【2020年都知事選】注目すべき若者政策は?
7月5日に投開票日を迎える2020年都知事選挙。
新型コロナウイルス感染拡大による選挙活動の自粛に加え、なぜかテレビで討論会も行われず、盛り上がりに欠けるが、主要候補者のHPから注目すべき「若者政策」をピックアップして紹介したい。
是非とも実現して頂きたい「ユース・カウンシル」
これまで筆者が代表理事を務める日本若者協議会で団体設立以来、ずっと政治参加に関する提言をしてきたこともあり、まずは「若者の政治参加」に関する政策を見ていきたい。
「若者の政治参加」について言及している候補者は少ないが、その中でも目を引くのが宇都宮健児候補による「ユース・カウンシル」である。
宇都宮健児 重要政策01
若者が将来に希望を持てる政策を進めます。
○都として「若者評議会」(ユース・カウンシル)を設置します。若者自身が若者政策を立案し、それを都の行政に反映させます。『東京の若者白書』を発行します。
○ユース・カウンシルでは、次のような課題を検討します。
若者むけワンストップ型職業紹介サービス(ジョブカフェ)の拡充、大学へのハローワークの就活相談員の派遣の拡大。
非正規雇用にある若者の賃金・労働条件の劣悪さの改善、非正規雇用から正規雇用への転換の促進。
若者むけ職業体験・職業訓練(公的・民間)の充実(高校生への職業教育の充実、地元中小企業・商店街でのインターンシップの拡充)。
民間企業への若者の雇用拡大。
都・区市町村による若者むけの公的雇用の創出。
働くことへの困難に直面してしまった若者への支援(若者自立塾、若者サポートステーション)の充実。
若者むけ労働相談や若年ホームレス・若年生活保護受給者に支援活動を行うNGOや社会的企業・協同組合への支援。
「ユース・カウンシル」は、日本語だと「若者会議」や「若者議会」、「若者協議会」など様々な呼ばれ方をしているが、「若者が若者政策に直接影響力を及ぼす政策提言組織」であり、民主主義の発達している欧州各国では取り入れられている「若者の政治参加」の代表的な取り組みである(日本若者協議会でも団体設立以来、国政に提言している)。
これまで度々記事で取り上げているように、日本では「投票」ばかりが注目されているが、実質的に影響力を持つためにはこうした政策決定の場に若者が参画する必要があり、「ユース・カウンシル」は非常に重要な施策である。
関連記事:コロナショックで進む「若者の政治参加」。今後意識したい「参画」のあり方(室橋祐貴)
他にも、『都民、当事者と専門家の参加を得て、「安心して暮らせる脱貧困都民会議」(仮称)を設置』、「東京都の審議会など意思決定分野における女性の参画を進めます」など、宇都宮候補は、全体的に市民の政治参加を促す政策が目立つ。
山本太郎候補も、「若者」に限った話ではないものの、市民の政治参加という意味では、「障がい者のことは障がい者で決める東京」として、障がい当事者の政策決定への参画を訴えている。
山本太郎 東京都8つの緊急政策
障がい者のことは障がい者で決める東京
都の障がい者政策部局の責任者に障がい当事者を立て、審議会等の政策決定の場には必ず障がい当事者を半数以上とし、個々のニーズや障がいにあった十分な介護を保障する東京に。
教育・子育て政策
続いて、教育・子育て政策を順に見ていきたい。
子育て支援や英語教育をアピール、小池百合子候補
現職である小池都知事は、子育て支援や女性活躍を重点的に取り上げているが、特段目新しいものはなく、「ベビーシッターの更なる強化(病児・医療的ケア児への対応等)」に関しては、シッターマッチングアプリ大手「キッズライン」に登録する男性が強制わいせつ容疑で逮捕されるなど、ベビーシッターの安全性が懸念されており、その対策をどう考えているのか聞きたいところである。
小池百合子 東京大改革2.0
子育て支援・女性活躍
・保育・学童の待機児童ゼロへ向けた施策の加速
・保育園・学校・学童クラブ等における感染予防対策の徹底
・オンラインの活用など、安心して妊娠・出産と健診・予防接種、仕事ができる環境の整備、妊産婦・乳幼児支援(とうきょうママパパ応援事業の強化など)
・子育て世代の経済的支援の強化:合計特殊出生率2.07へ
・家庭における仕事と子育ての両立環境(ベビーシッター・家事支援など)
・男性の育休取得・家事育児への参加の促進
・子どもの放課後の居場所づくりの強化
・不育・不妊治療への支援の強化
・児童相談所の機能強化等による児童虐待・DV・ハラスメント対策の強化
・ひとり親家庭・児童養護施設退所者等への支援
・ベビーシッターの更なる強化(病児・医療的ケア児への対応等)
・児童発達支援センターの整備推進
・重度心身障がい児への支援強化
教育
・一人一台の学習用PC・標準的学習コンテンツの整備等によるオンライン学習の強力な推進
・学びの遅れを取り戻すサポートスタッフの大幅拡大
・「東京型教育モデル」:対面・オンラインのベストミックス・インクルーシブな環境・フリースクールなど学びの選択肢の多様化・個別最適化
・多摩地域における英語村の開設をはじめ、学生・ビジネスパーソン含めた都民の英語習得環境の拡大
・ICT・理工系教育・金融教育の強化
・子どもの貧困対策、経済的困窮の家庭・学生への支援強化
・東京都立大学の秋入学の拡大
(他の候補者に見られない公約を筆者が太字にしている)
負担軽減策や若者政策が目立つ、宇都宮健児候補
宇都宮候補は公約の数が多く(政策集は51Pにもなる)、多大な財政支出が必要な政策も多いため、財源が知りたいところではあるが、学校給食の完全無償化や都立大学の授業料半額化などの負担軽減策や、若者の居場所づくり、都の施設の25歳以下無料など若者政策が目立つ。
公約の数自体が多いこともあるが、若者政策に関する政策は宇都宮候補がダントツで多い。
重要政策05 教育現場への押しつけをなくし、すべての子どもたちが生き生きと学べる学校をつくります。
○公立高校授業料の無償化を継続し、私立高校の所得制限付き授業料無償化を導入し、公立私立の給付型奨学金も導入します。
○小学校からの教材費、給食費、制服代などの無償化を進めます。
○朝鮮学校への経費補助差別を撤廃します。
○東京都立大学や都立看護専門学校など、都立学校の入学金・授業料を半額にし、無償をめざします。
○小中学校における学校選択制、学校統廃合、小中一貫教育、全国学力テストなどを検証します。
○子どもと教師との間の人間的触れ合いを実現するのに不可欠な少人数学級を実現します。また、コロナ感染症対策のためには、かなりの少人数学級にする必要があります。そのため、都独自に20人学級を実現します。そのための教員の増員や学校設備の増築などに早急に対応します。
○青年期(12歳から18歳)にはどんな教育が必要かを、現場の教師や専門家を集めて議論し、それに基づいて高校入試をより競争的でないものに改革します。
○教育行政に都民の多様な教育要求を反映させるため、保護者、子ども、教員、労働者、大中小の企業経営者などの社会各層の代表を参加させるのに十分な数の委員から構成される諮問委員会を、教育委員会の下に創設します。
○教育委員会の準公選を実施します。
区市町村の教育委員会の準公選の導入について、支援します。
「子育てしやすい環境づくり条例」を制定します。
○「子育てしやすい環境づくり条例」により、保育園の待機児童解消、学童保育の小学校高学年利用、1小学校1児童館実現、いじめや困難家庭の継続的なサポートのためのスクール・ソーシャルワーカーの全中学校配置など、東京都が全国のモデルになる高い行政を実現します。
○待機児をゼロにするために、5ヶ年間で5万人、当面2万人超の認可保育所等の定員増を図ります。
○18歳まで医療費無料化を拡大します。
○就学援助については、都独自の基準を設定し、区市町村への都の補助制度を使って、「こどもの貧困」を大幅に減らします。
だれもが居場所のあるまちづくりをすすめます
○区市町村の意見も聞き協力しながら若者の居場所づくりをすすめます。若者自身が打ち合わせや相談やイベントに使えるフリースペースをつくります。
○孤立しがちな若者たちも気軽に立ち寄れる居場所を中学校区ごとに全都につくることをめざします。区市町村の意見も聞きながら、区市町村の取り組みも支援します。
文化的な生活をすべての都民に。都の施設(美術館や博物館、動物園、公園など)の入場料を25歳までの都民は無料にします。
総額15兆円で、あなたのコロナ損失を徹底的に底上げ、山本太郎候補
山本太郎候補も、比較的宇都宮候補と似ているが、全都民への10万円給付や授業料1年間免除など、負担軽減策が目立つ。
なお、財源としては「地方債を積極的に発行」するとしている。
■まずは全都民に10万円を給付。
■授業料1年間免除。(小学校・中学校・高校・大学・大学院・専門学校等)
■待機児童・待機高齢者をなくすため、施設建設と人員を増やすことが必要。全産業平均並みの給与を介護・保育職に保障。
実現可能性の高そうな、小野泰輔候補
最後に、小野泰輔候補は、熊本県副知事を2期8年務めてきたこともあり、「現実的」な政策が目立ち、他に先行事例があるものなど、すぐに実現できそうな政策が多い印象を受ける。
●妊娠、出産、子育てへの大胆な投資を行います。特に保育士・教師の事務負担軽減および生徒の学びの充実のための事務簡素化・ICT化、不妊治療助成拡大、妊産婦支援・割引制度(マタニティパス等)の拡充、子育て応援券の導入、保育士の待遇改善(直接給付)など、サポートの拡充を図ります。
●相対的貧困率の高いひとり親家庭の経済的支援・自立支援を積極的に行います。また、民間金融機関と連携し、養育費の不払いを一定期間立て替える制度の導入を検討します。さらに、ひとり親家庭の子どもの学習支援の場を提供します。
●大阪で先行する「学校外教育バウチャー」を導入し、生活困窮世帯の教育機会を徹底的にサポートします。また、都立大学は国の基準を大幅に上回る範囲で無償化を推進します。
●タブレット端末の一人一台支給の早期実現や各家庭のインターネット環境整備を推進し、コロナによる学力格差拡大を防ぎます。また、集団教育のあり方や部活動のあり方を検証し、時代にあった教育方法を提示します。
●児童相談所について、職員の充実、警察との連携、常勤弁護士の配置など強化をはかり、虐待致死事故を徹底的に防ぐ体制を構築します。また、里親委託・特別養子縁組の普及、促進を図ります。
●小池都政下で進捗のなかった混合介護の導入を促進し、ダブルケアやヤングケアラー問題の解決に努めます。
●まだ多くの保育所で対応が困難な病児・病後児保育を拡充するため、対応施設を設置する民間事業者・基礎自治体にさらなる財政支援を行います。
●自らも双子を育ててきた経験から、多胎児支援のモデルケースを東京都から構築します。今年度から都も打ち出した多児ピアサポート事業・家事育児サポーター事業など、基礎自治体と連携し速やかに実現されるよう適切に支援します。
こうして見ると、それぞれ注力しているポイントや独自案も見られるが、やはり詳細が足りず、TVでの公開討論会など、候補者同士が活発に議論する場が増えることを願うばかりである。
小田原市では現在、公約の「虚偽(誤解?)」が問題になっており(※)、選挙期間中に十分に検証できなければ、「言ったもの勝ち」になってしまう恐れがある。
※先月の市長選で選挙公報に掲載した公約「市民1人につき10万円給付」が市独自でなく国の特別定額給付金を指していたことを巡り問題になっている。
参考記事;給付金公約巡り市長反省 小田原市議会(神奈川新聞)
昨年の参院選でも主要テレビ局の選挙報道は前回に比べ約3割減になったが、おそらく今回は(前回2016年の都知事選に比べ)半減ぐらいにはなっているのではないだろうか。
その点に関して、報道の役割をどう考えているのか、テレビ局関係者に聞きたいところである。