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新聞休刊日とは何だ。移ろいゆく役割と失ってはならない使命

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
シニア層には健在だが……(ペイレスイメージズ/アフロ)

記者は案外と休めない

 今日は新聞休刊日です。

 新聞休刊日はかつては元旦および春と秋の彼岸の中日ぐらいでしたが、その後徐々に増加し、1992年頃からおよそ月1回休むようになりました(その後いくらかの変遷あり)。主な理由として各社は新聞販売店の苦境を挙げています。91年10月6日付朝日新聞によると、「休刊日を増やすことによって」販売店員の「全従業員が、せめて週1回は休めるように、という願いにほかなりません」とあるように。他社の主張もおおむね同じようなものでした。

 よく「記者が楽をするためだ」などと批判されるのですが、現場は案外そうでもありません。設定されるのは原則として月曜日か連休明け、および1月2日。つまり編集側からみると前日の夕刊(日祝日はそもそも夕刊を出さない)と当日の朝刊がない=記事に反映できない、となります。もともと休日は官公庁や自治体も休みで、官房長官の記者会見もなければ裁判所も開廷しませんから編集態勢は翌日が休刊日であろうがなかろうが縮小します。半面で殺人鬼や自然界の変動は記者のワークライフバランスなど一顧だにしないわけで、取材活動を完全に休むわけにはいかないのです。

 そうした発生モノがあれば翌日に朝刊が出ないのはむしろ強い圧力で全国紙の多くは同日夕刊に叩き込むため休刊日早朝から騒然となります。なお大きな行事(特に選挙や五輪)があるとわかっている場合は休刊日を設定しないケースも。

印刷は委託しているケースも

 販売店が1紙しか扱っていなければ各社バラバラな休刊日設定も可能でしょうが現状は複数紙を扱う店の方が多いため、日程をそろえないと所期の目的が達成できないという理由もあるようです。

 ところで日本の一般新聞は世界でも類をみない戸別宅配制度が充実しています。平常だとギリギリ午前1時半ごろまでに記事を突っ込めば、印刷→運送→宅配で同日早朝には自宅に届くという凄いシステムなのです(最終版の場合)。したがって休刊日は印刷所の休業をも意味します。近年は自社以外の印刷会社に委託するケースも増えています。そこで「輪転機が止まった」などというアクシデントが起きたらさあ大変。休刊日はそうした事態を避けるための保守点検の機会にもなっているのです。

「産経の乱」

 論調は異なれど新聞を取り巻く環境に大きな違いがないため歩調を合わせてきたところ2002年、業界を騒がす事態が発生しました。産経新聞が4月から首都圏で夕刊を廃止して「朝刊単独紙」に転換するとした態勢変更の一貫として、本来は「新聞休刊日」である同年2月12日(建国記念日の翌日)に「朝刊即売版」と称する朝刊を駅売店のみ(即売紙)とはいえ発刊したのです。

 他社は大あわてで対応しました。社説などによると「(当時開催中のソルトレークシティ)五輪が熱戦を繰り広げており、連休中のニュース報道が欠かせないとの立場から、特別に朝刊を制作して」(読売新聞)などと理由が付されました。少々苦しい。五輪中なのは前々からわかっていたからです。この「産経の乱」は5月に終了しました。

 この出来事は図らずも新聞社が抱える2つの問題を表出させました。1つは産経が踏み切った夕刊廃止。「朝刊即売版」は結果に過ぎず原因は夕刊にあったのです。

 新聞がマスメディアの王者であった時代、速報と広告収入の両面から夕刊は大きな武器でした。しかしこの時点で少なくとも産経には大きな重荷と化していたのです。既にこの頃、各社の「休刊日のお知らせ」には、「系列の地上波テレビやCSテレビないしインターネットの情報サービスでカバーします」との文言が並んでいたのです。今ではさらに進んでネットでの記事しか読まない層が増えています。

宅配システムが果たす役割

 もう1つは宅配のあり方。「産経の乱」に際して読売は社告で「定期購読者にお届けする」と宅配もすると伝えました。でも一般紙の売上げは今も昔も宅配中心。言い換えると即売紙での競争はさほどでもありません。「産経の乱」終息の大きな要因でした。

 現代において早朝届く新聞を読んで、または持ったまま通勤時間に広げている方がどれだけいるかという問いは新聞社内でも明らかに存在します。一方で宅配ならではの良さがあるのも事実。阪神大震災の際、避難所に届けられた新聞は他メディアでの情報収集が難しい方々に有益でした。東日本大震災の時に電気も印刷機能も失った地域紙「石巻日日新聞」は記者が手書きで作った壁新聞を震災翌日の3月12日から石巻市内の避難所に張り出して世界中から賞賛されています。こうした「雨が降っても槍が降っても直に届ける」姿勢は報道の原点といえ失ってはならない姿勢でしょう。

 新聞が文字通り「新聞紙」に印刷して宅配するだけが唯一のビジネスモデルと考えていたら早晩滅亡しそうです。他方で特に大手新聞社は今でも巨大な情報機関であり続けていて取材→執筆→編集→校閲→整理→印刷→運送→宅配に至る堅牢なシステムを放り出すのはいかにももったいない。近年は紙の新聞のみならずネット上での配信が多く読まれているのはご承知の通りです。新聞を取っていなくても読んだ記事が実は新聞社や通信社(共同通信など)の配信というケースも当たり前となりました。

 紙の新聞を届けるのが「枯れた技術」として生き残りつつ最先端の役割はネット上で果たせないかという模索が続いています。休刊日が主に新聞販売店や印刷所のためにあるならばなおさら重要なテーマでしょう。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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