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布陣とセールスポイントのミスマッチ。森保監督が3−4−2−1を使えない理由に迫る

杉山茂樹スポーツライター
ウルグアイ戦で活躍した中島翔哉 写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

 中島翔哉、南野拓実、堂安律。それに国内組の伊東純也まで加えれば4人になる。期待を寄せたくなる3人組、あるいは4人組といわれて想起するのは、いまから16年前、ジーコジャパンが始動した2002年の秋だ。

 日韓共催W杯メンバーから漏れた中村俊輔が代表チームに復帰。その船出となったジャマイカ戦の中盤は、まさにオールスターキャストで固められることになった。

 82年スペインW杯で「黄金の4人」と称されたブラジルの中盤。同様に「華麗な四銃士」と称されたフランスの中盤。これは優れた4人組の中盤を語ろうとした時、お決まりのように登場する2例になるが、中田英寿、小野伸二、稲本潤一、中村を並べたジーコジャパンの中盤も、そこに比較対象を求めたくなる、日本人のツボにピタリとはまる4人組だった。代表チームへの期待値はこれで一気に跳ね上がることになった。

 イメージ上昇中の日本代表の現在に似ている。先述の4人はジーコジャパンと重なって見える。

 とはいえ、16年前の4人組は概念的に言えば「中盤天国ニッポン」の象徴だった。その中盤は、パスワークを発揮する場所を意味していたが、現在の一番の魅力は、パスと言うよりドリブルだ。ポジションもやや高めで、中盤選手と言うよりアタッカーになる。

 体格面は、より小さくなっている。16年も経過しているのに4人の平均身長は伸びていない。小型化が促進。そしてそれがむしろ魅力になっている点も興味深い。

南野拓実
南野拓実

 そもそもいまのサッカーには中田英、小野、稲本、中村を同時に置く場所が存在しないのだ。16年前と状況は大きく変化した。

 ジャマイカ戦に臨んだジーコジャパンは中盤ボックス型の4-4-2。4分割表記では4-「2-2」-2となる。黄金の4人が配置されたのは、その真ん中の「2-2」。まさに中盤、ド真ん中に位置していた。

 この中盤ボックス型4-4-2は、いまほぼ存在しない布陣だ。ジーコの影響が見え隠れする鹿島に、その面影がわずかに残るが、それが露呈し4-2-2-2的になるときは、大抵よいサッカーになっていない。

 現在の森保ジャパンのサッカーも、3分割表記にすると4-4-2ながら、2トップの一角を占める南野は若干下がり目で、4-4-2と4-2-3-1の中間のような4-4-1-1的な布陣に見える。売り出し中の4人が収まる場所は4-2-3-1に当てはめれば「3」の列。16年前の4人組より構えるポジションが高いことは、これで一目瞭然になる。中盤とは、それより一列下で俗にボランチと言われる「2」、先のウルグアイ戦の先発メンバーで言えば遠藤航と柴崎岳になる。

 4-2-3-1の3は、16年前には存在しなかった概念なのだ。日本で浸透し始めたのはオシムジャパン以降。中島、南野、堂安、伊東は、それ以前の時代には存在しなかったタイプの選手になる。

堂安律
堂安律

 もっとも、この4人の中で、南野は少し例外になる。他の3人がサイドアタッカーであるのに対し彼は真ん中。ハリルジャパン時代に招集されたとき、サイドでプレーしたことはあるが、16年前には存在したタイプだ。一番近いのは中田英になるが、つまり、かつて存在しなかったタイプは、他の3人になる。

 かつて4-2-2-2の時代、両サイドにサイドアタッカーはサイドバック各1人しか存在しなかった。当時の日本サッカー界で、4-2-2-2と同じぐらい採用されていた3-4-1-2についても同じことが言える。サイドアタッカーはウイングバック各1人。

 それが各2人に変わったことで、サッカーは劇的に変化した。中島、堂安、伊東の誕生は、布陣の変化がもたらした産物に他ならない。その結果、中田英、小野、中村タイプは減少。もちろんこれは日本に限った話ではない。世界的な傾向だが、彼らのような、かつて司令塔と呼ばれたタイプは、それより一列低いポジションで生息することになった。柴崎、大島僚太はその代表格になる。

 ロシアW杯のピッチに中島、堂安、伊東の姿はなかったが、西野ジャパンがよく見えた理由も、4-2-3-1的な魅力が発揮されていたからだと考えられる。なにより見映えがよかった。パスもあればドリブルもある。右もあれば左もある。諸々のバランスが取れていたことが、見た目の美しさに繋がっていた。

 森保ジャパンはその延長上にあるわけだ。ロシアW杯でスタメンだった、乾貴士(左)、香川真司(真ん中)、原口元気(右)に変わって、左から中島、南野、堂安(伊東)が、そのポジションに就いたことで、見映えはさらによくなったという感じだ。

伊東純也
伊東純也

 だが森保一監督は、4-2-3-1を愛用してきた監督ではない。サンフレッチェ広島時代もアンダーカテゴリーの監督としても、日本代表監督に就任する以前は、ほぼ一貫して3-4-2-1で戦ってきた。世の中的には4-2-3-1は攻撃的サッカーに属する布陣で、3-4-2-1は守備的サッカーに属する布陣という認識があるが、ここまでの流れで言えば、サイドアタッカーが各1人か各2人かになる。

 つまり3-4-2-1は、中島、南野、堂安(伊東)のうち最大2人しか、その布陣上に落とし込めないことになる。いわゆるセンターフォワード以外のアタッカーを配置できるポジションは、シャドーと言われる3-4-2-1の2しか存在しないのだ。

 ジーコ時代の4人(中田英、小野、稲本、中村)なら大丈夫。3-「4」-「2」-1の「4」の真ん中2人と「2」に置けるが、森保ジャパンの3人ないし4人は配備できない。現在のセールスポイントと森保監督が長年愛用してきた布陣との相性は限りなく悪い。

 森保監督は3-4-2-1を使わない理由について、的確な理由を述べていない。「臨機応変な対応」と述べるに止まっているが、布陣とセールスポイントとの不一致が、その大きな理由であることは明白だ。日本サッカーのこれまでの流れと現実を直視すれば、それは鮮明になる。

 柴崎、大島というパッサー系の選手と、ドリブル得意なちびっ子選手がバランスよく配置されたサッカー。少なくとも僕が求めるのはこれ。今後どのように推移していくのか、目を凝らしたい。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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