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コロナ疲労を我慢する若者へ「ありがとう」政治家の言葉が反響を呼ぶ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
27日に小学校の再開を喜ぶノルウェー首相(写真:ロイター/アフロ)

北欧諸国といえば、世界の幸福度ランキングでトップ常連で有名だ。その理由の一つには、信頼できる腐敗の少ない政治体制と、市民と政治家の近い距離感にある。

新型コロナで、疲労や不安を感じている人が多い。国のリーダーである政治家の言葉や打ち出す政策は、市民の心の支えにもなれば、絶望感が増すきっかけにもなる。

「北欧の政治家たちは、若者とのコミュニケーションが上手だ」と、私は取材していてよく感じる。

ノルウェーやフィンランドでは、首相が子ども向けの記者会見を開催。「お誕生日会に行ってもいい?」、「いつになったら学校に行けるの?」。首相や大臣らは、子どもからの質問に丁寧に答えた。

休校で心の不調を感じる子どもや若者

ノルウェーでは、3月中旬からおよそ1か月にわたり、幼稚園・保育園から大学まで、全ての教育機関が休校となっていた。

ずっと自宅にいることで、メンタルヘルスを崩す若者も多い。

狭い家の中には家族が全員いて、職を失って心が不安定になった親もいる。友達に会えず、学校に行けず、外で思いっきりみんなで遊ぶこともできない。家庭内暴力や複雑な家族関係などに悩む子どももいる。

さまざまな対策を行った結果、ノルウェーでは急激な感染者の増加を抑えられていることから、6日に政府は「感染拡大はコントロール下にある」と発表。

教育現場で感染の防止対策がとられている場合は、

  • 20日から幼稚園・保育園の再開
  • 27日から小学校1~4年生、学童保育、高校・大学の一部の学生を対象に再開

感染を心配して、子どもを通学させたくない保護者もいる。

27日、ホイエ保健・ケアサービス大臣は、かけがえのない青春時代がコロナによって激変している若者たちに、「あなたたちのことは忘れていない、ありがとう」という感謝の言葉を述べた。

ホイエ保健大臣(保守党)。同党の男性パートナーと同性婚をしていることでも有名 撮影:あぶみあさき Photo: Asaki Abumi
ホイエ保健大臣(保守党)。同党の男性パートナーと同性婚をしていることでも有名 撮影:あぶみあさき Photo: Asaki Abumi

最年少の子どもたちが学校に戻る日を、誰もが楽しみにしていますね。

私は年長の子たちについて、話をしたいと思います。

学校の再開をまだ待っている子たちのことです。

私たちの若者に、こう伝えたい。あなたたちのことを忘れてはいません、と。

この大変な時期に、感謝された職業の人は大勢いますね。

そろそろ、若い人たちにも、ありがとうと言う頃合いです。

若い人たちも、たくさんのものを犠牲にしています。

在宅勤務にフラストレーションがたまり、政府による山小屋の宿泊禁止令に戸惑っている大人がたくさんいます。

その気持ちは私にもわかります。

しかし、山小屋は今も静かに、あなたが訪れる日を待っています。

職場に戻れば、仕事もあなたを待っています。

でも、若い人にはそうはいかないのです。

あなたが14歳だった頃の春は、あなたを待ってはくれません。

17歳の夏に戻ることは不可能です。

高校の卒業前のお祝いの時期も、やり直すことはできません。

私たち大人は、「来年の夏」のことを話しています。それは繰り返し体験できる、割引価格でひき肉やトイレットペーパーを買うことができる、中年の大人が想像している来年の夏です。

若者には、また過ごすことのできる来年の夏なんて、こないのです。

若い時に大切なのは、今日や明日、何が起きるかです。

サッカーの試合で得点を入れたり、修学旅行で好きな人に会うことを、今年の夏や春に起きることを、楽しみにしていたでしょう。

でも、ウイルスが全ての夢を破壊しました。

両親が自宅で大声でビデオ会議をしている時に、家でオンライン授業に集中することなんてできません。

若いあなた方に、私はこう言いたかった。「全ては元に戻るよ」と。

でも、私はそれを言うことができません。

いつもの暮らしに待ったをかけられ、行動を変えることを余儀なくされるのは、若い人たちです。

楽しみにしていたことができたら、どれほどよかったことでしょう。

今年は特別な時です。それでも、若いあなた方に良い時が訪れることを、望まずにはいられません。

全てのノルウェーの若者たちへ。ありがとう。

2020年に高校を卒業予定のルスの皆さんへ。ありがとう。私たちがあなた方を忘れることはありません。

出典:ノルウェー政府の記者会見スピーチ、大臣のFacebookページから

大臣が卒業前の高校生に特に感謝するのには理由がある。卒業前の彼らは「ルス」と呼ばれ、本来であれば楽しいお祝いの時期を過ごしていたところだ。

ルスの集まりや行事が中止されている事態に、同情している人は多い。

大臣や国会議員らも、みんなルスだった頃があるから、その落胆がどれほどのものか理解できるのだ。

ホイエ大臣は、自身のFacebookに自分が若かった頃のルス時代の写真も載せた。

医療現場やスーパーなどで働く大人たちに感謝する動きはたくさんあった。でも、振り返ると、若者に感謝する動きはなかった。子どもも若者も、犠牲にしているものがあるのに。

記者会見での大臣の若者への感謝の言葉は、現地で大きくニュースになり、SNSでも反響を呼んだ。

大臣のスピーチは自身のFacebookにも投稿され、19時間の間に7800回シェアされ、1100以上のコメントがついている。

私個人のFacebookを見ても、「いい言葉だ」と投稿を共有しているノルウェー人の友人たちがいた。

改めて思い出した人も多かったのだろう。「若い人だって、我慢しているのだ」と。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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