって…という選手が何人もいたので。1軍でやってナンボ。こっちと同じハツラツとした姿でできます!と、そういう状態にして送り出せればね」
ちなみに、毎年ファームのキャンプはご覧になっていますが、昨年までと疲れ方などは違いますか?と尋ねたら「心地よい疲労度(笑)」という答え。「1か月やっているから、全然疲れていませんよってことではないけど、本当に一日が充実して、一日が早いですよ~」と笑顔。
そして「キャンプは終わりますけど、帰ってからが新たな勝負ですので、まずは呼んでもらえるように、またその競争で勝ち残れるように、これからもしっかり指導していきたいと思います」という和田監督でした。
山本選手「打も守も充実した1か月」
和田監督が今キャンプで頑張った野手として名前を挙げたと伝えると、山本選手は「ほんとですか!」と、すごく嬉しそうな笑顔を見せました。
そんなキャンプを振り返ってください。「そうですね。バットも振り込みましたし、特守などで守備も充実して、キャンプならではの量をこなすことができたかなと。その中で実戦では結果を出せて、それは自信につながったと思います」
24日の練習試合・日本ハム戦(名護)ではホームランも。「そうですね。まだこれからもっともっとアピールして、1日も早く上がれるように、しっかり準備をしていきたいです」。翌日の具志川でもファンの方から「ナイスホームラン!」と声をかけられていましたよ。
手応えもありますか?「オフシーズンにやってきたこと、キャンプ中にやってきたことが間違いではなかったというか、それで結果も出て、自分の打席に入れる機会も多かったので、それは手応えを感じています」
今キャンプで取り組んできたのは?「いろんなことですね。1つ何かというのは難しいですけど、体の連動だったり。そういうのを含めて、いい形に仕上がってきたのかなっていう感じです」
最後に「MVP、なんかください!違うか」と言って笑った山本選手。監督に伝えておきましょうか。「はい。何かくださ~い!お願いしま~す!」
そういえば25日は関西からも多くのお客さんが来られていて、山本選手が通ると「きゃあー!」と黄色い声が。山本選手も「どうしたんでしょうね。土曜日だから?」と驚いていました。その翌日「きょうは大丈夫ですね(笑)」と。今季は甲子園でいっぱい声援をうけてくださいね。
うるまに来て上向きの島本投手
キャンプ中に30歳の誕生日を迎えた島本浩也投手。プロ13年目は宜野座キャンプ組でスタートしました。12日の紅白戦で初登板。片山選手をフォークで見逃し三振、続く5番・佐藤輝選手もフォークで空振り三振。最後は木浪選手を二ゴロに打ち取って三者凡退という内容です。
しっかり抑えたものの、これなら大丈夫ということで、未知の若い戦力を見たいから?でしょうね。そのあと、うるま組に回っています。次は20日の練習試合・中日ファーム戦で7回に登板して中飛、左飛、二ゴロの三者凡退と、ここでも無安打無失点でした。
25日にケースバッティングで投げた際、少し話を聞いたのでご紹介します。
結果を出したけど宜野座に残れなかったのは残念ですね。「まあでもファームに来てからの方が、状態はめちゃくちゃ上がっていますよ」。そうなんですね。紅白戦もすごくよかったでしょう?「そうですね」
ここまでの「最初、ちょっと状態が上がらなかったんですけど、キャンプ中盤からだんだん上がってきたので。ここからもっと上げていってオープン戦に呼ばれるように。呼ばれた時にしっかり結果を出せるようにやっていきます」
ヒジとか体に問題はない?「絶好調です!」。おお頼もしい。ことしは開幕からフル回転する左腕に期待しましょう。
祝・卒業!門別投手
23日は具志川野球場で練習試合があり、沖縄の社会人チーム・エナジックと対戦。ドラフト2位の門別投手が、中継ぎでプロ初登板しました。高校から入団した投手が2月のキャンプ中に実戦で投げるのは、2010年の秋山拓巳投手以来です。
1球ごとに帽子が飛ぶピッチングに、2年前の西純矢投手を思い出しましたねえ。でも26日に登板したシート打撃では、あまり飛ばなかったんですよね。その日の練習後、本人もまずそれを口にしています。
「きょうは帽子が落ちることも少なかったと思うんですけど、自分でも考えながら投げていたので。これからどんどん少なくしていくのと、球自体は全然問題なかったのでこの調子で投げていければと思います」
23日の試合と比べて「こないだの実戦よりは、一回経験しているんで投げるコースもいろいろ学べるところがあって、それを踏まえて投げていたので気持ち的にも余裕ありましたし、いいボールを投げられたかなと思います」と振り返りました。
球種は?「真っすぐとスライダー、カーブ、チェンジアップです」。前回は投げなかったチェンジアップ、手応えは?「まだまだでした。これからどんどん投げられるようにしていきたいです」。一番よかった球は「ストレートとスライダー。2つともよかったかなと思います」と門別投手。
次の実戦については「決まっていない」そうで、中継ぎか先発かも「全然、何も決まっていないです」と答えています。次の登板が先発になるのか、そのあたりを和田監督に質問してみました。
「近いうちに一回(先発を)させたいとは思うけど、次かどうかはね。1軍のピッチャーも来たりするので、相談しながらになると思う。ただ、まだ長いイニングは投げていない、1イニングしか投げてないからね。まあでも、いずれ近いうちにどこかでさせたい」とのこと。
最後に、キャンプで見つかった課題を門別投手に聞いたら「決め切る(べき)ところで、もっと決め切れるように。きょうは決まっていたと思うんですけど。これからは、ほぼ100%で決めるところを決め切れるように、っていう制球力をつけていきたいです」と回答。
キャンプを打ち上げてから実家に戻り、きょう3月1日は高校の卒業式。でも久々に同級生と旧交を温める間もなく、式が終わるとすぐ鳴尾浜へ帰ってくるそうです。
<掲載写真は筆者撮影>