イランの新型弾道ミサイル「ハイバルシェキャン」
2月9日、イラン・イスラム革命防衛隊の航空宇宙部隊は新型弾道ミサイル「ハイバルシェキャン」を公開しました。
خيبر شكن
意味は「ハイバル粉砕」、西暦628年にアラビア半島北西部(現在のサウジアラビア)のハイバルで行われたイスラム教徒とユダヤ教徒の戦いにちなんでいます。
外観から分かるのは過去にイランが開発してきたファテフ110、ゾルファガール、デズフール、ハジ・カセムといった固体燃料式短距離弾道ミサイルの系統とよく似た特徴が見えますが、弾頭形状は角度の変化が付いたノーズコーンの新設計でより洗練されています。発表された数値および動画と写真から推定される性能は以下の通りです。
準中距離弾道ミサイル「ハイバルシェキャン」
- 公称射程1450km
- 推定重量5~6トン(同等射程の従来型の3分の1)
- 推定直径80cm前後
- 固体燃料1段式ロケット+分離弾頭
- 弾頭:機動再突入体(MaRV)
- 発射車両:2発積みトレーラー型および1発積みトラック型
公式発表されたハイバルシェキャンの数値は「射程1450km」「同等射程の従来型と比べて重量は3分の1、発射準備時間は6分の1」といった内容です。比較対象の従来型はおそらく液体燃料式準中距離弾道ミサイル「シャハブ3」の系統でしょう。
ハイバルシェキャンは射程の長さに比べて弾体は細めで小さく軽量で優秀な性能です。そして弾頭サイズに比べて操舵翼が大きめで、高い機動性と滑空性を発揮できるでしょう。極超音速滑空ミサイルに性格が近い機動式弾道ミサイルです。
なお弾頭の操舵翼には赤い色の保護カバーが装着されています。そのため厚く見えますが、中身の操舵翼は薄い構造で本体色と同じデザートカラー(砂漠迷彩色)で塗装されています。
イランは欧米との対立を緩和するためにミサイルの射程を「イスラエルには届くが欧州の西部には届かない」という範囲の2000km未満に制限する自主規制を行っています。そのため現状ではこの射程内で性能を高めたミサイルの開発を続けています。
ハイバルシェキャンの発射機は2発積みの大型トレーラーと、1発積みの中型トラックの2種類が確認できます。1450kmの射程を持つ弾道ミサイルとしては推定直径80cm・推定発射重量5~6トンは非常に小さくコンパクトです。
例えば北朝鮮のやや古い液体燃料式の準中距離弾道ミサイル「ノドン」は射程1300kmで推定直径135cm・推定発射重量16トンです。イランの「シャハブ3」はこのノドンと兄弟機であると疑われています。
つまり現行型のシャハブ3と比べて新型のハイバルシェキャンは固体燃料を使用しながら重量が3分の1となりました。運搬できる車両は大幅に小型化、あるいは大型車両に2本積みが可能です。発射準備時間は6分の1となり(液体燃料式は最短30分、固体燃料式は5分)、戦闘能力は飛躍的な向上を達成しました。
北朝鮮も将来的に対日本用のノドンを新型ミサイルで置き換えるでしょう。通常弾頭が前提のイランのハイバルシェキャンと核弾頭が前提の北朝鮮の新型ミサイルは弾頭重量の条件が異なる可能性はありますが、ノドンとは比べ物にならない高い性能が与えられるはずです。