フィリピンの台風11号の名前は日本が名付けた「ヤギ」、どこかの国で大災害が発生すると名前リスト引退
台風12号がフィリピン北上
令和6年(2024年)9月1日21時にフィリピンの東海上で発生した台風11号は、北上してルソン島を縦断中ですが、バシー海峡付近から向きを西に変え、南シナ海へ進む見込みです(図1)。
台風11号が進む南シナ海の海面水温は31度以上と、台風が発達する目安である27度を大きく上回っています。
このため、6日21時には、中心気圧945ヘクトパスカル、最大風速45メートル、最大瞬間風速60メートルの非常に強い台風に発達する見込みです。
日本への影響はほとんどないと思われますが、この台風11号には、日本が名付けた「ヤギ(ヤギ座)」というアジア名が付けられています。
台風のアジア名
台風には、平成12年(2000年)から北西太平洋(南シナ海を含む)で発生する台風の防災に関する各国の政府間組織である「台風委員会」が作成した名簿に従ってアジア名がつけられています。
アジア各国の文化の尊重と連帯の強化、相互理解を推進することで防災意識を高め、台風による災害を減らそうとする試みです。
この台風委員会は、14か国・地域(アルファベット順にカンボジア、中国、北朝鮮、香港、日本、ラオス、マカオ、マレーシア、ミクロネシア、フィリピン、韓国、タイ、アメリカ、ベトナム)が参加しており、各国・地域が10個ずつ提案した合計140個のアジア名の名簿が作られています。
アジア名には、文字数が多過ぎないこと(アルファベット9文字以内)、発音しやすいこと、他の加盟国・地域の言語で感情を害するような意味を持たないことなどの条件がありますが、基本的には各国・地域の意見がそのまま通ります。
日本からは、星座名に由来する名前10個を提案しています。
気象庁のホームページには、星座名を提案した理由として、特定の個人・法人の名称や商標、地名、天気現象名でない「中立的な」名称であること、「自然」の事物であって比較的利害関係が生じにくいこと、大気現象である台風とイメージ上の関連がある天空にあり、かつ、人々に親しまれていることが挙げられています。
最初に名付けられたのは、平成12年(2000年)の台風第1号で、カンボジアで「象」を意味する「ダムレイ」という名でした。以後、発生順にあらかじめ用意された140個のアジア名を順番に用いて、その後再び「ダムレイ」に戻ります(約5から6年で一巡)。
基本的には、台風のアジア名は繰り返して使用されますが、大きな災害をもたらした台風などは、台風委員会の加盟国・地域からの要請を受けて、そのアジア名を以後の台風に使用しないように変更しています。
例えば、平成29年(2017年)の台風17号には、日本が提案した名簿5番目のテンビン(テンビン座)と名付けられたのですが、フィリピンで大災害が発生したためテンビンは引退し、一巡して名簿5番目がきた令和5年(2023年)の台風14号には、日本が再提案したコイヌ(コイヌ座)と名付けられています。
逆に、令和元年(2019年)の台風15号は、「房総半島台風」と名付けられるほど千葉県を中心に大きな暴風被害が発生しましたが、これによりラオスが提案していたファクサイという名前が引退し、ノンファという名前に変わっています。
また、令和元年(2019年)の台風19号は、「東日本台風」と名付けられるほど東日本を中心に大雨被害が発生しましたが、これによりフィリピンが提案していたハギビスという名前が引退し、ラガサという名前に変わっています。
ノンファ、ラガサともに、今後、順番が来たら、台風の名前として使われます。
今年の台風11号に名付けられたヤギ(ヤギ座)は、これまで大災害が発生していないことから5回目の登場です。
最初は戦争で別れて暮らす妻や娘の名
台風に名前をつけ始めたのは、太平洋戦争末期の昭和19年(1944年)6月から7月の総攻撃でサイパン島を占領し、ここを拠点として日本本土への空爆を開始したアメリカ空軍といわれています。
不詳ですが、アメリカ軍の関係者から、「当時は戦争で別れて暮らす妻や娘の名前を台風に付けていた」と聞いた人もいます。
ただ、はっきりしていることは、名前のリストを作って、正式に発表始めたのは昭和22年(1947年)からで、占領中の日本に対して使用を義務付けたのは、この年の3番目の台風である「キャロル(Carol)」からです(表)。
戦後、すぐに台風の英名が使われたわけではありません。
そして、この英語名が一躍有名になったのは、この年のカスリン(Kathleen)台風の大災害からです(図2)。
日本が独立し、戦後の連合軍進駐体制が終わった昭和28年(1953年)以降は、台風に対して台風番号が付けられ、それが広く使われています。
しかし、数字だけでは記憶に残らないなどの理由から、台風に名前を付けるということは継続され、気象庁も船舶向けの予報などではアメリカが付けた名前をそのまま使っていました。
例えば、昭和34年(1959年)の台風15号には、台風番号のほかに、アメリカ空軍が命名した「VERA」という英名が使われました。
ちなみに、この台風15号は、伊勢湾で大きな高潮が発生し、5000人以上が亡くなるという大災害が発生したことから、台風番号、英名のほかに、伊勢湾台風という特別な名前がついています。
月日は流れ、昭和54年(1979年)以降は、男女平等意識の高まりを背景に、台風の名前は、アメリカ軍が作成した男女交互の表を使うように変わりました。
そして、現在は、台風にはアジア各国が協力して作成したアジア名、協力して台風防災に立ち向かうシンボルであるアジア名が付けられています。
図1の出典:ウェザーマップ提供。
図2の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。
表の出典:気象庁資料をもとに筆者作成。