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「自分のやりたいことを見つけなさい」と言う大人の偽善

横山信弘経営コラムニスト
自分がやりたいことって何だろう……。(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■「1on1ミーティング」って意味があるのか?

「もっと自分のやりたいことを見つけなさい」

「あなたの夢は何?」

「若いんだから、夢の一つや二つぐらい持てよ」

先日、あるクライアント企業で実施された面談に立ち会った。上司と若手社員との「1on1ミーティング」である。

上司が若手社員にいくつか質問し、本人の意向をヒアリングするのはいいのだが、どうも上から目線だ。

休憩時間に、上司が私に耳打ちをする。

「最近の若い子は夢がありませんな。人生の目標を持っていないというか。どうしてああなんでしょう」

苦笑いすると同調したと受け止められそうなので、私は無表情でスルーした。「じゃあ、あなたが若いころは夢を持ってたんですか。寝ても覚めても考えるほどやりたいことがあって、それに向かってどれぐらい努力したんですか」と聞きたくなるのを我慢して。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。「絶対達成」というフレーズを使っているので、多くの人から勘違いされる。

私のスタンスは、会社から与えられた目標は絶対達成。だが、人生の目標は達成しても達成しなくてもいいというスタンスだ。それどころか、そもそもそういう「人生の目標」だとか「人生を賭けて実現したい夢」など持っても持たなくても、どちらでもいいと考えている。

なぜなら夢は「手段」だからだ。決して「目的」ではない。

経営コンサルタントとして、「手段の目的化」を肯定したくないから、個人が持つ夢の実現などに興味はない。大事なことは、その人が誰かを幸せにできるかどうか。人生の目的は、それしかない。

■ 人生経験豊富で何が悪い

子どものころから持っていた夢を実現したら、そりゃあ幸せだろう。しかし、子どものころから夢がなく、やりたいことが見つけられないまま人生を過ごしても、幸せになることぐらいできる。

というか、ほとんどの人がそうだ。

先述した上司とランチをした。その際、私は、

「部長は、子どものころ、何になりたかったんですか」

と、さりげなく聞いた。するとこんな答えが返ってきた。

「小学生のころは、パイロットになりたかった。卒業文集にも書いてありますよ」

彼は照れながら言う。

「高校生のときまで、卓球に命をかけてましてね。卓球の選手になりたかったのですが、肘を怪我しまして……。それで断念したんです」

「そうでしたか」

大学卒業後、商社に入ったのだが3年で退職。単身アメリカに渡り、2年ほど放浪の旅をつづけたという。その旅の途中で知り合ったオランダ人と貿易の仕事をはじめるがトラブルが多く、30歳で見切りをつけて日本へ帰国。知人の紹介で建設会社の経理を務め、35歳で会計士の資格を取得した。

「まさか、会計士になるとは思いませんでした」

と言って頭をかく彼は、それでも誇らしそうだ。

「がむしゃらでしたね。あの頃が一番、仕事が楽しかった。その後、産業カウンセラーの資格もとり、人材教育の道に進んだ」

37歳で食品メーカーの人事部へ転職し、キャリアカウンセラーとして日々忙しくやっている。「人生経験が豊富だから、彼を抜擢した」と社長も公言しているほど、経営陣からの信頼も厚い。

私も同様に、2分程度で自己紹介した。

学校で建築を勉強したのに、バブル時代儲かると言われたシステムエンジニアへ鞍替え。その後、3年で退社し、青年海外協力隊で中米へ3年間赴任した。帰国して日立製作所という日本を代表する企業に再就職し、その後35歳で、過去やったこともない営業のコンサルタントに転身した、と。

「横山さんも、人生経験豊富ですね」

「物は言いようですね」

まるで「軸」のない人生を送ってきた。だから、引け目はある。しかし「充実した人生を送っているか」と問われたらイエスだし、幸せかと尋ねられた「今はそうだ」と即答できる。

この上司もそうだ。「自分の人生に満足している」と顔に書いてあった。

■ 夢を持てと強要するのはどうか

このように、多くの大人たちは、若い時分に思い描いた人生を送っていない。「金持ちになりたい」「出世したい」「マイホーム持ちたい」といった抽象的な夢ぐらいなら持っていたかもしれないが、どんな仕事に就きたいか、何をして自分の名を馳せたいかなどといった具体的な夢を持っていた人など、ほとんどいない。

過去16年間のコンサルティング経験のなかで、数百人を超える経営者、管理者たちと交流がある私が言うのだから、間違いない。

だから声を大にして言いたい。

自分自身、若いころにやりたいことがあったわけでもないし、それがあったとしても、それを貫いてきたわけでもないのに、

「若いんだから、夢ぐらい持てよ」

と説教するのは偽善だ、と。

テレビで取り上げられる多くの著名人やアスリート、ノーベル賞を受賞するような偉人たちは、たしかに若いころからブレない「自分軸」を持って人生を送ってきた。

そのような人たちに憧れるのはいい。健全だ。しかしそうでなければならない、という思想を持つべきではない。

「私にとって人生の目的とは何か?」「生きるとは何なのか?」という哲学的な問いをしたい人は、どうぞやってください。ただし「哲学的な問いをしたい人」だけにすべきだ。そういう難解なことを考えることが好きな人、複雑で捉えどころのない事柄の「真実」を突き止めようとする自分の姿がクールだと思う方は、そのプロセスそのもので快楽を感じるのでいい。

しかし難解な問い掛けをされても、頭が混乱するだけで不快に感じる人は、やめるべきだ。疲れるからだ。

■ 2つのキャリア論

繰り返すが、人生の目的は決まっている。それは、誰かを幸福にすることだ。

幸福感というのは「感覚」を指しているので、誰かの価値観にとらわれない。相応の脳内物質が分泌されれば「快楽」を得られるなのだから、悩む必要などない。難解ではなく明解である。

「やりたいことが見つからない」と悩んでいる若者は多いだろう。しかし、自分のキャリアを考えるうえで、最低限の知識は身につけておこう。「キャリアアンカー論」「プランドハプンスタンス論」だ。

確固とした自分のキャリアゴールを見据えたうえで自己研鑽を繰り返し、働く環境を自らの意志で選択するのが「キャリアアンカー型」。

偶然によって身を置いた場所で努力し、仕事をしていくなかで自分のキャリアが肯定的に発展していくというスタイルをとるのが「プランドハプンスタンス型」。

どちらを選択してもいいが、結果的に「プランドハプンスタンス型」のキャリアを送る人が圧倒的に多いことは、容易に想像つくはずだ。

もし疑問に思うなら、自分の親や、上司になった人たち10人に聞いてみるといい。

■ 目の前のことを一所懸命にやれ

先述の「1on1ミーティング」のような場で、上司から「君の夢は何か?」と問い掛けられ「幸せになることです」と答えるのは難しいだろう。「そういうことじゃなくて」と反論されそうだからだ。

なので、

「夢と言われても、今のところ何をやりたいのか……。自分でもわかりません」

と正直に答えるか、

「私の夢は、はやく一人前になって会社に貢献することです。A課長のように、お客様に驚きと感動を与えられる仕事をしたいと思います」

……といった夢でもなんでもない、抽象的なすり替え論で逃げるかになってしまう。

そもそも面談する上司は、「1on1ミーティング」で若手社員にどう言ってもらったら100点なのか。自分自身わかっているのだろうか。どんな夢、どんなやりたいことを言ったら、満足なのか。何が模範的回答なのか、言ってみてほしい。

ほとんどの上司、そしてキャリコンサルタントだって言えない。「若いのにやりたいことがないなんて」と嘆くのはいいが、模範解答例が言えないなら、単なる偽善だ。

試しに、この上司に質問してみた。

「どんな『やりたいこと』を若手社員が言ったら、部長は嬉しいですか。嘆かないですか」

すると、

「そうですねェ……」

と言いながら天を仰ぎ、しばらくしてから

「それは、本心でやりたいこと、じゃないですかね。本心でやりたいことだったら、それで私はいいですが」

と言った。

私は「本心でやりたいことって何だよ」「それじゃ、精神論じゃないか」と突っ込みたくなるのを我慢して、スルーした。愚問だったようだ。

若手社員にとって大事なことは、シンプルだ。目の前のことに一所懸命取り組むこと。それに尽きる。夢がなくても、やりたいことが見つからなくても、それぐらいはできるのだから。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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