ピン芸人から脚本の世界へ。オコチャが語る新型コロナ禍で出会った自分
ピン芸人としてキャリアをスタートさせ、すさまじい勢いで脚本を書き続ける脚本家としても活動するオコチャさん(42)。ニッポン放送と吉本興業が共同制作したPodcastドラマ「食わざるもの、DON’T WORK(ドントワーク)」をノベライズした書籍も発売中ですが、新型コロナ禍が及ぼした意外な余波とは。
新型コロナ禍で向き合った自分
もともとピン芸人として舞台に立ってまして、2011年から15年までは“住みます芸人”として宮城県での活動もさせてもらっていたんですけど、ここ5年くらいは脚本を書く仕事が完全にメインになりました。脚本と芸人の仕事の割合で言うと、今はもう10:0ですね。
特に、新型コロナ禍の中で脚本を書きまくってたんです。2人でやる10分くらいの脚本を160本くらいは書きました。ただ、これは出しどころが決まっているわけではないものばかりで、とにかく時間があるから書く。日の目を見るかも分からないけど、とにかく書く。そんな中で書き上げたものなんです。
コロナ禍であらゆるものが変わり、ストップする中でこれまで向き合ったことのない自分とも向き合うことになりました。
精神的なことになるので分かりにくい領域かもしれませんけど、出しどころが決まっていないものを書く。これがね、純粋に楽しかったんです。出しどころがあるということは、そこで結果を得たいと思う自分もいるわけです。
お客さんに喜んでもらいたい、自分の知名度を上げたい。お仕事である以上、評価されたい思いがある。ただ、出しどころがないと、そういった評価を考えずに書くので、ただただ楽しかったんです。
しかもコロナ禍で人とも会わなくなっているので、より純粋に書くことに没頭する。最初は「出しどころもないんだし、飽きたらやめよう」と思って書き始めたんですけど、結局飽きることなく書き続けました。
恩返し
そんな中で、もう一つ奥の感覚というか、どんな思いに自分がとらわれているかも感じることができました。手に入らないことを求めても“落ち込み”を作るだけだし、結局、自分の好きなものを書く中にしか納得はないのかなと。
もちろん、評価はされたいですし、お客さんのことなんて考えずに好きなものを作るんだなんて考えはないんですよ。ただ、その中で自分の好きなものを書く。そこの踏ん切りがついたような気がしているんです。
その結果、初めての書籍となる以前書いた脚本のノベライズもできましたし、コロナ禍という大変な中ですけど、仕事としては一つ前に進めたのかなと思っています。
ただ、お世話になった方々にまだまだ恩返しなんてできてないので、これまで義理というか仲間ということで僕の書いた作品に出てくださっていた皆さんに得をしてもらえる作品を作れるようになる。それくらいまで、僕が成長できればなと。
…ま、どこまでいってもきれいごとみたいになってしまいますけど(笑)、そんなことができればうれしいのは事実ですし、なんとかそこに近づけるよう頑張りたいと思っています。
(撮影・中西正男)
■オコチャ
1978年11月21日生まれ。千葉県出身。本名・冨田雄大。吉本興業所属。99年にピン芸人としてデビュー。同期は「森三中」「ロバート」ら。芸人として活動しながら神保町花月で約60本の脚本を執筆する。2011年には「宮城住みます芸人」に就任(15年まで)。16年、映画脚本「おかえりのある場所」が沖縄国際映画祭で「沖縄じんぶん賞グランプリ」を受賞した。ニッポン放送と吉本興業が共同制作したPodcastドラマ「食わざるもの、DON’T WORK(ドントワーク)」をノベライズした著書が発売中。