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『未解決の女 警視庁文書捜査官』は、女性版『相棒』になれるのか!?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

主演が波瑠さんで、脚本が大森美香さん。この組み合わせといえば、NHK朝ドラ『あさが来た』(2015年)を思い出します。

それが今回は刑事ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』(テレビ朝日系)です。しかも主役たちが所属するのは未解決事件の文書捜査を担当する「文書解読係」というのですから、ちょっと異色の刑事物なのです。

「文書解読」のエキスパート

ヒロインの矢代朋(波瑠)は体育会系の熱血刑事。体を張った捜査で負傷してしまい、復帰してみると「特命捜査対策室第6係」への異動が待っていたという次第です。

地下にある、かつて文書保管倉庫と呼ばれていた部屋に行ってみると、そこにいたのは「文書解読」のエキスパート、鳴海理沙刑事(鈴木京香)でした。他には定時退庁が決まりの係長・財津(高田純次)や、コワモテの刑事・草加(遠藤憲一)などがいます。

第1回(4月19日放送)では、若い女性の連続変死事件が発生。彼女たちの部屋に、10年前に殺害されたミステリー作家・嶋野泉水(中山美穂)の著作があったことから再捜査が始まります。

事件の捜査においては、同じ捜査1課の第3行班などが主役であり、「文書解読」が専門の6係はあくまでサポート部隊であり、脇役です。しかし、そんな脇役が主役を食うような活躍を見せるところが、このドラマの醍醐味なのです。

特に「倉庫番の魔女」と呼ばれる鳴海理沙が展開する、文章心理学をベースにした推論が冴えています。何と言っても、この鳴海が面白い。そもそも「文字フェチ」なんですよね。文字からその人の性格を想像していきます。断片的なメモも暗号みたいに見えてくる。

確かに、文章を書くときって、無意識のうちに、その人の考えていることが現われていたりするものです。それに文字は紙に残るために、後で分析することも可能で、それが証拠品になったりもします。

女性版『相棒』の試み!?

また第2話(4月26日放送)は、12年前に起きた幼女誘拐事件と、新たに発生した社長令嬢誘拐事件がリンクする展開でした。鳴海は誘拐犯と被害者の家族との会話を分析し、小さなキーワードから真犯人へと通じる糸口を見つけます。頭脳の鳴海と体力の朋。朋のほうは重いバッグを背負って疾走していました。

鳴海の一見とっぴな推測も、それを重ねることで隠れていた真相が明らかになっていく。捜査のプロセスで、鳴海が朋を自在に動かしていく様子はかなりの見ものです。その意味では、本当の主役は波瑠さんではなく、鈴木京香さんなのかもしれません。

実際、麻見和史さんの原作小説(『警視庁文書捜査官』シリーズ)の主人公は、鳴海理沙です。波瑠さんが演じている矢代朋は、原作の中では矢代朋彦という男性刑事で、鳴海にこき使われる、ややゆる目のキャラです。

しかしドラマのほうでは、波瑠さんにもちゃんと見せ場を作り、いわゆる「バディ物」として成立させているわけです。テレ朝的には「波瑠主演」。見た目的には「ダブル主演」。そして実質的には「鈴木京香主演」のドラマってところでしょうか。

とはいえ、あまり堅いことは言わず(笑)、まずはこの女性版『相棒』の試みを楽しめばいいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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