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高倉ジャパン初招集の川澄奈穂美が語った、2年ぶりの代表復帰への思い

松原渓スポーツジャーナリスト
高倉ジャパン初招集の川澄奈穂美(リオ五輪アジア最終予選2016年2月29日)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【2年ぶりの代表復帰】

 アメリカ女子プロリーグ(NWSL)のシアトル・レインFC(以下:シアトル)でプレーするFW川澄奈穂美が、約2年ぶりになでしこジャパンに招集された。

 19日に発表された、アジアカップ(4月6日〜20日@ヨルダン、兼2019年フランスワールドカップアジア予選)に臨むメンバー23名。

 高倉麻子監督自身が一人ひとりの名前を読み上げていく中、FWの1人目に呼ばれたのが川澄だった。背番号は、2年前と同じ「9」が用意されていた。

 川澄は久々の代表復帰について、「選ばれたことについては……簡単な言葉では表現できないですね」と、まずは率直な想いを口にし、ゆっくりと続けた。

「代表に対する気持ちは(代表が新体制になってからの)2年間、切らしたことはなかったです。ただ、(新生チームに初めて参加する中で)『やっとスタートラインに立てた』とか『新人のような気持ちで臨もう』とは思っていません」(川澄)

 川澄は、高倉ジャパンではこれまで一度も招集されたことがない中で、ワールドカップ予選の舞台に立つ。その口調からは、久々に代表に復帰できる嬉しさも感じられたが、同時に、「ここで結果を残せなければ次はない」という強い覚悟も伝わってきた。

【NWSLで切り拓いた新境地】

 川澄はこの2年間、「目標はまた代表に入って、ワールドカップやオリンピックに出ることです」と、なでしこジャパンへの想いを公言してきた。

 それだけでなく、代表の試合は欠かさずチェックし、シアトルのチームメートでもあるDF宇津木瑠美や、高倉ジャパンの主軸でもある選手たちからも話を聞くなどして、自分なりに新たなチームのコンセプトを把握してきた。そして、いつ選ばれてもいいように、心と体の準備を欠かさなかった。

 そのモチベーションを支えたのは、所属するシアトルでの刺激的な毎日だった。

「自分のサッカーを追求できる場所がクラブ(シアトル)にあって、毎日が充実していたので、代表に選ばれなくても焦りはなかったです。自然体でプレーして結果を残し続ければ、いつかは代表に呼ばれる日が来る、と思っていました」(川澄)

 川澄は豊富な運動量とスピード、決定力を武器に、国内ではリーグ得点王(2011年)や2度のリーグ最優秀選手賞(’11/’13年)を受賞。そして、2011年のワールドカップ優勝や2012年のロンドン五輪銀メダル、2015年のワールドカップ準優勝など、代表でも一時代を築いた。

 その後、戦いの場をアメリカに移した2014年以降は、日本とプレースタイルが大きく異なるリーグで、選手としての新境地を切り拓いている。

 

 中盤の味方選手がボールを持つと、ためらうことなく前線に駆け上がる。思い切りの良い飛び出しから、長い時では50m近くにもなる味方のロングパスに追いつき、多彩なクロスからゴールを演出。時には味方と連動しながら空いたスペースを埋める臨機応変なポジショニングで、チームに流れを引き寄せた。

「1年前よりもサッカーが楽しいし、だからこそ、さらに上手くなれる自信があります。この歳になると人の評価もあまり気にならなくなりますし、いい意味で”怖いもの知らず”になれるんですよ」(川澄)

 昨年の7月にシアトルで話を聞いた時、川澄がそう言って目を輝かせていたのを思い出す。32歳の川澄は、若手と同じ量の練習メニューをこなすことを、むしろ楽しんでいた。 

【日本代表で求められるもの】

 世界ランク1位のアメリカ代表選手たちの多くは、NWSLでプレーしている。

 アメリカ代表のエースFWメーガン・ラピノーと川澄のホットラインは、シアトルの得点パターンの一つだ。他にも、ブラジルのFWマルタ、カナダのFWクリスティン・シンクレア、オーストラリアのFWサマンサ・カーなど、強豪国のエースが鎬を削る。

 その中で、川澄は昨シーズン、6ゴール9アシストの活躍でNWSLのアシスト王に輝いた。厳しい環境で磨かれた「周りを生かす」感覚は、今の川澄の揺るぎない強みだ。

 だが、日本代表で求められるものはまた違うと、川澄自身は考えている。

「アメリカで、私はパワーやスピードがあるFWではないし、ディフェンダーを1対1でぶち抜くことは、ほぼ不可能です。その中で生き残るために、周りを生かすプレーを心がけました。それが昨年のアシスト数につながったと思います。ただ、日本の選手たちとプレーする中では逆に、生かしてもらった方がチームに貢献できると思っています」(川澄)

 相手の背後を狙う選手がいてこそ、なでしこジャパンが得意とする足下のパスワークもより生きてくる。しかし、攻撃がうまくいかない時は足下のパスばかりになり、どうしても視野が狭くなりがちだ。

 そんな中で、川澄のスピードや抜け出すタイミングの良さは、スペースを効果的に使うための糸口になるだろう。それは結果的に、中盤にパスの出し手が多い高倉ジャパンの攻撃力を引き出すはずだ。

 シュートまでの形を探り続けてきたチームに、川澄のプレーがどのようなアクセントを与えるのか、楽しみだ。

【目指すは大会連覇】

 アジアカップには8チームが出場し、上位5チームがワールドカップへの出場権を獲得できる。日本は1次リーグのB組で、ベトナム(4月7日)、韓国(10日)、オーストラリア(13日)と対戦する。

  

 高倉監督は川澄について「ずっと注目して、追いかけてきた選手」と前置きした上で、このタイミングで選出した理由について、次のように話した。

「チームを若返らせて作っていく中で、若手に経験させるチャンスを時間をかけて与えてきました。その中で、点を取る、ゴールに向かっていくというところでは物足りなさが残りました。彼女(川澄)は急にチームに合流することになりますが、経験もありますし、勝負強さも持っていると思います。縦への突破に大きく期待しているのと、このチームでは最年長になりますが、チームが厳しい戦いの中で精神的にふらついた時にはオフのところでもしっかりチームを締めてもらいたいと、大きな期待を持って選出しました」(高倉監督)

 FWのポジションは、これまでに15名近い候補が名を連ねてきた激戦区でもある。

 その中で今回選ばれた川澄を除く4名、FW菅澤優衣香、FW岩渕真奈、FW横山久美、FW田中美南は、それぞれが異なる武器を持っている。

 しかし、高倉監督は誰がピッチに立っても多彩なコンビネーションを生み出せるチームを目指してきたため、選手同士の組み合わせを固定していない。その中で、FW同士、あるいは中盤との強力なホットラインや得点パターンも、まだ確立されていない。

 だが、裏を返せば、そのようにポジションや組み合わせの変化を受け入れてきた選手たちには、「新しい選手の特徴を生かす」ことへの対応力がある。

 そして、川澄には、日米両リーグで自身の良さを生かしてきた調整力と、高いコミュニケーション能力がある。それらがうまく噛み合えば、川澄がチームに融合し、その得点力を発揮するのに時間はかからないと予想している。

 日本は今回のアジアカップではディフェンディングチャンピオンとして連覇を目指すが、かなり厳しい戦いになるだろう。

 特に、FIFAランク4位のオーストラリアはここ数年主力がほとんど変わっておらず、今まさに黄金期を迎えている。

 昨年の夏にアメリカで行われた大会で、なでしこジャパンはオーストラリアに2-4で敗れた。その試合を見ていた川澄も、

「あの時、オーストラリアのサッカーを見て衝撃を受けました。あのオーストラリアに勝つことは、一筋縄ではいかないと思います」

 

 と話す。

アジアの厳しさを肌で知る貴重な存在だ(リオ五輪アジア最終予選2016年3月7日(C)/長田洋平/アフロスポーツ)
アジアの厳しさを肌で知る貴重な存在だ(リオ五輪アジア最終予選2016年3月7日(C)/長田洋平/アフロスポーツ)

 川澄は前回のアジアカップ(2014年)で、5試合中4試合にフル出場し、2ゴールを挙げて日本の優勝に貢献した。今大会をどのように見ているのか。

「前回のアジアカップもかなりタフな大会で、総力戦で勝ったので、今回も厳しい大会になると思います。今のチームに入っていくための準備期間は短いですが、代表は結果が全ての場所ですから。それをしつこいぐらい、頭に叩き込んでプレーするつもりです。やるからには優勝を目指しますし、個人よりも、チームとして結果を出したい。そう甘くないことも分かっていますが、ワールドカップに行くことは最低限クリアしなければならない課題なので、どんなに泥臭くても、チーム全員で絶対に勝ち獲りに行きます」(川澄)

 なでしこジャパンは、今月26日(月)からの国内合宿を経て、4月1日(日)にトランスコスモススタジアム長崎で、MS&ADカップのガーナ戦に臨む。

 海外組はヨルダンからの合流となるが、高倉監督の希望もあり、川澄だけは国内合宿から合流する。

 まずは、ガーナ戦でどのようなプレーを見せてくれるのか、期待は高まる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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