「第2のエルドレッド」と期待されるカープの新主砲クロン。バレル率はジャッジやトラウト超え
過去10年ほどの広島東洋カープの外国人選手は、期待以上の活躍をした投手は何人かいたが、打者は期待外れに終わった選手が多かった。数少ない当たり外国人バッターの一人が、球団外国人選手最長となる7シーズン在籍して、2014年にはホームラン王に輝いたブラッド・エルドレッドだった。
カープ最強外国人選手の一人であり、ファンからも愛されたエルドレッドは現役引退後の2019年秋からカープの駐米スカウトに就任。初めて獲得した選手が「第2のエルドレッド」と期待されるケビン・クロン。
27歳のクロンは、メジャーで2年間、通算47試合の経験しかないが、マイナーでは6年間で151本のホームランを放っている。メジャー経験こそ少ないが、2019年のメジャーでのバレル率は「バレルの申し子」と呼ばれるアーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)や現役最強打者のマイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)を超えるスラッガーだ。
ケビンの父親、クリスはカリフォルニア・エンゼルス(現ロサンゼルス・エンゼルス)とシカゴ・ホワイトソックスで合計27回だけ打席に立ったことがあるメジャー経験者。メジャーでは2本しかヒットを打てなかったが、ホワイトソックスの3Aでプレーしていた1995年シーズン途中に引退すると、そのままルーキーリーグ・チームの監督に就任。ホワイトソックス傘下のマイナーリーグでは、ルーキーリーグから始まり、1A、1A+、2A、3Aと一歩ずつ階段を上りながら全てのレベルで監督を務めてきた。
ケビンは2019年にマイナーの3Aで38本塁打を放ったが、そのときの監督は父親のクリス。メジャー初昇格の知らせも父親から告げられた。
選手としては結果を出せなかったクリスは指導者としては一流で、マイナーで20年の監督経験を誇る。そんなクリスが自らの手で育て上げたのが息子のC.J.とケビンだ。
C.J.はユタ大学の3年生だった2011年のドラフトでエンゼルスから1巡目指名を受けて入団したが、高校を卒業したばかりのケビンも同年のドラフト3巡目でシアトル・マリナーズから指名された。ケビンはプロではなく、テキサス・クリスチャン大学への進学を選択。
C.J.はメジャーでの7年間で通算118本塁打を放ち、家族の中で唯一メジャーで活躍した実績を持つ。
C.J.とケビンを指導した高校時代のコーチは「C.J.は本能でプレーしていたが、ケビンは頭で理解しながらプレーしていた。例えば、右側へ流し打ちするように命じると、C.J.は何も考えずに流し打ちをして、ケビンは流し打ちをした後に理論的にメカニズムを説明できる選手だった。2人とも優れた打者だったが、パワーに関してはケビンの方が上だった」と高校時代の実力はケビンに軍配を上げる。ケビンはアリゾナ州の高校のシーズンと通算本塁打記録を樹立している。
C.J.は2018年にメジャーで30本塁打を放ったが、ボールを遠くに飛ばす技術ではケビンはさらに上を行く。C.J.はメジャー通算で20.1打数に1本の割合でホームランを放ってきたが、ケビンは2019年にメジャーで11.8打席に1本の割合を記録。通算と1シーズンを比較するのはフェアでないのであれば、C.J.は2019年に25本塁打を打ったが18.3打席に1本だった。
ケビンはマイナーでも6シーズン通算で16.3打席に1本のホームランを放っている。
東京スポーツの報道によると、広島の球団幹部は「クロンはエルドレッドのようなタイプ。30本近く打ってほしい」と語っているが、エルドレッドとクロンのメジャーでの成績を比較すると、とても似ていることに驚く。
エルドレッドは身長198センチ、クロンは196センチで、2人とも右投げ右打ちの大型一塁手。日本1年目の年齢はエルドレッドが32歳、クロンは来年の開幕時に28歳で4歳若い。
どちらも打率は2割前後と非常に低く、メジャーの投手の球を打つのに苦労していた。出塁率、長打率、OPSはとても似ている。
新外国人選手のスタッツで気になるのは三振率と四球率だが、この2つもほぼ同じ。「外スイング率」とはストライクゾーンを外れたボールを振る確率だが、こちらも似たような数字だ。
来日当初は内角高めのストレートと外角低めの外に逃げるスライダーを苦手として大型扇風機と化していたエルドレッドだが、「いつも自分に言い聞かせていたのは『なぜ日本のこの球団に必要とされてきたか』ということ。自分はホームランバッターで、高いアベレージを期待されているわけじゃない。何を期待されているのかといえば、ホームランを打つことであり、打点を挙げること」と割り切ることで、長打を放つことに専念。日本3年目にはホームラン王のタイトルも手にした。
打撃技術はクロン>エルドレッド
ボールを捉える能力を示す「コンタクト率」を見ると、エルドレッドよりクロンの方が数字が少しだけ良い。高校生のときから高い野球IQを持ち、理論的に打撃にも取り組んでいたクロンは、日本で成功する要素を持っている。「左/中/右 率」とは、打球を左側(引っ張り)、センター方向、右側(流し打ち)に打った確率だが、クロンの方がよりフィールド全体を使っており、引っ張り専門のパワーヒッターではない。マイナー時代のコーチからは勤勉で練習熱心な姿勢を褒められ、貪欲な姿勢で日本の野球を学ぶはずだ。
「バレルの申し子」ジャッジを上回るクロンのバレル率
外国人選手に求められる長打力に関してもクロンはエルドレッドを上回る。「ISO」とは長打率から打率を引いたもの。打者のパワーを示す指標で、.200で優秀、.250でトップクラスが目安。クロンのISO.250はトップクラスだ。
クロンはマイナー時代から球界屈指の打球飛距離を誇り、打球速度と打球角度の組み合わせによる「バレル率」では、2019年にメジャー全体で3位にランクイン(75打席以上)。クロンのバレル率22.7%は、「バレルの申し子」と呼ばれるジャッジの19.7%(メジャー6位)、メジャー最強打者のトラウトの18.9%(メジャー8位)を上回る。打球速度が95マイル(約152キロ)を超えた確率は50%で、これはメジャー14位タイ。打球を飛ばす能力はメジャーでもトップクラスのスラッガーだ。
日本での成功の鍵は変化球攻略
ジャッジに劣らない長打力を誇るクロンが日本球界にうまく適応できれば、カープの外国人選手としてはエルドレッド以来と本塁打王も可能だが、明らかな弱点も持っている。それは変化球への対応だ。
2019年は速球を打ったときの打率が.308、長打率は.795だったのに、変化球は打率.087、長打率.217、空振り率62.0%と変化球に滅法弱い。日本の投手はクロンに対して速球を避け、変化球攻めをしてくるだろうが、そこをいかにして攻略するかが鍵となる。
ここで良き助け手となれるのが、自身も同じ経験をして、そこを乗り越えたエルドレッド。自身の経験談と日本の投手の傾向、そして日本野球の独特な文化をクロンに説明して、クロンが日本球界で成功するのをサポートしたい。今年も春のキャンプ時には来日して、「才能のある選手が日本の野球に対応できるように手助けをしたい」とエルドレッドは外国人選手のサポート役を務めた。
クロンの今季の年俸(シーズン短縮による減俸前の額)はメジャー最低年俸の57万ドル(約5985万円)。アリゾナ・リパブリック紙によると、広島はアリゾナ・ダイヤモンドバックスに50万ドル(約5250万円)を支払ってクロンの契約を買い取り、契約金3150万円、年俸8400万円の1年契約を結んだ。日本に行くことでクロンの年俸は上がるが、お金だけが日本に行く理由ではない。
「日本に行って多くのことを学び、僕の野球技術をさらに磨くチャンスだ。日本の野球はパワーがある打者が大好きとも聞いているので、相性も良いはずだ。1年契約だけど、10年間向こうでプレーすることになるかもしれない」と状況次第では日本に骨を埋める覚悟も口にしている。
エルドレッドは引退セレモニー時の会見で「選手としての才能を持った選手を連れてくるだけでなく、日本で長くやりたいという気持ちをもった選手を連れてきたい」と語っていたが、スカウト初仕事でペナント奪回の使者となる最高の選手を連れてきたかもしれない。