久保建英へのスーパーパスは「ターンの向きから駆け引きをしてた」。世界を見る市丸瑞希の攻撃ビジョン。
U-20日本代表は5月21日にU-20W杯の南アフリカ戦に臨む。ボランチはキャプテンの坂井大将(大分トリニータ)を主軸に守備範囲の広い原輝綺(アルビレックス新潟)、CBとのマルチロールで高さのある板倉滉(川崎フロンターレ)と個性的な選手が揃うが、中でも1本のパスで試合の流れをガラリと変えられる能力を持つのが市丸瑞希(ガンバ大阪)だ。
「久保建英は”出し手”がいてこそ輝く。ホンジュラス戦のループを演出した市丸瑞希のスーパーパスを解説」
という記事を17日にアップした。テレビなどでも話題になった久保建英のあわやスーパーゴールというループシュートを演出した市丸のパスについての分析だ。19日の練習後にその時のイメージについて聞くと、市丸からは予想以上の答えが返ってきた。
「あそこでボールをもらって、ターンの向きから駆け引きをしてたので、もし内側を向いてターンしていたら読まれたと思うんですけど、外を向いてターンしたぶん、相手のセンターバックが同サイドに寄って、あそこの裏が空いたので。あそこはイメージ通りでした」
利き足の右で蹴りやすい様にターンした様にも見えるが、彼自身としては「あそこで左足で蹴ったところでたぶん読まれるし、読まれへんためにはそっち向きのターンにしたので」と語る。
ーー逆に左足でああいうシチュエーションになったら?
「蹴れると思います。(その状況にならないと)蹴るかどうか分からないですけど」
そこまでイメージしながら攻撃を組み立て、得意の縦パスを入れるタイミングを見極める市丸のベースになっているのが”首振り”とも言われる瞬間視を駆使した観察眼だ。市丸のプレーを見ていると、中盤を動きながら何度も首を振って周囲を確認し、キックの直前までほとんど下を向くことがない。
「だいたい誰がどこにいるかっていうのは何回かの首振りでイメージしているので、あとはどこに動くかはだいたい感覚というかイメージですね」
そのイメージが効果的なパスに結び付くには仲間とのコミュニケーションが重要になる。ガンバ大阪の下部組織から一緒だった堂安律や初瀬亮とは「あんまりコンビとして3人でやったことはないんですけど、中学から一緒やし、阿吽の呼吸というか見てなくてもだいたい何考えてるか分かる。コンビネーションはいい形で崩せるんじゃないかと思います」と語る一方で、U-19アジア選手権で共に戦った小川航基はもちろん、合流して間もない久保とも限られた時間の中で話し合い、イメージを共有しているという。
「久保とも会った回数は2、3回ですけど、その中でしゃべってできているので問題は無いかなと思います」
ホンジュラス戦で久保に通したピンポイントのスーパーパスも単にその場の観察眼とパスセンスを発揮したのではなく、事前にイメージを話し合っていたものが形になったのだ。
普通に行けば市丸は南アフリカ戦で、まずベンチから試合を見守ることになる。”チームの心臓”とも言われるボランチの役割は多岐に渡るため「守備に時間を割いている場合ももちろんあると思うし、ボールを持ててるけどなかなか攻められないという状況もある」とイメージしている。その言葉には攻守両面でチームのために働けるという自負が感じられるが、それでも自分の持ち味が何かを強く意識している。
「自分が出たら縦パスを出してというのはずっと考えているので、相手によってちょっと変わったりはしますけど、自分の持ち味を出すというのは変わらないですね」
現時点で日本でも市丸のことを知っている人はガンバ大阪のサポーターか、かなり熱心なサッカーファンかもしれない。ましてや世界となれば、ほとんど彼の名は知られていないだろう。しかし、こうした大会はチームが躍進した場合に必ず途中から注目を集めるニュースターが出現する。そのために必要なスペシャリティーを持つ選手の1人であることは間違いない。その才能をいかに発揮するか。それは今後のキャリアにもつながりうるものだ。
「もちろん日本代表を勝たせたいというのはありますけど、優勝が第一の目標ですけど、世界にアピールするということもあるし、自チームへのアピールもあります」
そう語り、取材を終えようとした市丸に質問を投げかけてみた。
ーー世界にアピールというのはどういったプレーを?パスの精度というのはあると思うけど。
「パスはもちろんですけど、ボールを持ってない時の動き。ボールを触らなくてもそのプレーに関わるというのは見てほしいですね。自分がいるからここが空くというのを見てくれたら一番です」