セ・パの実力差は明白、二の足を踏んでいる場合ではない… コロナ禍だからこそセ・リーグにDH制の導入を
オフのプロ野球にまた一つ、議論が持ち上がっている。
セ・リーグにも指名打者(DH)制を導入するかの是非だ。
巨人が12月14日のセ・リーグ理事会で来季の暫定的な導入を提案したが、賛同を得られずに見送られたという報道があった。いったんは棚上げになったのかと思ったが、新たな報道で、日本プロ野球選手会が一部の選手を対象に行ったアンケートでは強い反対意見はなかったことが明らかになった。投手の負担減を歓迎する声もあり、選手会も現場の意見を提言していくらしい。
そもそもの発端は、昨オフの2019年10月に巨人の原辰徳監督がオーナー報告の席上でセ・リーグでも導入することを提言したことだった。今季の日本シリーズではコロナ禍の過密日程による投手への負担軽減を理由に、ソフトバンクの申し入れを受け入れて特例で巨人の本拠地開催試合でも導入された。そして、巨人が14日の理事会で提案した際の理由は①コロナ禍での投手の負担軽減②各球団のチーム強化につながる③ファンが求めるスリリングな試合提供|の3点だったという。
セ・パの実力差を埋めたいという思惑はあるだろう。最近10年の日本シリーズはパが9勝1敗と圧倒。今季は実施されなかったが、交流戦もパの強さが際立つ。
今年の日本シリーズ初戦後、日刊スポーツの評論家コラムでも書いた通り、簡単に埋められる差ではない。巨人は2年続けてソフトバンクに4連敗して日本一を逃している。指揮官である原監督が現場で肌で感じた危機感は相当だったはずで、打開策の一つとしてDH制の導入に思い至ったのだと思う。
DH制については、私は以前から賛成の立場だ。一番の理由は巨人が提案した③の理由が大きい。プロ野球はファンあっての興行。「ファンがピッチャーの打席を見たいのか」というシンプルな疑問がある。高校時代に打撃センスがあった松坂大輔投手や前田健太投手の打席なら興味本位でも関心は高いかもしれない。しかし、多くの投手は基本的に安打を放つことは難しく、チームからも打撃に関しては期待されていない。もっと踏み込めば、投手の年俸査定において、少なくとも私の場合には打撃成績は対象に入っていなかった。投げる立場でいえば、打席に立ち、打った際にバットの芯を外せば手しびれることもあり、けがのリスクを避けるメリットはある。ファンからすれば、投手の打席に指名打者が入るなら、見応えのある勝負が1打席でも増える。そのほうが楽しめるだろう。
では、投手のレベルが上がるかという視点ではどうか。DHと9番・投手(それ以外もあるかもしれないが)では投手心理は全く違う。たとえば2死二塁で次打者が投手なら、歩かせて投手との勝負で逃げ切れるという計算が立つ。もしも、代打を送れば、投手はマウンドでの調子とは関係なく降板することになり、成長の機会を失う。投手は投げることで強くなるという側面がある。DHの導入は投手を鍛えるという視点からも必要なのかもしれない。それは、パ・リーグの投手陣をみているとわかりやすい。
球団経営の観点でいえば、レギュラー野手が1人増える。単純に年俸1億円ならその分だけ「人件費」はかさむ。ただ、その選手が活躍すればグッズ収入なども入る。考え方次第かもしれない。
もちろん、DHを導入すればセ・リーグのレベルが上がるかといえば、そんな単純ではないだろう。投手交代のタイミング、代打の醍醐味など、DH制の導入で失われる妙味があることも踏まえて、判断をする必要もあると思う。今回は来季に向けた編成に着手した後の巨人からの提案だったことも、他のセ・リーグ球団が二の足を踏んだことにつながったのかもしれない。来シーズンの間に翌シーズンを見据えた議論があってもいいのではないだろうか。
もともとは人気面ではセ・リーグが圧倒してきた歴史がある。2004年の球界再編騒動などもあり、パ・リーグは「地域密着」に舵を切り、プレーオフ(現在のクライマックスシリーズ)制度を導入するなど、アイデアで勝負してきた。米大リーグもア・リーグはDHを採用し、ナ・リーグは投手が打席に立つ。日本のセ、パもそれぞれのリーグの歴史の上に成り立っているという側面はある。ただ、状況はコロナ禍の真っただ中。例外的に、暫定的に導入するという検討をしてみてはどうか。先が見通せない状況だからこそ、球界も臨機応変の姿勢があってもいいのではないだろうか。