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「トワイライトエクスプレス瑞風」一番狭い客室に見た夢と憧れ

伊原薫鉄道ライター
報道陣に公開された「トワイライトエクスプレス瑞風」側面のエンブレムが誇らしげだ
ラッピングがはがされた「瑞風」展望デッキには5本の手すりがゴールドに輝く
ラッピングがはがされた「瑞風」展望デッキには5本の手すりがゴールドに輝く

「この部屋いい!乗ってみたい!」

JR西日本が今年6月から運行を開始する、豪華クルーズ列車「トワイライトエクスプレス瑞風」が、先日報道陣に公開され、それまで黒いラッピングフィルムに覆われていた濃緑色の外観とともに、車内が初めて明らかになった。1両まるごとが1室となる、世界的にも例のない客室「ザ・スイート」をはじめ、バーカウンターや茶の卓を備えたラウンジカー、外に出られる展望デッキなど、贅を尽くしたその空間に何度もため息が出たのは、私だけではあるまい。

バーカウンターや茶の卓まで設置されたラウンジカー
バーカウンターや茶の卓まで設置されたラウンジカー
展望デッキは一部区間で列車後端側が開放され、自然の風を感じることができる
展望デッキは一部区間で列車後端側が開放され、自然の風を感じることができる

この日は、ほぼ全ての車内設備を見学・撮影することが可能(「ザ・スイート」だけは撮影NG)だった。私が一番見たかったのは、もちろん「ザ・スイート」。別荘の門扉を思わせる鋳鉄製の手すり、リビングルームのソファに座れば足下まで届く窓が目の前に。列車のそれとは思えない幅広のベッドからは、夜空が眺められる。そして、天窓のついたバスルームには猫足のバスタブが…。わずか数分間の見学〜おそらく「ザ・スイート」の室内に入る最初で最後の機会であろう〜だったが、「美しい日本をホテルが走る」というコンセプトにふさわしい豪華さが感じられた。

2人用個室「ロイヤルツイン」コンセプト通り、ホテルのような空間が広がる
2人用個室「ロイヤルツイン」コンセプト通り、ホテルのような空間が広がる

ところで、「ザ・スイート」以外の2種類の客室は、通常の状態に加えて、ベッドメイキングがされた状態の部屋も見ることができた。いくつかのグループに分かれて順番に見学していったのだが、私と同じグループの大多数が冒頭の言葉を発したのは、実は「ザ・スイート」ではなかった。

それは、4号車に2室が設けられた「ロイヤルシングル」。シングルということで、大多数の客室「ロイヤルツイン」より少し狭い。1人用としつつ、2人利用を想定してエクストラベッドが備えられているが、エクストラベッド使用時は2段ベッドのような状態となる。明らかに設備面では他の部屋の方が勝っているのだが、それでもそんな言葉が出たのはなぜか。

それは、2段ベッドを展開したときの雰囲気が正に「夜行寝台列車」だったからだ。

2段ベッド式の「ロイヤルシングル」まさに寝台列車の雰囲気が広がっていた
2段ベッド式の「ロイヤルシングル」まさに寝台列車の雰囲気が広がっていた

惜しまれつつ引退した先代の「トワイライトエクスプレス」のロイヤルや、かつて筆者が子どものころに雑誌で見たオリエント急行を思い出させる、こぢんまりとしながらも落ち着いた空間。白いリネンがかけられた2段ベッドを見ると、ここはホテルではなく夜行列車なんだという実感が湧いてくる。広さや豪華さとは違った、夜行寝台列車ならではの雰囲気が、そこにはあった。

「瑞風」に先駆けて今年5月にデビューするJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」、そして運行開始から3年半が経過したJR九州の「ななつ星in九州」とも、今まで味わうことのできなかった新たな鉄道旅を意識してつくられている。もちろんそれはそれで素晴らしいものだし、味わってみたいとも思う。だが一方で、これまであった鉄道旅の楽しさを受け継ぎ、子どものころ「いつかは乗りたい」と感じたあの思いを叶えてくれるのは、この「ロイヤルシングル」なのかもしれない。

先代・トワイライトエクスプレスの「ロイヤル」
先代・トワイライトエクスプレスの「ロイヤル」

「瑞風」に関連してそんなことを感じたのは、実は今回が初めてではない。昨年11月に「瑞風」の料金や運行開始時期が発表された際、JR西日本の来島社長が明らかにした“新たな長距離列車”構想。「瑞風よりも気軽に利用できる列車にしたい」という発言に、会場に居合わせた記者たちは大いに関心を寄せた。質疑応答でも、「区間や運賃は?」「どんな車内設備を想定しているのか?」など、質問が相次いだ。まだ検討を始めたばかりで、どんな列車となるかは全く未定とのことだったが、このとき筆者が思ったのは「一部の富裕層だけでなく、より多くの人たちが“ちょっと豪華な夜行列車”を、再び楽しめるようになるかもしれない」という期待だった。おそらく、同じ思いを抱いた人々は多かったに違いない。

かつては全国で気軽に味わえた、夜汽車の旅。単なる鉄道旅という枠を超え、ひとつの文化といっても過言ではない、あの経験を再び味わえる日がいつか来ることを、切に願う。

「瑞風」の車両完成式典にて。アドバイザーやクルーも登場した
「瑞風」の車両完成式典にて。アドバイザーやクルーも登場した
鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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