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北朝鮮「水爆実験」はガールズバンドが習近平に無視されたのが原因

木村正人在英国際ジャーナリスト
中国・北京を訪れた北朝鮮「モランボン楽団」(昨年12月11日)(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮のAKB48

「初の水爆実験」と発表された北朝鮮の4回目の核実験は、北朝鮮のAKB48と言われる超人気ガールズバンド「牡丹峰(モランボン)楽団」の北京公演を習近平国家主席ら中国最高指導部が無視したのが原因だったようです。金正恩の肝煎りで計画したモランボン楽団の公演を無視され、恥をかかされたと感じた金正恩第1書記が個人的な動機から中国に対するうっぷんを晴らすため核実験を強行したとしか考えられないということです。

そんなことがと思われるかもしれませんが、米国のクリントン、オバマ政権でイランと北朝鮮の核問題を担当した核セキュリティの世界的権威、ハーバード大学行政大学院のゲイリー・セイモア氏が19日、ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で講演し、こんな見方を示したのです。

核セキュリティの世界的権威、セイモア氏(筆者撮影)
核セキュリティの世界的権威、セイモア氏(筆者撮影)

耳を疑ったので講演後、本人に直接、オン・ザ・レコードで確認したら、それ以外に理由が見当たらないということでした。まずモランボン楽団の北京公演とドタキャン騒動を振り返っておきましょう。

モランボン楽団と「功勲国家合唱団」の一行100人以上が昨年12月9日、列車で平壌を出発、同月15日まで中国を訪問する予定でした。モランボン楽団は金正恩の指示で2012年に結成された人気グループです。外国公演は初めてということで、冷え込んでいた中朝関係が改善に向かうシグナルをみられていました。

北京公演のドタキャン

北京に到着したモランボン楽団は10日、「素晴らしい公演にするために頑張ります」とにこやかに語っていました。ところが、12日から中国国家大劇院で予定されていた初の海外公演は11日になってドタキャンされ、楽団メンバーは翌日、空路帰国しました。モランボン楽団のメンバーは駐中・北朝鮮大使に付き添われ、小さなバッグだけを持って北京国際空港に現れ、突然の決定だったことをうかがわせていました。

デイリーNKによると、中国に駐在している北朝鮮の役人や企業の駐在員に緊急の帰国命令が出たということです。

朝鮮中央通信は10日、金正恩が「平川革命事績地」を視察し、「今日、わが祖国は国の自主権と民族の尊厳を守る自衛の核爆弾、水素爆弾(水爆)の巨大な爆音をとどろかせることのできる強大な核保有国になることができた」と述べたと伝えています。そしてドタキャン3日後の15日に金正恩は水爆実験実施の命令を出したと大きく宣伝しています。

北朝鮮で最も人気のあるガールズバンド、モランボン楽団の北京公演は北朝鮮にとっても中国にとっても、単なる文化交流ではなく、外交そのものでした。モランボン楽団と功勲国家合唱団の訪中責任者はチェ・フィ労働党中央委第1副部長。中国側は党外交を担当する中国共産党中央対外連絡部が参画し、華春エイ・外務省報道官も「伝統の友誼を強固にするだろう」と持ち上げていました。

核分裂性物質の無駄遣い

その華報道官は金正恩の「水爆保有」発言について「地域の情勢緩和に役立つことを行ってもらいたい」と批判しました。金正恩の「水爆保有」発言に怒って中国側がモランボン楽団の公演に出席する中国共産党メンバーの格を大幅に引き下げたかどうかははっきりしません。しかし、寵愛するモランボン楽団の公演に招待した中国最高指導部が出席しないことを通知したことで金正恩が面目を潰されたのは間違いないようです。

北朝鮮が核実験を行う理由は3つあります。国内事情と核兵器の技術獲得、外交的な狙いです。セイモア氏によると、「水爆実験」と発表された4回目の核実験は3回目と核出力があまり変わらず、同じ実験を繰り返したのではないかということです。これでは核兵器をつくるための核分裂性物質を無駄遣いしたことになります。

米国のオバマ政権は北朝鮮の瀬戸際戦術に乗ってご褒美を与えることがないよう「戦略的忍耐」政策をとっており、北朝鮮にはこのタイミングで4回目の核実験を強行する外交上のメリットがまったく見当たりません。モランボン楽団の公演に中国最高指導部が出席しないことで失った面目を4回目の核実験で取り戻そうとしたとしか考えようがないとセイモア氏は言います。

ソニーのサイバー攻撃と同パターン

「あまりにバカげた見方のように思えるが」と講演後に筆者が確認すると、セイモア氏は2014年11月に米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが北朝鮮の大掛かりなサイバー攻撃を受けた事件を例に挙げました。「金正恩はソニー・ピクチャーズエンタテインメントが作ったコメディー映画『ザ・インタビュー』で個人的に侮辱されたと感じ、激怒して北朝鮮のサイバー部隊にハッキングを命じています」

この事件では「平和の守護神」を名乗るハッカーが「要求に従わなければ社内の機密情報を世界中に公開する」と脅しました。「ザ・インタビュー」の主なプロットは、金正恩へのインタビューと暗殺です。

セイモア氏は「金正恩は個人的な感情が行動の動機になっています。ソニー・ピクチャーズエンタテインメントへのサイバー攻撃と4回目の核実験のパターンは非常によく似ています」と説明します。「4回目の核実験を強行したのは北朝鮮にとって間違いです。ソウルとの関係を悪化させ、北京と関係改善する機会を失いました。そして米国に追加制裁のチャンスを与えました。これはとてもスマートとは言えず、まずい判断です」

自分自身の権威を回復するために伝家の宝刀であるサイバー部隊と核を使うとは――。まったく「子供っぽい」としか言いようがない判断ですが、これが北東アジアに核とミサイルの脅威をまき散らす金正恩の行動原理なのです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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