ウェアラブルデバイスが普及するために必要なことを、UI目線で考える
アメリカで行われているCESでも話題のウェアラブルデバイス、皆さんは使ってみたいと思いますか?
Google Glass の並行輸入販売などでもネタに事欠かないウェアラブルデバイス。昨年11月末にも、ソニーCSLが『スマートウィッグ(SmartWig)』を出願していたことが分かり、話題になりましたね。
“スマートカツラ”と話題になったこのウェアラブルデバイス、カツラの頭髪の中にセンサーや通信装置を内蔵して、スマートフォンなど別のデバイスと通信することができるものです。
また、ACII 2013という学会では、マイクロソフトなどの研究者らによって実現された『スマートブラ』が発表されました。論文はこちら(PDF)で読むことができますが、悪い習慣による摂食行為を防ぐために、さまざまなシステム開発をしており、その一環として開発されたとのこと。
米IntelもSDカードサイズのウェアラブルコンピューティング向け省電力SoC『Intel Edison』を発表しています。Edisonを採用したスマートベビー服『Mimo』は、これを着せた乳幼児の体温や動きをモニタリングし、iOSおよびAndroid端末にデータを転送することができるもので、2014年1月末に発売予定とされています。
ウェアラブルデバイスによって記憶力を「外付け」に
このようなウェアラブルデバイスを身に着けることで、生活はどのように変わるでしょうか?
例えば、身体能力の拡張が可能になります。最も有効に利用できると思われるのが記憶力。
街中で会った人が誰だか思い出せなくても、ウェアラブルデバイスについているカメラ機能で顔認識、人物データベースで検索。瞬時に『○○大学の▲▲講義で一緒だった、◎◎さん。現在の職場は■■株式会社』などと判明するため、何事もなかったかのように、「やぁ、元気だった? 久しぶりだね!」と話しかけることができます。
また、スマートベビー服のように、赤ちゃんやペットなど、自らが言葉を発することができない人や動物にウェアラブルデバイスを装着することで、何らかのデータを取得して可視化することができ、他人に伝えることができます。体温が高い、湿度が高い、などのデータから、「おぎゃーおぎゃー!(暑いよ~、洋服を1枚脱がせて)」と保育者に伝えることもできるかもしれません。
追いつかない法整備や教育
こうしたメリットもたくさんある反面、心配なこともたくさんあります。一番気になるのが法整備。これまでの法律では裁くことができない問題・課題が山積みなのが現状です。
情報ネットワーク法学会の「ソーシャルメディア研究会とデジタルジャーナリズム研究会の合同研究会」では、2013年より『ソーシャルメディア時代の情報流通と制度設計』と題した連続討議を行っています。
「誰もが情報発信者」になり得る時代、ウェアラブルデバイス装着が当たり前の時代に必要な法整備などを月1回討議しています。例えば、第1回の討議では、『ライフログが全面公開された「キンミライ」』として、WEBRONZAにも公開されています(ほかの会の討議の内容も、WEBRONZA(『情報ネットワーク法学会』で検索)や、BLOGOSで公開)。
また、あふれる情報に翻弄されずに、情報をうまく利用するための教育も視野に入れる必要があります。わたしは、お茶の水女子大学で『情報倫理』を非常勤講師として教えていますが、女子大生に情報に関する危機感を持ってもらい、それをどう回避していけばよいかを考えてもらう時間にしています。
「情報」の教員免許を取得するための必須科目であるこの授業で教えることで、未来の高校生たちへの教育も間接的にできると考え、あらゆる事例を扱って個々の身近な問題であることを意識してもらっています。
ユーザーインタフェースの研究者も興味津々
さて、ウェアラブルデバイスは、ユーザーインタフェースの面でも使い勝手など気になる点は多いでしょう。また、対象となるユーザ層が広いことからも、ユーザーインタフェース研究者は興味の対象として注目しています。
エンジニアtypeの連載でもご紹介したことのあるワークショップWISSでは、日本中のインタラクティブシステムやユーザーインタフェースの研究者が一同に集まる場でもあります。このWISSの次期委員長は、神戸大学の塚本昌彦先生。
塚本先生と言えば、ウェアラブルデバイスを毎日装着されてすでに10年以上という、ウエアラブルの伝道師(エンジニアtypeのインタビューはコチラ)です。
塚本先生は、昨年末に開催されたWISSで「来年のWISSではウェアラブル全員必須!!」という目標を掲げられていました。
『GALAXY Gear』に感じるのは便利さよりも不便さ
このように、官民問わず注目を集めているウェアラブルデバイス。しかし、昨年9月に発表された腕時計型の『GALAXY Gear』のように、当初はかなりの注目を浴びたにもかかわらず、思いのほか普及しないデバイスもあります。
■Galaxy Gear販売実績公表に感じるサムスンの焦り(ハフィントンポスト)
なぜでしょう。こちらの記事には、実際に1か月半体験した記者が機能や使い心地について報告しています。
■サムスン腕時計端末を試す 電話の使い勝手に難点(日本経済新聞)
面白いデバイスですが、パッと見、スマホの後に登場したことにより腕時計に小型のスマホ劣化版がくっついているかのような印象。電話やメール、LINEなどもできるとのことですが、スマホでもSkypeをイヤホンなしにオフィスや街中で使うことができないのと同様、電話機能はおそらく実用には向かず、メールチェックもチェックするのみ。スマホのように、短文でも良いので即座に返信できる生活に慣れてしまった今、便利さよりも不便さを感じさせてしまうのではないかと思います。
それでは、もっと以前に登場していたら、時計型デバイスは受け入れられたのでしょうか?
実はわたし、高校時代に懸賞で当選して、腕時計型カメラデバイスを持っていたことがあります。2000年にカシオから発売された「世界で初めて腕時計サイズにデジタルカメラを仕込んだ」というリストカメラ『WQV』です。
まだデジカメもそこまで普及しておらず、友人と出かける際にはフィルムカメラ『写ルンです』を持ち歩いている生活。当然このようなデバイスを持っている人は周りでいなかったので、とてもうれしかったのを覚えています。
時計はもちろん、画像プレビュー、アラーム、タイマー、ストップウオッチなどがモード切替により使用可能。しばらく腕にはめて高校や塾に行く生活をしていましたが、便利に使いこなすまでは行かず、世の中的に普及することもなく、それから10年以上の時が経ちました。
そんなリストカメラの代わりに世の中に普及したのは、カメラ付き携帯電話でした。
普及のカギは「邪魔にならない」デバイスであること
『GALAXY Gear』の例で見ると、ウェアラブルデバイスが普及するためには、機能自体が魅力的であることに加えて、【1】 使い方が万人に受け入れやすいものであること、【2】カスタマイズが可能でカスタマイズ自体が簡単にできること、【3】機能だけでなくファッション性があること、さらに、【4】時代の流れに対してデバイスの登場が早すぎても遅すぎてもいけない、などいろいろな要素が絡み合ってきます。
ウェアラブルコンピュータの研究者として大御所であるジョージア工科大学のThad Starner教授は、SIGGRAPH Asia 2013での招待講演で、
「眼鏡型ウェアラブルデバイスは人と人とのコミュニケーションを邪魔することなく支援することができることが最大の重要な点である」
と話していました。
普通だと視線を下に下ろして操作しなくてはいけない場面でも、相手の目を見ながらしゃべったり入力したりできます。入力にはポケットサイズの片手キーボードであるTwiddlerを用いて、ポケットに手をつっこんだままメールを書いたり、検索したりするそうです(Starner教授は15年以上も毎日ウエアラブルコンピュータをつけてメールを読み書きしたりなど生活をしてきたそうで、今はGoogle Glassの開発に携わっていらっしゃいます)。
眼鏡が今や視力矯正装置ではなく、ファッションとなっている現代。ウェアラブルデバイスもファッションとして、便利なデバイスとして、本格的に普及するのも間近かもしれませんね。
(エンジニアtype 連載記事より転載)