ディカプリオの訴え「地球最後のチャンス」
温暖化防止行進に31万人
米ニューヨークの国連本部で23日開催された国連気候変動サミットで、国連平和大使を務める米俳優レオナルド・ディカプリオさんが120カ国余の首脳に地球温暖化を防ぐため行動を起こすよう呼びかけた。
ハフィントン・ポスト日本語版からディカプリオさんの演説を抜粋すると――。
「みなさん、今を生きる私たち人類は、恐らくこれまでの歴史を生きてきた他の人類よりも困難な課題に直面しています。歴史的な偉業を成し遂げられるか、それとも歴史から非難されるか、のいずれかなのです」
「(世界の科学界は)もし、われわれが共に行動しなければ、確実に消滅するだろう、ということを予測しているのです。今こそ行動を起こす時です」
「炭酸ガス放出に課徴金をつける必要があります。石炭、ガス、石油関連企業に対する政府の補助を止めさせることが必要です」
「新たな研究では、2050年までに、クリーンで再生可能なエネルギーが『既存の技術』を使って世界のエネルギー需要を100%満たせるようになることが明らかになっています。そしてその結果、何百万もの雇用が創出されるのです」
国連気候変動サミットは、今年12月にリマで開かれる国連気候変動枠組み条約20回締約国会議(COP20)で草案を起草し、来年12月パリで開催されるCOP21で「意味ある合意」をまとめるという総括文書を発表した。
政治指導者の行動を求めて、21日にはニューヨークのマンハッタンで、環境団体、原住民グループ、労働組合、養蜂業者、学生、著名人、政治家約31万人(主催者推定)が世界中から結集して行進した。
オバマ米大統領の登場で温暖化対策の機運が最高潮に盛り上がった09年、デンマーク・コペンハーゲンでのCOP15の行進参加者は8万人。今回、10万人規模を見込んでいたが、実際に行進したのはその3倍以上に達した。
行進にはディカプリオさんや、「世界中の人々の事務総長」として国連の潘基文(バン・キムン)事務総長も参加した。
ロンドンやパリ、ブラジル・リオデジャネイロ、オーストラリア・メルボルンなど世界中の156カ所で2646ものイベントが行われた。
2012年に先進国の大都市を初めて襲った米国ハリケーン・サンディや、昨年フィリピンを直撃した台風30号「ハイヤン」の威力を目の当たりにして、温暖化懐疑派の主張に耳を傾けるより、今すぐ行動を起こさないと手遅れになるという危機感が広がっている。
安倍首相の「美しい星」って何?
安倍晋三首相はこのサミットで、海面上昇や巨大台風の被害をまともに受ける途上国の取り組みを促進するため今後3年間で計1万4千人の人材育成を支援する方針を表明した。演説内容は次の通りだ。
「7年前、私は『美しい星 クールアース』の概念を提唱し、2050年の温室効果ガス半減を世界の目標とするよう提案しました。そして昨年には、新たな戦略『アクションズ・フォー・クールアース』を作りました」
「まず途上国支援です。日本は昨年初めから3年間で約160億ドルの支援を約束しましたが、これをたった1年半余で達成しました。そして今回新たに3年間で気候変動分野で1万4千人の人材育成を約束します」
「署名国が12カ国に至った2国間クレジット制度を着実に実施し、優れた技術を国際社会に広め、世界の削減に貢献します」
閣僚会議に出席した岸田文雄外相は、COP21に向け、2020年以降の温室効果ガス排出削減目標案を早期に提出する考えを示したが、米国や中国を念頭に「すべての国が参加する公平かつ実効性のあるものでなければならない」と主張している。
日本は一部の先進国に温室効果ガス削減を義務づけてきたこれまでの枠組みを変更すべきだとの考えだ。しかし、果たしてそんな調子で安倍首相がうたうような「美しい星」が実現できるのか。
焦点は2020年以降の削減目標
昨年ポーランド・ワルシャワで開かれたCOP19で、日本は「2005年度比3.8%減」という20年までの削減目標を発表した。京都議定書の基準年(1990年)でみると実質「3.1%増」となる。
気候変動枠組条約(UNFCCC)のクリスティーナ・フィゲレス事務局長はCOP19に先立ち、筆者の質問に「日本の電気代が上昇する一方で、日本がすでに十分に効率化しているエネルギー効率をさらに上げていることを理解している」と答えた。
「日本が東日本大震災で被った深刻な影響を考慮しなければならない。日本がどのように電気代のコスト上昇をやわらげながら、長期的なエネルギーモデルを構築していくのか、国際社会は注視している」
それから1年が経ったが、日本は福島原発事故の影響で原発再稼働のメドが立たず、今後、どれだけ温室効果ガスを排出する火力発電に頼らなければならないのかすら計算できない。
こんな状況で、20年以降の温室効果ガスの排出削減目標案を提出できるなんて、とても思えない。来年9月の自民党総裁選が気になる安倍首相は支持率低下の引き金になりかねない原発再稼働には及び腰だ。ましてや10月下旬には福島県知事選挙が控えている。
温暖化対策の先陣を切る欧州連合(EU)はすでに30年に1990年比40%減とする目標案を公表している。日本は温室効果ガスの排出削減目標案を設定する前に、長期的なエネルギー政策について国民のコンセンサスを得なければならない状況だ。
私たちが進むべき道
温暖化対策を進める国際シンクタンク「グローバル・カーボン・プロジェクト」の報告「グローバル・カーボン・バジェット2014」から2つのグラフを抜粋する。
2013年で、中国、米国、EU28カ国、インドが世界の温室効果ガスの58%を排出している。中国は28%、米国は14%を占める。いくらEUが音頭を取っても、中国と米国が動かなければ岸田外相が言うように意味がない。
人口1人当たりで見てみると、米国は次第に改善しているものの、やはり断トツの温室効果ガス排出大国。中国はEU28カ国を超え、世界平均を45%上回っている。
新興国の中国を動かすには、まず、先進国を代表する米国が動く必要がある。米国の大手世論調査では、67%が温暖化は人為によるという証拠があると考えているものの、人々の関心の40%以上は雇用など経済問題に向けられ、環境問題はわずか1%だ。
しかも、米国の共和党や同党に近い支持者に限ってみると、温暖化は人為によるという証拠があると答えた人はわずか23%。19%が温暖化は自然現象とみなし、25%は温暖化は起きていないと否定、20%が温暖化のメカニズムは解明されていないと回答している。
シェールガスは今や米国の経済成長エンジンだ。また、米議会で民主党と共和党の対立が先鋭化する中、オバマ米大統領が、懐疑派が増殖する共和党の反対を押し切ってCOP21に向けイニシアチブを発揮するとは考えにくい。
ロンドン在住CSR(企業の社会的責任)コンサルタントでサステイナビジョン代表取締役、下田屋毅さんはしかし、こう語る。
「1992年のリオ地球サミットの宣言には、環境に関する予防原則として次のようにうたわれている。『重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き伸ばす理由にしてはならない』。地球温暖化の論争は、科学者間では事実上決着しているのに、まだ温暖化懐疑論を組織的に唱える科学者や業界がある。しかし予防原則に立ち返り、本気で破滅的な危機を回避する取り組みを進めなければならない状況にきている」
もう待ったなしということだ。
(おわり)