バンド結成10周年で映画デビュー。SILENT SIREN・すぅは女優にどう挑んだか?
今年で結成10周年となるガールズバンドSILENT SIRENが、主演映画『もしもあたしたちがサイサイじゃなかったら。』でスクリーンデビューする。通称“サイサイ”のメンバー4人が現実とパラレルワールドでの自分たちを演じる、虚実入り乱れた青春ラブコメSF。ヴォーカル&ギターとしてフロントに立つすぅこと吉田菫に、自身にとっての映画と演技への取り組みについて聞いた。
映画は1日1本観ています
――すぅさん自身は映画を観ることはありますか?
すぅ 映画はかなり好きです。1日1本は絶対観ますね。
――それは地元の福島にいた頃から?
すぅ はい。TSUTAYAさんに行くのが大好きで、DVDをまとめてめっちゃ借りてました。最近はNetflixとかの配信が便利なので、より観やすくなって、洋画も邦画もアニメも観ます。
――好きな作品の傾向はありますか?
すぅ ラブコメか、スッキリ終わらないで自分の解釈で答えを決めるような映画がいいですね。観た後に心がモヤッとする作品が好きです。
――たとえばどんな作品ですか?
すぅ アニメだと『時をかける少女』。洋画では『ムーラン・ルージュ』というミュージカル映画がずっと好きで、邦画だと『百万円と苦虫女』を落ち込んだときに観たりします。
――ラブコメのほうでは?
すぅ ラブコメはマジで全部好きです(笑)。最近だと『春待つ僕ら』が原作のマンガから好きで、DISH//の北村(匠海)くんたちが出ている映画もすごく良かったです。
――それだけ映画を観ている中で、自分で演技をやりたくなったことはないですか?
すぅ まったくなかったです。小学校のとき、なぜか演劇クラブに誘われたことはありましたけど。ちょうど『ハリー・ポッターと賢者の石』がヒットしていた頃で、ハリー・ポッターのお芝居をやった記憶はあります。
――ハーマイオニー役ですか?
すぅ 全然そんなメインでなくて、脇役の脇の脇みたいな感じで、ただ立っていただけ(笑)。だから、まったく覚えてないんですよね。当時は演技はもちろん、映画が好きな感覚もなかったので。
恥ずかしくて何回も撮り直しに
『もしサイ』はもともと、ベースのあいにゃん(山内あいな)が昨年、罰ゲームとして配信した『31時間てれび』内の企画のひとつで撮ったドラマ。反響を呼び、同じ高橋朋広監督で映画化された。サイサイがサイサイ役で主演。ライブ中、「恋のエスパー」のお約束で“STOP”と時間を止めると、時空が本当に歪み、すぅは気づくとパラレルワールドの専門学校に。ライブ会場に戻るため、サイサイが存在しない世界で他のメンバーを探す。
――最初に『もしサイ』のドラマの話が来たときは、どう思ったんですか?
すぅ もともと自分たちで勝手にCMふうの動画を作るのは好きで、その延長線で携帯とかでラフに撮るのかと思っていたんです。だから、ちゃんと監督に入ってもらって、1時間尺の本格的なものになると決まったときは、不安しかありませんでした。演技はやったことがなかったし、まず台詞を覚えられるか心配で。
――実際、台詞を覚えるのは苦労したんですか?
すぅ みんなで協力し合って、ライブの合間や仕事の空き時間に、ふと誰かが台詞を言ったら、その次の台詞を続けるとかして、お互い何とか覚えられました。
――映画化するときは、また違う心持ちもありました?
すぅ それは全然ありました。私たちはいつも、ちょっとふざけちゃったりするんですけど、映画の撮影ではまったくふざけることなく、ガチで頑張りました。陽が沈むまでに撮らないといけなかったり、学校を借りられる時間が限られていたりして、その中でちゃんとキメないとダメだから、焦りながらやっていました。
――メンバー全員自分の役で、素の部分も出ているんですか?
すぅ 感情移入できる部分もありましたけど、自分を演じるのはかえって難しくて。自分の役とはいえ台本はあって、台詞に普段は言わない言葉もあるのが、本当に恥ずかしかったです。
――ひなんちゅさんに「どんなに嫌われても私はひなが好きだよ」と言って、おでこを付けたりしてました。
すぅ あれはヤバイですね(笑)。そんなこと、10年で一度も言ってませんし、やっぱり恥ずかしくて、内心ドキドキでした。でも、時間がなくて「それどころじゃない!」という。恥ずかしいことを何回もやるより、一発でキメちゃったほうがいいと思って頑張ったんですけど、結局何回もやりました(笑)。
――つい笑っちゃったりして?
すぅ 笑えればまだ良かったんですけど、笑えないくらい恥ずかしくて。照れて「ウーッ……」となっちゃう感じでした。
――劇中のすぅのテンションやノリがいい感じは、普段のすぅさんのままですか?
すぅ どうなんですかね? 客観的にはわかりませんけど、たぶんそうなんじゃないですか? でも、私は1人でブツブツ言ったりはしません(笑)。
他のメンバーのラブコメ場面は楽しかったです
――他にも手こずったシーンはありました?
すぅ いろいろなところでありました。序盤にステージで時間を止めちゃって、パラレルワールドに行って、専門学校の教室で目を覚ますんですね。そこに本当の学生さんたちがいてくれて、みんなに見られているのがすごく恥ずかしかったです。それに先生役が(事務所の)社長で、「山口社長!」みたいなやり取りをするのも、めちゃくちゃ照れくさいうえに、台詞が詰まっていて。
――その辺のくだりは早口でまくし立てていました。
すぅ 「これはどういうことですか!? どうなっているんですか!?」みたいにバーッとしゃべるのが難しかったです。台詞は「自分なりのニュアンスに変えていい」ということで、やっぱり恥ずかしさが残ってしまってダメでした。
――あいにゃんさんを巡って、男性2人が話しているのを陰で聞くシーンも面白かったです。
すぅ 他の人がメインのシーンは楽しかったです(笑)。あそこも自分の台詞は特になくて、あいにゃんのラブコメ的なシチュエーションを見て「ウーイ!」みたいになって、楽しんでできました。
――「オーッ!」と言うときの表情とかは、オーバーにやったんですか?
すぅ あれはオーバー過ぎましたけど(笑)、普段からああいう顔をすることは、メンバー内では結構あります。
――宝塚ふうキャラの“ユカロス”に扮したゆかるんさんとの掛け合いは、笑いそうになりませんでした(笑)?
すぅ 台本やメイクを見たときは笑っちゃいましたけど、ゆかるんが難しい台詞を頑張って言っているのを見て「すごいな」と思いました。コメディチックでも感動的なシーンがわりとあって、あそこもユカロスがどこから来たかもわからない私たちの情熱に導かれて、自分を必要とする親衛隊に別れを告げるんですよね。「さよなら」ではなく「愛してるぞ」と言うのがグッときて、好きなシーンです。
メンバーでぶつかることは実際にあります
――すぅさんとひなんちゅさんからバンドが始まったりするのは、実際のSILENT SIRENの歴史を反映しているんですか?
すぅ 監督が反映してくれていたと思います。映画では私とひながインドネシア体操に反応したのがきっかけになってましたけど、実際は10-FEETさんの曲でした。次にあいにゃん、ゆかるんと誘っていったのも同じ。実話とリンクするところは結構多くて、お客さんはそこまで深読みはしないでしょうけど、やっている側としてはより感動しました。
――撮影しながら思い出すことも?
すぅ いろいろなところでありました。冒頭のようにメンバー同士でぶつかって「10年やっていればこういうこともあるよね」というのも、実際にあったと思います。映画みたいな感じではなかったけど、1人1人の考え方が違うのは当たり前なので。
――音楽のことでケンカ腰にやり合ったり?
すぅ そうなったこともあります。でも、結果的に話し合って解決するのが、サイサイの良いところだと思います。
――サイサイが居酒屋で飲んでいるシーンもありました。
すぅ みんな居酒屋は大好きです。
――サイサイくらいビッグネームになると、居酒屋よりシャレたレストランとかに行くのかと思ってました。
すぅ 全然ビッグじゃないですけど、しっかりドレスコードまで決めて高級なお店に行くこともあれば、ざっくばらんな居酒屋にも全然行きますね。あいにゃんがお酒好きで、打ち上げでも居酒屋は多いです。
――すぅさんも飲むんですか?
すぅ 私はお酒は飲みませんけど、おつまみがすごく好きなので、アサリの酒蒸しやキュウリやイカを頼みます。全然庶民的です(笑)。
自分のバカっぽい話し方にヘコみました(笑)
――今回映画を撮って、演技に興味が湧いたりはしました?
すぅ ドラマや映画を観ていて、俳優さんをすごく尊敬するようにはなりました。見方が変わったというか、アイドルの方がドラマに出ていたりするのも、本当に「上手い!」と思います。私、観ながら巻き戻すことが結構あるんです。前に戻って伏線回収みたいなことをよくするタイプですけど、「待って! この演技は……」って、より戻るようになりました。その分、女優さんは軽率にできるようなお仕事ではないと思っています。
――演技に面白みは感じましたか?
すぅ まだ面白いところまでは行きませんでした。初めてで、難しいという感覚のほうが大きくて、出来上がってやっと安心できました。
――ミュージシャンでお芝居もやる人もいます。
すぅ そうですね。私は中島美嘉さんが『NANA』で演技されていたのが印象的です。あれもめっちゃすごいことだったんだと、改めて思いました。
――皆さん、上手いですよね。
すぅ 表現するという面では、たぶん音楽と一緒なんでしょうね。バンドでも自分を表現しますけど、演技は誰かに乗り移らないといけないので、私にはまだちょっと難しい気がします。
――それでも頑張ってやってみようとは?
すぅ 「私は女優になりたい!」とは思いません。でも、また続編とか機会があったり、バンドに繋がるような何かがあれば、頑張ってみたいとは思います。
――すぅさんは歌声はもちろん、普段の声もよく通って女優に向いている気もします。
すぅ ありがとうございます。でも、映画を観て「私って、こんなバカっぽいしゃべり方をしているんだ……」と思ってヘコみました(笑)。「もしもなんて存在しないのである」という台詞を、監督に「いつも通りに言っていいよ」と言われたので、いつも通りに言ったら、何かちょっと違ったっぽくて。「もっと落ち着いた感じで」とか「ちゃんと“存在しない”ことを想像して」と言われながら、結局10テイクくらい録ったんです。結果、いつもと全然違う話し方になって、「普段からもっとしっかりしゃべろう」と思いました(笑)。
――さっき好きな映画をうかがいましたが、好きな女優さんもいますか?
すぅ 真木よう子さんとか夏木マリさんとか、女性としての生き方を楽しんでいる人がずっと好きです。あと、『百万円と苦虫女』のヒロインだった蒼井優さんは声も好き。本当に女優さんは声が良い人が多くて、蒼井さんは私の大好きな『鉄コン筋クリート』のアニメ版で、主人公のシロの声もやっているんですよ。声での表現力もすごいのは尊敬しますし、勉強になります。
思っていたことを台詞で言えて良かった
――改めて、今回『もしサイ』の映画ができたことは、サイサイにとってどんな意義があったと思いますか?
すぅ 新たな一歩で可能性が広がったのと、リアルの会話では言わないけど、実際思っていることを台詞で言えたのは良かったです。さっき出たひなに言った台詞もそう。お互い、そういう言葉を演技の中で口にできました。
――最後に、この映画の取材で毎回聞かれたかもしれませんが、実際に「もしもサイサイでなかったら」と考えることはありますか?
すぅ 聞かれて考えることは増えました。私はサイサイでなかったら、本当に廃人になっていたと思います(笑)。超絶ニートで、良くて美容師をやれているか、やれてないか。
――実際はやれなかったけど、やりたかったことは?
すぅ 私は高校生のときに上京して、大学には通ってないんです。小さい頃から早く働きたくて、勉強も好きでなかったから、大学に行きたいと思ったこともありません。でも、もしバンドをやってなかったら、何浪かしてでも大学受験はしてみたいと、ちょっと思いました。
――キャンパスライフを楽しみたかったと?
すぅ そうですね。学祭や撮影で大学に行くことはわりと多くて、いつも「いいなー」と思うので。他のメンバーはみんな大学に行っていて、ひなは卒論をやりながらPVを撮ったりもしていて、私も女子大生は経験してみたかったです。やろうと思えば今からでも受験できますけど、やりません(笑)。やっぱり、“もしも”なんてないと思います。
profile
すぅ(吉田菫)
1992年12月28日生まれ、福島県出身。
2012年11月にSILENT SIRENのヴォーカル&ギターとしてシングル「Sweet Pop」でメジャーデビュー。ガールズバンド史上最短での日本武道館ワンマン、横浜アリーナ公演、5ヵ国6都市を回るワールドツアーなどを敢行。2017年には日本武道館2Days公演、2019年にはメットライフドームでPoppon’Partyとの対バンライブを行った。バンド結成10周年記念アルバム『mix10th(ミックスジュース)』を9月2日に発売。ワンマンライブ『サイサイ10歳祭~てっぺん目指してGO!サイレンGO!~』を9月20日に山中湖交流プラザ きららにて開催。
『もしもあたしたちがサイサイじゃなかったら。』&『HERO DOCUMENTARY FILM』
SILENT SIREN初主演映画と2019年の年末スペシャルライブに密着したドキュメンタリーを同時上映。近日公開予定。