無人で帰還「スターライナー」ISSでは謎の音も発生、8日のはずが3カ月に及ぶ長期の宇宙飛行へ
9月7日午後1時頃(日本時間)、国際宇宙ステーション(ISS)を出発したボーイング社の新型宇宙船「スターライナー」が地球に帰還しました。本記事では、スターライナーに生じていた不具合をはじめ、宇宙船が発する謎の音、そして地球の帰還までを解説していきます。
■8日間の予定が3カ月に及んだスターライナーのミッション
9月7日午後1時頃(日本時間)、スターライナーはアメリカ ニューメキシコ州ホワイトサンズへ着陸しました。スターライナーはアメリカ製の宇宙船として唯一地上への着陸が可能な宇宙船であり、パラシュートとエアバックシステムを駆使して安全な着陸を行います。しかし、本来であれば打ち上げから8日後に宇宙飛行士2名を乗せて帰還する予定でしたが、結果としては3か月後に無人で帰還することとなってしまったのです。
時をさかのぼること2024年6月5日、ボーイング社の新型宇宙船「スターライナー」が打ち上げられ、宇宙飛行士2名が宇宙空間へ到達します。宇宙へ打ち上げられたスターライナーは、24時間かけてISSへのドッキングにも成功しました。
しかし、スターライナーに様々な不具合が発生することとなります。まず、ロケットの打ち上げ前から燃料であるヘリウムの漏洩が見つかっており、打ち上げ自体の延期が続いていました。そして、ISS到着時にも機体からヘリウムが漏れており、機体の28基あるスラスターの内、5基が故障するという問題が生じました。これらの不具合により、一時ISSとのドッキングを遅らせる事態となります。
そして、ISS到着後にも不具合は続きます。新たにスラスターの突然停止というトラブルが発生し、その対応に追われている状態が続きました。
■宇宙飛行士はスペースX社のドラゴン宇宙船で帰還することに
NASAはあくまでもスターライナーで宇宙飛行士を地球へ帰還させる計画を進めていましたが、8月24日にスターライナーによる宇宙飛行士の地球帰還を断念します。ボーイングは地上で様々な試験を実施し、地球再突入時の安全性を評価しましたが、満足する結果を得ることができず、宇宙飛行士の人命を優先したと考えられます。そして、ISSに残された宇宙飛行士は、スペースX社が運用している「クルードラゴン」で地球へ帰還することが決定されます。
これに伴い様々な計画が変更となりました。まず、クルードラゴンは当初、8月18日に宇宙飛行士4名を乗せてISSへ打ち上げ予定でした。しかし、スターライナーの不具合から打ち上げを9月24日以降に延期することとなります。そして、クルードラゴンの乗員を4名から2名に減らし、スターライナーの乗員2名と2025年1月に地球へ帰還する予定です。宇宙飛行士にとって当初1週間であったISS滞在期間が、8カ月もの長さに延長されることとなりました。
NASAは本来、スターライナーとクルードラゴンの2機を同時に運用することにより、効率的な運用や冗長性の確保、リスク低減などを目指していました。しかし、今回の決定はスターライナーとボーイングにとって大きな打撃となり、2機体制が確立するのはさらに先になりそうです。
■スターライナーから謎の音が発生?
スターライナーがISSに滞在している最中には、スターライナーから謎の音が発せられていることが宇宙飛行士より報告されました。それは、「ソナー音のような脈動音」であり、原因は当初不明でした。宇宙飛行士からは「宇宙船の中で聞きたくない音だ」というメッセージが残されています。まるで宇宙人からの接触信号のような音ですが、不具合が発生しているスターライナーが、宇宙飛行士に対して何かを伝えようとしているのでしょうか。
そして9月3日、NASAより発表があり、奇妙な音の正体が遂に突き止められました。それは、スターライナーとISS間のオーディオ構成によるものであり、ノイズやフィードバックが発生したことが原因とのことです。宇宙人からの信号ではないとのことで、一安心ですね。
■スターライナーってどんな宇宙船?
ボーイングのスターライナーは、地球とISSとの間を往復する21世紀の宇宙カプセルです。外観はロッキード・マーティンがNASAのために開発しているオリオン宇宙船と似たカプセル形状です。宇宙飛行士が搭乗するクルーモジュールと、軌道上でのマヌーバ、姿勢制御などの推進機能や電力供給機能などを持つサービスモジュールから構成されています。
高さは5.03m、直径は4.56mで、アポロ指令船よりも大きく、オリオン宇宙船よりも小さいサイズとなっています。スターライナーは低軌道への輸送のみに使用される予定のため、オリオン宇宙船のような地球外軌道まで飛行するための装置は搭載しません。最大7人のクルーを乗せる事が出来、またはクルーと貨物の両方収容出来る設計です。生命維持装置は低軌道仕様で小型軽量化されるため、室内空間の容積は大きくとることができます。軌道上には最大7ヶ月間滞在でき、最大10回再使用できるような設計です。
船体は革新的な溶接のない設計で、船内にはボーイングのLED照明「スカイライトニング」や無線インターネットが備えられているほか、乗組員用にタブレット型の操作パネルが採用されています。ボーイングは2015年9月、「スターライナー」と命名しました。この名称は、同社の歴代の旅客機ストラトライナーやドリームライナーに連なるネーミングとなっています。
【関連動画】
【関連記事】