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誤審防止で失われるものもある…上原浩治がロボット審判導入に反対する理由

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 メジャーリーグで2024年から投球のストライク、ボールの判定を機械が行う「ロボット審判」が導入される方向だとの報道があった。メジャーリーグ機構(MLB)のマンフレッド・コミッショナーがスポーツ専門局「ESPN」のインタビューの中で明らかにしたという。

 ストライク、ボールの判定を機械が行い、音声を受信した球審がコールする方法などが検討されているという。試験導入された今季のマイナー3Aでは試合時間が短縮されたということも背景にありそうだ。

 私はストライク、ボールの判定について、機械が行うことには「反対」の立場だ。

 確かに人が行う判定にはミスはつきものだ。1試合で、1チームの球数は150前後、2チームで300球前後になる。現役時代の経験から1試合に10球程度は判定にブレがあったり、「ジャッジのミスではないか」と思ったりすることもあった。ただ、人が判定するのだから投手の立場、打者の立場によって「損得」が生じることは仕方がないと割り切ってきた。野球を始めたときから審判のコールは絶対だと思っていたので、内心ではカッとすることはあっても文句を言った記憶はない。

 確かに、誤審防止の観点から言えば、機械の導入によってメリットはあるかもしれない。一方で、元選手の立場から言えば球審による判定は、ストライク、ボールだけではない部分があることは強調したい。一つには捕手のキャッチング技術の向上をもたらす点がある。ボールの球威に負けてミットが動いてしまうキャッチングは判定に影響が出やすい。だから、捕手はキャッチング技術を磨く。一流と呼ばれる捕手のミットはコースギリギリに構えた位置からピクリとも動かない、流れない。だけど、受けたミットが流れても、機械が判定するならコースさえ通っていればストライク、ボールに関係なくなるだろう。

 あるいは、捕手が構えたミットに寸分の狂いなく投じられたボールに、打者も手が出せなかったら、球審はコースがわずかにずれていたからといって「ボール」と判定することはほぼない。打者もバッテリーも納得の「ストライク」だ。こんな判定は機械には難しくないだろうか。

 バッテリーが球審の癖を把握する〝駆け引き〟も野球の醍醐味だ。審判によって、内と外、場合によっては高低にも、ストライクとボールを判定する〝境界線〟に多少の傾向や癖がある。ボール半個分にも満たないわずかな〝攻防〟。試合序盤でいかに早く見極めるかで試合の流れが変わる。

 球審の傾向や癖、境界線なんていらない。機械が画一的に判定したほうが公平じゃないかという意見もあるだろう。そのことを否定はしない。マウンドのプレートの一塁側、三塁側の位置の違いによって、投じられる角度も機械が正確に判定できるのなら、まさに正確な判定が持ち込まれることになるだろう。

 そうなれば、球審はコールするだけ。そんな状況になるなら、審判って、それでも必要なのかと思ってしまう。プライドを持って判定してくれる審判へのリスペクトが薄まれば、審判をやりたいという人もいなくならないだろうか。

 野球を始めた子どものころから審判にはお世話になる。攻守が代わって守備側がベンチに下がっても、審判は炎天下の中でも底冷えのする寒い季節でもずっとグラウンドに立っている。それでも、たった一球の判定ミスで、ファンから心ない野次を受けたりする。大変な仕事だなと思う。

 スイングの有無などの判定は審判に委ねられるのだろうが、ストライク、ボールの判定はコールするだけの役割になって、球審のプライドはどうなのだろう。ホームランかファールかという点数に直結するところなどでビデオ判定が導入されてきた。その流れの延長戦上に、ついにストライク、ボールの判定を機械がするのかと寂しい気持ちがあるのは、私だけだろうか。野球から人間味がなくなっていく気がする。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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