先進国で、途上国で、はしかとの闘いに苦戦
1月7日、世界保健機関(WHO)が、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で続くはしかの流行による死者が6000人を超えたと発表した。コンゴでは昨年の流行開始から、5歳未満の子ども1800万人にはしかの予防接種を実施しているが、接種率が低い地域や基礎医療が特に脆弱な地域もあり、資金確保を含めた対策強化が課題となっている。
世界全体ではしかの症例が増加。2018年は14万人に
はしかは現在も途上国を中心に、5歳未満の子どもの主な死因の一つだ。それでもワクチン接種を拡大するなどの努力で、2000年に世界全体で約55万人だった死者が、2016年には約9万人にまで減少していた(WHO発表)。しかし、昨年末、WHOとアメリカ疾病対策予防センター(CDC)は、2018年のはしかによる死者が14万人に上ったとの推計を公表した。近年は先進国でも、はしかの発症が懸念され、実際、昨年8月には、英国、ギリシャ、アルバニア、チェコの4ヵ国が、WHOの「麻疹排除国」認定を失っている。安全で効果の保証されたワクチンが存在しても、世界ははしかとの闘いで苦戦を強いられている。
コンゴでは、エボラウイルス病(以下、エボラ)の流行も収まらず、2度めの年越しとなった。2018年8月以降、2020年1月9日までに3393人の感染者が確認され、そのうち2235人が命を落としている。12月23日から1月5日の2週間には、28人の新規感染者が確認された。感染経路がわからない症例があること、66日間新規感染がなかったイトゥリ州で再び新規感染者が見つかったことから、状況は予断を許さない。
ワクチンとワクチンへのアクセスの両輪で
エボラは長年、認可薬、認可ワクチンが開発途上で、感染地では未承認薬・ワクチンがコンパッショネート・ユースで使用されてきた。コンパッショネート・ユースとは、命を脅かす疾患などに対して、代わりの治療法がない場合などに、人道的配慮に基づいて有効性・安全性の期待される未認可薬を使用することだ。こうした中、コンゴのエボラ流行地で高い予防効果が確認されたMerck社のワクチン「Ervebo」について、欧州医薬品庁 (EMA)の勧告に基づき、欧州連合(EU)が昨年11月、条件付きで販売を承認。さらに、12月には米国食品医薬品局(FDA)が同ワクチンの米国国内での流通を承認した。他方日本では、東京大学医科学研究所附属病院がエボラワクチン「iEvac-Z」について、2019年12月から第I相臨床試験(少数の健常人を対象に試験薬の安全性および体内動態を確認する試験)を開始している。
命を脅かす感染症に対して開発が進むワクチン。既にワクチンがあっても、アクセスがないことで失われる命。感染症への対策を推進していくためには、ワクチンと、ワクチンへのアクセス両方が必要だ。さらに、世界規模の専門機関のネットワーク、国・地方行政の保健システム、民間を含めた対策ツールの研究開発、そして他国の例が示すように、世界中どこにおいても市民の理解と参加がなければ、感染症の制御は実現しない。