JR北海道の黄色3線区、道が鉄道の経済効果は330億円と発表 山線のトラウマで道の政策姿勢に変化か?
道は「観光による鉄道の経済効果大きい」と手のひら返し
2024年5月9日、北海道庁はJR北海道が単独では維持困難とした黄色線区のうち、観光利用が多い富良野線、釧網本線、根室本線釧路―根室間(愛称名:花咲線)の3線区について、列車運行による経済効果が約330億円に上るという推計をまとめ、北海道議会特別委員会で報告した。
この報告によると、これらの3線区では、観光利用が5割から6割に上るといい、列車の運行に伴う観光客数は富良野線で約20万人、釧網本線で約9万人、花咲線で約4万人で、全道への経済効果は合わせて年間約330億円になるという。
委員会では、北海道交通政策局・佐々木敏鉄道担当局長は「道内の鉄道ネットワークの価値が全道、全国へ波及していることや道民生活において欠かせない重要な存在であることが客観的に整理された」と述べているが、これまでの北海道での廃止路線の対応とは全く異なった見事な手のひら返しを見せた。
道は、並行在来線問題では「鉄道は財政的な負担」と明言
特に北海道新幹線の並行在来線問題では、協議会の場で、30年分の鉄道の赤字額とバスの赤字額を比較することにより、いかに鉄道のほうが財政上の負担になるのかという印象付けを目的とした試算結果が積み上げられ、今回、発表されたような経済効果に対する言及が一切なかったこととは対象的だ。函館本線の山線区間と言われる並行在来線の長万部―小樽間については輸送密度が2000人を超える余市―小樽間も含めて、2022年3月に密室協議の場で廃止の方針が決定された。しかし、深刻化するドライバー不足の問題からバス転換協議は難航し、1年近く協議が止まっている。
さらに、協議の場に地域のバス会社が呼ばれておらず、バス会社との協議を始めようとしたのが廃止を決めてから1年以上たった2023年5月になってからだったということが5月5日にBSフジで放送されたサンデードキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!」の中で行われた、北海道交通政策局・小林達也並行在来線担当課長へのインタビューで明らかにされた。またこの時、小林課長は、鉄道の維持については「財政的な負担である」とはっきり答えており、今回発表された黄色3線区に対して示した道の考えは、これまでのものと180度異なる。
さらに並行在来線の函館―長万部間についても北海道庁は2023年12月に行われた協議会で、この区間の旅客列車を廃止し全区間のバス転換を行うことを沿線自治体に対して提案している。こちらでも、30年分の鉄道とバスの赤字額が比較され、バスのほうがいかに維持費が安いかという説明が行われたが、鉄道による経済効果に対する言及はなかった。当然ながら協議の場に地域のバス会社は呼ばれておらず、函館―長万部間のバス路線を運行している会社が深刻な労使紛争を抱えていることや、ドライバー不足の影響などからほかのバス会社と共同運行している函館―札幌間を結ぶ高速はこだて号の便数半減を行っている状況についての考慮は見られなかった。
根室本線富良野ー新得間では沿線自治体から復旧・存続に対する要望書も
また、2024年3月31日限りで廃止された根室本線富良野―新得間については、2016年の台風災害で東鹿越―新得間が不通となり最後まで復旧されることなく廃止となったが、被災直後は地元自治体では復旧を模索する動きもあり、2018年には、滝川―新得間の沿線自治体の首長と議長の連名で、国土交通省に対して、要望書が提出されている。
要望書では、災害運休が続いている東鹿越―新得間について同区間は「災害時の代替ルートとして、また、観光列車など新たな観光ルートの可能性もあり、道北・中空知地域と道東地域を結ぶ極めて重要な鉄道ネットワーク」であることから「JR北海道が将来にわたって安定的な運営を行い路線の維持・存続」が行えるように、「JR北海道の経営再建に向けた国の支援のあり方の抜本的な見直し」や「老朽化した施設の保全・更新等に関する国の支援や不通区間の早期災害復旧」などを求めるとした。
しかし、北海道庁は鉄道の復旧・維持について積極的な姿勢を見せず、結果として財政規模が脆弱な沿線自治体は、約10億円とされた復旧費と年間の維持費約10億円について、その費用負担の全額を求められたことから、根室本線の富良野ー新得間は廃線に持ち込まれた。
鉄道による経済効果あるなら並行在来線廃止は見直すべき
北海道庁は「道内の鉄道ネットワークの価値が全道、全国へ波及していることや道民生活において欠かせない重要な存在である」と考えを改めたのであれば、並行在来線の長万部―小樽間の廃止の見直しや根室本線の富良野―新得間の復活についても検討するべきではないのか。今回、経済効果が発表された黄色3線区のみ「観光による経済効果のため存続」という結論になるとすれば、それはダブルスタンダードの政策方針ではないのか。
(了)