200年に一人の天才ボクサーが語る「井上尚弥の芸術的な時間差カウンター」
圧巻のファイトだった。
試合開始のゴングから59秒。井上尚弥の放った左ジャブがファン・カルロス・パヤノの右頬、そして右ストレートが右顎を捉えると、34歳のドミニカン挑戦者はマリオネットのように腰からキャンバスに崩れ落ちた。
そのワンツーで、WBAバンタム級タイトルマッチ及びWBSS準々決勝は終了した。
“モンスター”井上尚弥――まさに“化け物”的な強さである。
さて、今回も本コーナーでお馴染み、元WBAジュニアウエルター級1位、日本同級&日本ウエルター級王者の亀田昭雄に同ファイトを解説して頂こう。
「申し分のない試合でした。井上は腰をよく回して、左ジャブというよりも左ストレートを出しました。パヤノは井上のパンチを芯でもらわないように顔をそむけ、次の瞬間、顔を井上のほうに向けて自分が攻撃に出ようとした。その0コンマ何秒かの間に、更に腰を入れた井上の右が入ったんです。
要するに、井上は“時間差カウンター”で相手を沈めたんですね。もの凄く高い技術です。“一人カウンター”と表現したほうがいいかな。あんな綺麗なカウンターは滅多に見られないですよ」
具志堅用高より一つ年下の亀田は、現役時代に在籍していた協栄ジム会長の故金平正紀に「具志堅が100年に一人の選手なら、亀田は200年に一人の天才だ」と評された選手だった。その亀田が自分の能力など、井上尚弥の足元にも及ばないと脱帽した。
「今回の井上のカウンターは、おそらく練習の賜物でしょう。あんなパンチを打てる選手は世界中探してもなかなかいません。相手の動きを躱してカウンターを打つことは出来ますよ。でも、自分でカウンターを作ってしまえる選手なんて、今なら井上くらいですね。
間違いなく、日本ボクシング史上、最高の逸材です。早いラウンドで相手をKOしたとか、見る人を熱狂させたとかよりも、あのテクニックに驚きました。左を伸ばして相手を誘って、挑戦者がよけた瞬間に右をぶち込む…凄いですね、本当に」
亀田が挑んだ当時のWBAジュニアウエルター級チャンピオン、アーロン・プライアーは、鬼籍に入った今尚、<ボクシング史上に残るパウンド・フォー・パウンド>と呼ばれるが、井上もその域に達しつつある、亀田は興奮気味にそう話した。
「1ラウンド58秒まで、井上はきっと仕掛けるだろうな、と思って見ていました。彼は勘もいいし、パンチの軌道を見抜く才能もあります。相手のパンチの出どころも見えていましたね。上手いし、度胸もある。本当に、これからどこまで伸びるか楽しみです」
今回、亀田はこう結んだ。
「僕も200年に一人なんて言われましたが、その宣伝文句は、井上尚弥に差し上げます(笑)。素晴らしいボクシングを見せてくれました。ありがとう! と言いたいです。まだまだ井上は伸びるでしょう。僕も期待しながら見守りますよ」