地球の未来が見える場所「北極圏」をゆく
5番目の季節「極夜」
12月、北半球では一年で最も昼間の時間が短くなる時期です。北緯66度33分より北の地域「北極圏」では太陽が一日中姿を見せない「極夜」がやってきます。
表紙の写真は北緯68度に位置するフィンランド、イヴァロ空港(Ivalo airport)の極夜です。時刻は午後1時ごろ、太陽が地平線から昇らないといっても、一日のうち数時間だけ本が読めるほどに空が明るくなります。この時期、フィンランドの北部ではオーロラシーズンですが、朝焼けとも、夕焼けともいえない神秘的な極夜の空は、オーロラにまけない感動を与えてくれます。
地球の未来が見える場所
北極圏は温暖化による平均気温の上昇が最も大きく、地球上において気候変動による影響が最も顕著に表れている地域のひとつです。気候変動の関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書によると、北極域の年平均海氷面積は連続して減少していて、その減少率は10年間あたりで約50万平方キロメートル、日本の面積の1.3倍に達しています。少なくとも、過去1450年間で前例のないペースで、北極海の海氷が少なくなっているのです。
また、ロシアヨーロッパ北部では永久凍土の温度が最大2度上昇していることが分かりました。永久凍土が融解すると、含まれている二酸化炭素やメタンガスが空気中に放出されて、温暖化をより進行させるおそれがあります。
北極圏における気候の変化は、地球全体の大気の流れや海に影響し、ひいては日本を含む世界各地の異常気象の引き金になります。今、温暖化研究の最前線は北極圏なのです。
北極海の海氷が少なくなると、日本は寒くなる?
宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、今年の北極海の海氷面積は9月中旬に、約480万平方キロメートルまで縮小し、この夏も北極海の海氷は記録的に少なくなりました。海氷の大きさは2000年に入って、毎年のように最小記録を更新し、2012年には観測史上最小の349万平方キロメートルを記録しました。 1980年代の平均的な面積と比べると、半分以下の小ささにまで縮小しています。
北極圏の研究は日々、世界中で行われていますが、最近よく知られているものとして「バレンツ海の海氷が少ない年は、日本の冬が寒くなる」があります。
理由はやや難解ですが、簡単にいうと、バレンツ海の海氷が少ない冬は、低気圧の通り道が通常よりも北極海側に北上します。低気圧は暖かい空気を持ち込むため、北極域は気温が高くなる一方で、日本の冬の寒さに関係する大陸では気温が低くなります。ちょうどそこは、日本の寒波の源流ですから、日本は寒い冬になりやすいというわけです。
日本では、1980年代後半から1990年代にかけて、記録的な暖冬が続き、スキー場の雪不足が取り上げられました。しかし、最近は暖冬傾向に変化がみられるようになり、この冬が寒くなれば3年連続の寒冬となります。ともすれば、温暖化に逆行するようにも思える日本の冬に疑問が深まります。
【参考文献】
IPCC 第5 次評価報告書 第1 作業部会報告書 気候変動2013:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(気象庁)
北極域の海氷面積について北極圏研究サイト
バレンツ海の海氷減少と日本の冬 JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)
写真はすべて著者が撮影したものです。