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史上最高勝率ペースの藤井聡太棋王(21)棋王戦第3局で伊藤匠七段を降し、防衛2連覇まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月3日。新潟県新潟市・新潟グランドホテルにおいて、第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第3局▲藤井聡太棋王(21歳)-△伊藤匠七段(21歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は18時53分に終局。結果は105手で藤井棋王の勝ちとなりました。

 藤井棋王はこれで2勝1持将棋。防衛、2連覇まであと1勝としました。第4局は3月3日、栃木県日光市・日光きぬ川スパホテル三日月でおこなわれます。

 藤井棋王は今年度王座戦第2局からタイトル戦で勝ち続け、自身2度目のタイトル戦13連勝を達成しました。

 藤井棋王の今年度成績は44勝7敗1持将棋(勝率0.863)となりました。

 藤井棋王は依然、史上最高勝率ペースです。

伊藤七段、想定外の進行

 藤井棋王先手で、戦型は大方の予想通り、角換わり腰掛銀となりました。

 33手目。藤井棋王は右側の金を5八に上がります。かつては主流だった形。近年はコンピュータ将棋(AI)の影響により、4八に立つ形が多くなりました。

 37手目、藤井棋王は積極的に桂を跳ねて動いていきます。

藤井「それほど前例は多くない形ですけど、一応、やってみようかなというふうに思っていました」

 伊藤七段は第1局、周到な用意をいかして、後手番で持将棋に持ちこみました。しかし本局はあまり想定していない進行になったようです。

伊藤「序盤からあまり前例の少ない将棋になって。時間を使う展開になったんですけれども」

 44手目。伊藤七段は6筋から反撃する手に52分を使いました。その次、46手目を考慮中に12時、昼食休憩に入っています。

 13時、対局再開。伊藤八段は昼食休憩をはさんで1時間22分の消費時間で46手目、藤井陣に角を打ち込みました。

 形勢は互角。ただし持ち時間4時間のうち、残りは藤井3時間41分、伊藤1時間16分と大差がつきました。

中盤の押し引き

 伊藤七段は角を成り、馬を作って受けに回ります。

伊藤「こちらが馬を作って、自陣に引いていく展開となったんですけど。ただ、その馬が目標となってしまう展開になったので、終始自信のない将棋だったかなと思います」

藤井「中盤、いったん、局面が収まったところがあったんですけど。やっぱりそこで、どういう構想で指すかというのが、非常に難しかったなと思います」

 61手目。藤井棋王はじっと自陣に歩を打ちました。

藤井「(代わりに攻めの手の)▲6四歩も利いているかどうか、わからなかったですけど。どこかでやっぱり4五桂が取られる形なので。△6六桂のキズを気にははしたんですが。ただ▲6七歩だと△8一飛車と形よく引かれる手を許すことになるので。それで玉を安全にさせてどうかなとは思ってはいたんですけど。ただその手段が思ったより、難しかったかなという印象がありました」

 69手目。藤井棋王は右端1筋に角を据えます。伊藤七段が馬銀で守る3筋に、飛角金で圧力を加え、前線突破をはかりました。

藤井「後手が△2四歩から手厚い形にされる前に動いていく必要があるかなと思ったんですけど。ただ、窮屈な形になってしまって。1七角がさばけない懸念がかなりあるので。うまくいっている感じではないかなと思っていました」

 70手目。伊藤七段は守りの金を押し上げていきます。

伊藤「△3三桂も比較したんですけど。ちょっと苦しいかなとは思っていて。どの順が勝負できるかというところかなと思っていました」

藤井棋王、抑え込みの網を破る

 伊藤七段は守りの要の馬を切り、相手の攻めの金と刺し違えます。そしてその金を打ち、抑え込みをはかりました。

 82手目。伊藤七段は1筋の歩を成って、と金を作ります。ここで藤井棋王は飛車を切り、相手の金と刺し違え、攻めをつなげていきました。結果的には、ここで藤井棋王がはっきりとリードを奪ったようです。

藤井「どうなっているか、きわどいところかなと思ったんですけど。ただ、抑えこまれてしまうと、はっきりダメになってしまうので。手としては仕方ないかなと思っていました」

伊藤「(83手目)▲2七飛車から▲1一香成で、そのあと(金取りに打たれる)▲6四香の厳しさをちょっと軽視していたので。そうですね。あのあたりで、もう少し違った手でがんばるしかなかったかなと思います」

藤井棋王、鮮やかに2勝目

 優位に立った藤井棋王は、いつもながらに誤りません。伊藤七段も手にした飛車を藤井陣に打ち込み反撃に出ますが、少し届かない情勢となってました。

藤井「(93手目)▲5五香と打って、攻め合いで、△4八とから△5九とがまだ詰めろではないので。少し、いけていてもおかしくないかな、というふうには考えていました」

 勝ち方はいくつかあったのかもしれません。その中で藤井棋王は、いつもながらに鮮やかな順を選びました。

 105手目。藤井棋王は伊藤玉の腹に銀を打ちます。これできれいに受けなし。伊藤七段が投了し、終局となりました。

 五番勝負は持将棋のあと、藤井棋王が2連勝。あと1勝で防衛、2連覇達成です。

藤井「そのこと自体はあまり意識せずに、いい状態で臨めるように、次局に向けて調整していきたいと思います」

伊藤「スコアは0勝2敗とカド番になってしまいましたけど。一局でも多く指せるようにがんばりたいと思います」

 藤井棋王と伊藤七段の対戦成績は、これで藤井棋王の9勝1持将棋となりました。

 2016年10月に棋士となった藤井棋王。それから7年以上が経ち、いまだに年少の棋士に、まだ一度も敗れたことがありません。

藤井棋王、史上最高勝率記録更新なるか?

 次の棋王戦第4局までは2週間ほどの間が空きます。その間の3月10日には、NHK杯準決勝、羽生善治九段戦が放映されます。

 藤井棋王はこのあと、NHK杯準決勝、決勝を勝って優勝し、棋王戦五番勝負第4局で勝って防衛を果たすと、史上最高勝率記録を更新します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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