他人事じゃない。原付、電動キックボードの深刻な無保険問題
つい先日のこと、知人が交通事故に遭いました。クルマを運転して住宅街の交差点を通過しようとしたとき、高齢男性が運転する原付スクーターが、突然右からぶつかってきたというのです。
下の写真は、この事故によるクルマの損傷です。前後のドアが、かなり凹んでいるのがわかります。
衝突された瞬間の衝撃で、後部座席に置いてあったノートパソコンやバッグ類が飛ばされたとのこと。これがもし、クルマに乗車中ではなく、子どもたちが歩行中や自転車で走行中だったらどうなっていたことか……、最悪の事態を想像すると、背筋が寒くなりました。
原付スクーターの側には一時停止の標識があったそうです。スクーターがルールを守ってきちんと止まり、左右を確認していれば間違いなく防げた事故ですが、結局、それを怠ったことで、このようなことが起こってしまったわけです。
信号のない交差点ではたびたびこうした事故が発生していますので、十分に注意してください。
■加害者の原付は自賠責のみ。対物「無保険」だった
さて、本件では事故後すぐに警察を呼んで、現場検証が行われました。ぶつかってきた高齢男性は衝突の衝撃を受けて転倒し、ズボンが破れていたそうですが、本人の過失で起こった事故ということで、警察は「物損事故」として処理をしたそうです。とりあえず、けが人が出なかったことだけは不幸中の幸いでした。
ところが、困ったことに、この原付スクーターは任意保険未加入でした。一人暮らしでクルマも所有していないとのことで、「ファミリーバイク特約」(*後で説明します)もついていなかったのです。
加害者の高齢男性は事故直後、「自賠責はちゃんと入ってるので……」と言っていたそうですが、自賠責はあくまでも「対人保険」であって、クルマやバイクの修理代はカバーされません。つまり、自分が損害を与えたクルマの修理代は、すべて自腹で支払わなければならないのです。
今回の事故によるクルマの修理代は、最低でも数十万円かかることは間違いなく、自身のスクーターの修理代も合わせれば、かなりの出費となるでしょう。
一方、被害を受けたクルマには車両保険も含めて任意保険をかけていたので、とりあえず自身の車両保険を使って修理を進め、あとは保険会社の方からスクーターの男性に修理代を求償するという流れになるようです。
■原付といえども、無保険は論外!
実は、バイクの任意保険加入率はまだまだ低いのが実情です。それ以前に、250cc以下のバイクには車検がないため、加入が義務付けられている自賠責保険すらかけ忘れたまま走っているケースがみられます。
今回の事故のように、ニュースにも取り上げられないような事案が、全国各地で毎日のように起こっているわけですが、ルールを無視した無保険バイクとの事故に遭遇し、その後、適切な賠償を受けられずに大変な思いをしている被害者の体験談はたびたび耳にします。
対物事故で損害額が数十万円なら支払えない金額ではないでしょう。しかし、万一、人身事故を起こしてしまったらどうなるでしょう。自賠責保険の保険金の上限は、死亡3000万円、重度障害4000万円、傷害120万円です。過去に取材したケースを見ると、この金額ではとても支払いきれない高額判例が続出しています。
例えば、被害者が意識不明の重体となり、介護が必要な障害が残ったような場合は、数億円の賠償義務が発生することも珍しくありません。
物損事故でも、相手が超高級車などの場合は、軽い事故でも数百万という損害額になることがあります。また、バスやトラックなどの営業車の場合は車両の損害のほかに休業損害も請求されます。とにかく、任意保険をかけずに加害事故を起こしてしまうと大変過酷です。
もしあなたが、「原付くらいなら大丈夫」などという軽い気持ちで、任意保険もかけずに乗っているなら、その考えを改めてください。これは被害者のためであることはもちろん、自分や家族の人生を守るためでもあります。
■電動キックボードにも任意保険を
ちなみに、自分や家族がクルマを所有していて、そのクルマに任意保険をかけている場合は、「ファミリ-バイク特約」が適用されます。
具体的には、クルマの保険の主契約者とその配偶者、同居の家族、別居の未婚の子が、総排気量125cc以下の2輪車、総排気量50cc以下の3輪以上の車で事故を起こした場合に補償の対象となり、運転者の年齢やバイクの台数、その車両が借り物か否かに関係なく、主契約とほぼ同じ補償が得られますので、安心です。
最近よく見かける電動キックボードなども基本的には対象ですので、念のためクルマの任意保険をかけている保険会社に、「契約が有効か否か?」や補償内容などを問い合わせてみてください。
問題は、今回の事故の加害者のようにクルマを所有していないケースです。この場合は、「ファミリーバイク特約」がありませんので、バイク用の任意保険を別にかける必要があります。すぐに保険会社に問い合わせてください。
新年度がスタートし、新しい学校や職場に通うために原付スクーターを手に入れ、乗り始めたという人も多いことでしょう。この記事を読まれて少しでも不安になったら、すぐに自賠責保険の期限と任意保険契約の有無を確認してください。遠方でひとり暮らしを始めたお子さんなどにも、ぜひ、ひと声かけていただければと思います。