久保建英は”出し手”がいてこそ輝く。ホンジュラス戦のループを演出した市丸瑞希のスーパーパスを解説
韓国で5月20日に開幕するU-20W杯に向け、U-20日本代表はホンジュラス代表と親善試合を行い、通常の90分(45分×2本)を終えた後に”3本目”として、控え組を中心とした30分1本のトレーニングマッチが追加された。
その中で、後方からのロングパスに抜け出した久保建英(FC東京U-18)が左足で華麗なループシュートを放ったものの、惜しくもゴール左に外れたシーンは多くの注目を集め、地上波のニュース番組でも報じられた。確かに長めのパスを走りながら足先でピタリと止め、前に出て来る相手GKを引き付けてのループシュートは非常に高度な技術とビジョンが求められ、もしゴールになっていれば練習試合とはいえ、国際的にも注目を集めていたことは疑いない。
その一方でロングパスの出し手が誰だったのかは大手スポーツ紙の本文にこそ記載されていたものの、テレビのニュース番組などではほとんど触れられなかった。しかしながら、そのパスこそが久保の決定的なプレーを引き出す”トリガー”となったことは現地のスタンドはもちろん、JFA公式サイトが配信していた映像をしっかり観ていた方なら分かるはず。ロングパスを出したのは市丸瑞希。ガンバ大阪に所属するMFは昨年のU-19アジア選手権で日本がアジア王者になった立役者の一人だ。
現時点で彼の名前を知るファンはそう多くないかもしれない。実際に現在の位置付けは[4-4-2]の2枚のボランチの3番手であり、順当なら5月21日に行われる南アフリカとの初戦はキャプテンの坂井大将(大分トリニータ)とJ1のアルビレックス新潟で主力を張る原輝綺がスタメンで起用されるはず。だが、市丸の視野の広さとレンジの長いパスのセンスは今回のチーム内で群を抜くものがあり、大会で躍進するための重要なカギになる可能性がある。
そのエッセンスになっているのが優れた観察眼だ。常に首を振って周囲の状況を把握し、ボールを持つ直前の動きも見逃さない情報収集力で味方の動きも捉える。もちろん正確な技術があってこそのプレースタイルだが、味方の決定的なフィニッシュを演出するのは確かなビジョンだ。その視点で久保に出したロングパスを振り返ると、自陣の左からビルドアップが展開される間に前線の状況を何度もチェックしている。
そしてCBの杉岡大暉からフリーで縦パスを受ける直前まで半身で前方を確認し、左足のファーストタッチでくるりと反転すると右足で40メートル先、相手の右SBとCBの間から裏に抜けた久保の足下に落ちるパスを通している。そうしたロングパスの要素はいくつかあるのだが、受け手の動き出しと相手ディフェンスとの位置関係、さらには2、3秒後の到達点まで予測できなければ確実に成功させることはできない。
長い距離のボールを蹴れる選手であれば、たまにそうしたロングパスを通せることはあるが、市丸のプレーを見れば視野を常に稼働し、周囲の動きをキックの寸前まで捉えていることが分かる。まさに狙い澄ましたロングパスだ。そして市丸こそ久保の決定的なシーンを大会でも演出する”トリガー”になりうる。
久保はボールを持った時の卓越した技術が注目されるが、彼もまたオフの状況で相手のディフェンスやボールを持っている味方の動きを常に観察し、一瞬の動き出しでスペースや裏に抜け出すタイミングを見抜ける情報収集力の持ち主だ。ただ、彼の相手を外す動きは周りとなかなか合いにくく、本当に良いタイミングでボールが出てくることは例えばFC東京U-23の試合を観ていても少なく、出たとしても少しタイミングが遅れて相手DFとのコンタクトプレーを要求する結果になってしまう。
市丸の場合は周囲、特に前方を観察する回数と時間が長く、キックの技術も高い。そのためFWの瞬時の動き出しや抜け出しを逃さず、最高のタイミングでパスを通し、そのまま決定的なプレーに持ち込ませることができるのだ。常に前方の動きを逃さない市丸の特性はクラブの同僚でもある堂安律(ガンバ大阪)やエースストライカーの小川航基(ジュビロ磐田)、鋭い飛び出しを持ち味とする岩崎悠人(京都サンガ)といったアタッカーにも効果的だが、特にタイミングと小さなスペースが生命線である久保が”恩恵”を受ける可能性は高い。
守備面の成長も著しい市丸だが、やはり武器は研ぎ澄まされたパスセンスだ。日本の中盤はチームをまとめる坂井の幅広いオーガナイズと原の強さによって”インテンシティー”を高めており、空中戦が多く求められるケースでは186cmの板倉滉の起用も想定される。攻守の様々な役割が求められるポジションで市丸がどの試合、どの時間帯で投入されるかは分からない。前線のオプションである久保もしかりだが、彼らが同時にピッチに立つ時は日本に勝機をもたらすスーパープレーが生まれるかもしれない。