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コロナ禍で不安を抱えて妊娠・出産を迎える方へ 陣痛を和らげる多様な方法を産婦人科医が解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

コロナ禍における妊婦のメンタルヘルス

コロナ禍では多くの人が不安を抱えていますが、妊産婦ではそれがより強く影響している可能性が示されています。

コロナ禍に出産した日本の妊婦において、うつ状態のスクリーニング検査の点数で高い値を示した妊産婦の割合が、平常時に比べて高かったという研究結果(文献1)があります。新型コロナウイルスの流行により、妊婦さんの精神的な負担が重くなっていることが推測されます。

*こちらの記事もご参照ください。

妊娠中や産後の「うつ」、コロナ禍で増加か 産婦人科医が予防法を解説

さらに、感染防止の観点から立ち会い分娩や里帰り分娩が難しく、1人で陣痛・分娩に臨まざるを得ない妊婦さんが多くいらっしゃいます。いろいろな経験談を聞いて、陣痛に対して恐怖を抱いている妊婦さんもいらっしゃるでしょう。

コロナ禍で不安を抱える妊婦さんたちに向けて、今回は少しでも陣痛を和らげるための多様な方法をご紹介します。

陣痛とは?

典型的には、子宮の規則的な収縮に伴う下腹部痛が最初に現れます。「10分に1回程度の規則的な痛み」が陣痛開始の合図とされ、徐々に子宮収縮の間隔が縮まり、痛みも強くなり、最終的に1〜2分間隔となります。断続的もしくは持続的な腰痛を伴い、さらにおしりから太ももにかけて痛みが広がることもあります。

分娩が進んで赤ちゃんが産道を下りてくると、恥骨や仙骨、会陰などにも痛みが出るようになります。

陣痛緩和へのアプローチ

陣痛を和らげる方法は、「薬剤性アプローチ」と「非薬剤性アプローチ」の2つに大別されます。

薬剤性アプローチ

背中から注入するチューブ(硬膜外腔カテーテル)や静脈内点滴などから鎮痛薬や麻薬を投与し、痛みを感じる神経を麻痺させます。いわゆる「無痛分娩」では、本格的な陣痛が始まる前にチューブを入れて痛みをコントロールするので、計画分娩を選択する施設もあります。

アメリカなどでは無痛分娩の提供体制が整っており、7割以上が無痛分娩を選択しているようです(文献2)。日本産婦人科医会の調査(文献3)によると、日本でも無痛分娩を選択する妊婦さんは増加傾向で、2016年時点で6.1%まで増加しています。しかしながら、硬膜外麻酔による無痛分娩を行う病院や診療所は20%以下にとどまっています。

医療資源の不足を背景に、日本では無痛分娩が普及しているとは言い難いのが現状です。

*無痛分娩・和痛分娩の安全性とメリット・デメリットについてはこちらもご参照ください。

産婦人科医が解説する無痛分娩・和痛分娩の安全性とメリット・デメリット(産婦人科オンラインジャーナル)

非薬剤性アプローチ

鎮痛剤や麻酔薬を使わずに、痛みをゼロにするというよりも陣痛をうまくやり過ごし、分娩までのプロセスを自分でコントロールしながら苦痛を減らすことを目的にするものです。特別な設備や訓練がなくても実施でき、大きなデメリットがないことが特徴です。

「痛み」とは、神経を介して知覚する「痛覚」ですが、認識や環境によっても影響を受けると言われています。無痛分娩などの薬剤性アプローチをとる場合も、非薬剤性アプローチを併用してより苦痛の少ない分娩を目指すことができるでしょう。

陣痛を和らげる方法(非薬剤性アプローチ)の具体例

それでは、妊婦さんや周りの方が行うことができる非薬剤性アプローチをいくつかご紹介します。

体を動かす

陣痛中に歩いたり、体を動かしたりすることで、過ごしやすい姿勢を見つけます。数分間隔の強い痛みの中で体を動かすのは大変ですが、母体の姿勢によって骨盤の角度が変わり、痛みが軽減する可能性があります。分娩進行を促したり母児の状態を改善したりするために、医療スタッフが適切な姿勢をアドバイスすることもあります。

ある研究(文献4)によると、分娩第1期(陣痛開始から子宮口が全開大するまで)に立ったり歩いたりすることで、分娩時間の短縮、帝王切開率の低下、無痛分娩率の低下などの効果がありました。

可能であれば、ずっと同じ仰向けの姿勢でベッド上に横たわるのではなく、体を動かしてみましょう。点滴やモニターなどの医療機器がついている場合には、必ず医療スタッフに確認してから体勢を変えるようにしてくださいね。

バランスボールなどを使って姿勢を倒す

ダイエットなどに用いられるバランスボールを陣痛緩和目的に使用することがあります。ボールの上に覆い被さるように上半身をもたれかけることで、おなかや背中の痛みが楽になるかもしれません。ある小規模な研究(文献5)では、バランスボールを使うことでやや痛みが軽減したと報告されています。

しかし、バランスボールは不安定で転倒のリスクを伴うため、慎重に使用する必要があります。バランスボールの代わりに、大きなクッションやアクティブチェア(陣痛緩和用の揺れる椅子)などを用意している病院も多くあります。

マッサージ

パートナーや医療スタッフのタッチング(手を握る、さする、など)によって、緊張がほぐれ、痛みが緩和し、安心感が増すと言われています。2018年の研究(文献6)では、エビデンスレベルは低いものの、マッサージによる陣痛緩和や不安軽減が報告されています。また、出産の満足度がやや高くなったことにも触れられています。

一方、状況や方法によっては妊婦さんが触れられることを不快に感じることもあります。分娩に立ち会う方は、妊婦さん本人や医療スタッフに確認しながら、適切なマッサージをするようにしましょう。

指圧

足や手のツボ(三陰交、合谷など)を指で押すことで分娩第1期の痛みが改善したという研究結果があります(文献7)。指圧の直後だけでなく、1時間後も陣痛緩和の効果が持続していたとも報告されています。

研究では経験のある助産師が行っていましたが、妊婦さん自身でも行うことができるので試してみてはいかがでしょうか。

体を温める

科学的根拠は不十分ではあるものの、湯たんぽやカイロ、電気毛布などの温かいものをおなかや腰、会陰部などに当てることで痛みがやや和らぐことがあります。また、筋肉の緊張をほぐして、陣痛の合間のリラックス効果をもたらします。

ただし、やけどの危険があるため、必ず皮膚の保護を行うようにしてください。無痛分娩中は皮膚の感覚が麻痺している場合があり、特に注意が必要です。

アロマセラピー

2019年の研究(文献8)によると、アロマセラピーによって陣痛(子宮口が8〜10cm時点に限る)が緩和したと報告されています。また、分娩の活動期(分娩の進行がスピードアップする後半の時期)が短縮したとも報告されています。(ただし、アロマセラピーの内容にばらつきがある点に考慮して解釈する必要があります。)

希望があれば、市販の安全なアロマオイルを、医療スタッフに確認した上で使用するようにしましょう。

その他

科学的根拠はかなり弱いものの、音楽やヨガ、呼吸法、リラクゼーション法なども陣痛緩和の効果が得られたとの報告もあります(文献9)。

コロナ禍での出産における不安を少しでも減らすために

妊婦さんや周りの方が試せる陣痛緩和の非薬物性アプローチをご紹介しました。

また、「自分は陣痛・出産を乗り越えられる!」という自己効力感が陣痛緩和に影響していたという報告もあります(文献10)。そして、この自己効力感は予め出産に関する知識を持つことで高まることが分かっています(文献11)。陣痛や出産について正しい知識を身に付け、ポジティブなイメージを持っておくことも助けになるかもしれません。

立ち会い分娩が可能かどうかなど、医療機関の体制について随時確認しながら、ご家族や医療スタッフとよく話し合い、コロナ禍での出産に向けてのバースプランを考えてみてはいかがでしょうか。

なお、出産までの経過は人それぞれで、唯一の正解はありません。痛みの程度と出産の満足度も必ずしも相関しません。是非、かかりつけの産科医や助産師に、些細なことでも不安や疑問を伝えてもらって、安心して出産に臨んでいただけることを願っています。

文献

1. J Obstet Gynaecol Res. 2021 Sep;47(9):2990-3000.

2. JAMA Netw Open. 2018 Dec 7;1(8):e186567.

3. 公益社団法人日本産婦人科医会 医療安全部会. 分娩に関する調査(2017).

4. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Aug 20;(8):CD003934.

5. J Obstet Gynaecol Res. 2015 Nov;41(11):1679-86.

6. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 28;3(3):CD009290.

7. Complement Ther Clin Pract. 2020 May;39:101126.

8. Women Birth. 2019 Aug;32(4):327-335.

9. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 28;3(3):CD009514.

10. Midwifery. 2015 Oct;31(10):1000-7.

11. Sex Reprod Healthc. 2016 Dec;10:32-34.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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