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あおり運転で容疑者逮捕 悪質ドライバーの免許は取り消しにならないのか

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
外国では事故の有無にかかわらず危険な運転者から一生涯免許をはく奪する制度も導入(写真:アフロ)

 全国に指名手配されていた「あおり運転殴打男」と同乗者の女が、8月18日、逮捕されました。

 すでにテレビなどで逮捕時の模様が繰り返し報じられていますが、反省するどころか、さらに攻撃的な態度をとっているのには驚いてしまいます。

 彼らにとって、今回の行為は日常のひとコマにすぎなかったのでしょうか。共に逮捕された女が警察署に連行されるとき「あおってきたのは相手の車だ!」と息巻いている姿をテレビ朝日やNHKなどのニュースで見たときは空恐ろしくなりました。

新潟県警HPより
新潟県警HPより

■男の運転復活は意外に早い?

 宮崎文夫容疑者(43)は、ディーラーから試乗車を借りていたようです。その車は全国で目撃されており、あちこちで同様の危険行為を繰り返していた可能性が出ています。

 現時点では、宮崎本人が運転していたかどうかを特定することはできませんが、その乱暴な運転は多くのドライブレコーダーに映像として記録されていました。

 過去には、別の車であおった末にトラックと衝突事故も起こしていたそうです。

 もちろん、全ての車にドライブレコーダーが装備されているわけではありません。あおり運転をされながら、証拠が残っていないため声を上げられないという被害者が、他にもいる可能性は十分に考えられます。

「あんな悪質なドライバーが一般公道を走っていると思ったら怖くてたまらない。やっと逮捕されてひと安心だ……」

 

 あの危険なあおり映像を目の当たりにした多くの人が、宮崎逮捕のニュースを見て胸をなでおろしていらっしゃることでしょう。

 しかし、その「安心」は、思っているほど長く続かないかもしれないことを認識しておくべきかもしれません。

 

 今回、宮崎容疑者は被害者を殴打しているので傷害容疑で逮捕されたものの、決して重大な交通事故を起こしたわけではありません。

 あおり運転そのものは、下記の表にあるとおり、一般的には単なる「道路交通法違反」で処理されます。そのため、通常は免停期間を過ぎれば何もなかったように野に放たれ、車を走らせることができるのです。

 仮に免許取り消しになったとしても、一定期間を経れば再び免許を取り直してハンドルを握ることも可能です。

警察庁資料より
警察庁資料より

■重大事故の加害者には「悪質運転」常習者が多い

 私はこれまで、数多くの交通事故を取材してきました。

 その中で痛感するのは、重大事故の多くが起こるべくして起こっているということです。

悪質な運転者が法律を無視し、およそ「過失」とは言えないような自己中心的な行為で、かけがえのない人の命や人生を奪っているのです。

 いくつか実例を挙げてみたいと思います。

2002年4月、Sさん(当時25)は、職場からの帰宅途中、センターラインオーバーの暴走車に正面衝突されて亡くなりました。加害者は執行猶予中の身で、このときは免許取り消しの手続き中でした。にもかかわらず、酒を飲んだ状態で盗んだ車に乗り、Hさんの命を奪い、事故直後は逃走を図りました。

2001年5月、Jさん(当時43)は、タクシーで帰宅途中、衝突事故に遭い亡くなりました。加害者は免許を取ってわずか3年しかたっていませんでしたが、その間に飲酒運転など交通違反を9回、免停3回を繰り返していました。この日も居酒屋や風俗店をはしごし、泥酔状態で時速100キロ以上のスピードで対向車線を逆走。タクシーと正面衝突しました。

先日執筆した『妻の命を奪った「ながらスマホ」運転 「前を見ない運転は運転とは言えない!」夫の叫び』の事故では、スマホで漫画を読みながら高速道路を運転していた加害者が、バイクで走行中の女性(当時39)に追突し死亡させました。刑事裁判では、加害者がこの事故を起こす前にも脇見で大きな単独事故を何度も繰り返していたことが明らかになっています。

 これらは氷山の一角ですが、こうした事故の話を見聞きして感じるのは、運転免許所有者の中には全く順法意識のない極めて悪質な人間が存在しているということです。交通ルールを守るどころか、ハンドルを握りながら違法な行為を繰り返す傾向があるのです。 

 このようなドライバーが将来的に重大事故を起こす可能性を考えれば、たとえその時点では人身事故になっていなくても、「悪質な行為」自体をもっと重くとらえるべきではないでしょうか。そのドライバーの運転適性を的確に判断したうえでしかるべき対応をすることで、多くの被害者の命は未然に救えるのではないか……、そう思えてならないのです。

ドイツでは悪質運転者に対して免許のはく奪という厳しい処分も……(筆者撮影)
ドイツでは悪質運転者に対して免許のはく奪という厳しい処分も……(筆者撮影)

■ドイツでは危険運転者の「免許はく奪」

 私が以前から合理的だと思っているのは、ドイツの制度です。

 実際にフランクフルトとデュッセルドルフの警察で交通捜査について取材したとき、「悪質運転」に対するで考え方や国としての対応が日本とは大きく違うことを知ったのです。

ドイツ・フランクフルト警察で取材する筆者(筆者提供)
ドイツ・フランクフルト警察で取材する筆者(筆者提供)

 2017年にTBSで放送された「なくせ!危険運転」という番組では、同国の「一生涯免許はく奪」の罰則制度を取り上げ、こう解説していました。

『ドイツでは、免許の剥奪は社会の安全を守るという理由で行われていて、大きな事故には至っておらず、刑罰自体は軽いケースでも、ドライバーとして極めて危険と認められる場合には、一生涯、運転禁止にできるといいます。』

●番組参考サイト 

http://news.tbs.co.jp/newsi_sp/genba/archive/20171221_02.html

ドイツの街中で発生した追突事故(筆者撮影)
ドイツの街中で発生した追突事故(筆者撮影)

 もし、日本にもドイツのように「一生涯運転禁止」のペナルティが定められていれば、おそらく相当な抑止力となり、その先に起こるかもしれない重大事故を未然に防ぐことができるのではないでしょうか。

 日本の道にこれ以上悪質ドライバーを野放しにせぬよう、今回のあおり運転をきっかけに議論を高め、ドライバーの運転適性についてもっと厳格な見極めができるような制度の構築が必要です。

●関連記事/「あおり運転」で続出する逮捕者。万一のとき我が身を守るには?

新潟県警HPより
新潟県警HPより
ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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