「文化の盗用」とファッション・音楽 迫害を受けた人々の文化を気軽に借りるリスク
「文化の盗用って何?」、「他の国の文化を理解しようと、悪気なく着た衣装だったのに、なぜ非難されるの?」、「なぜ民族衣装を他の国の人が着ると、違和感を感じる人がいるの?」。
10月、ノルウェーではシーヴ・イェンセン財務大臣がインディアンの格好をした写真をインスタグラムに投稿し、「文化の盗用」だと大炎上に至る騒ぎがあった。
迫害を受けてきた弱者の文化を、強者が安易に「借りる」と大きな議論になる可能性がある。米国ではもっと浸透されているとされる「文化の盗用」(Cultural appropriation)という議論がノルウェーにやってきて、今、人々は「それは何?」、「なにがダメなの?」と考え始めている。
11月初旬、首都オスロでは世界中の音楽アーティストを招待するフェス「オスロ・ワールド」が開催された。他国の音楽や文化の理解にも力をいれているこの催しでは、ファッションがテーマとなるセミナーも多かった。
4日におこなわたセミナーでは、文化の盗用とファッションについて意見交換がされる。
パネリストはデザイナー、メイクアップアーティストであるキナム氏。メロディ・グランプリ2011で優勝し、ノルウェー代表となった歌手・ファッションデザイナーのステラ・ムワンギ氏。ダンサーなど複数の肩書を持ち、差別などの議論に積極的に参加するトーマス・プレスト氏。全員がノルウェーに住み、アフリカを背景にもつ。
文化の盗用は米国の問題だとされやすいが、ノルウェーでも起きていること。「オーナーからの許可を得ずに、他者の文化を無断で借りること」だと、簡単に一言では説明・議論することはできないテーマだ。
「まだ何なのかわかっていない人も多いので、異なる意見をここでは尊重したい」と司会者は話す。
「問題は、他者の衣装を借りた時に、その意味が再定義されてしまった時です。キム・カーダシアンが他文化の服を着ることには問題はありません。ただ、彼女が着たことによって、デザインの意味が再定義され、その服の着用がキム・カーダシアンをサポートすることになってしまうと話は別。自分の文化のシンボルとして、若い黒人などがその服を着ることにためらいをもちはじめたら、問題となります」と話すのはプレスト氏。
文化の盗用は、超えてはいけない境界線が見えにくい。自分の考えを言葉にまとめにくく、フラストレーションがたまる人が多いテーマだとパネリストらは話す。
話しにくいテーマだが、文化を借りる時には注意が必要だと指摘するプレスト氏。
「虐殺、植民地化、奴隷という長い歴史とリンクされているから、理解することが大事。カウボーイやインディアンの格好をすることは 兵士やユダヤ人の格好をするように非常識」だと語る。
ファッションデザイナーとして活動し、自身のブランド「Vaa Ki Afrika」を立ち上げたムワンギ氏。ノルウェーを代表して、アフリカっぽい歌を歌うなど、アフリカとノルウェーのミックスをファッションや音楽でこなし、同時にルウェーでは差別も受けることがあった。
「アフリカというイメージを出しすぎると一歩引かれてしまう」とムワンギ氏は話す。
「人は服がどこから来たか知りたいわけではない。戦争や貧困を連想するから」と、自身のブランドにアフリカのイメージをどこまで出すかの葛藤があると語る。
同時に、「プラダがアフリカの衣装をファッションショーで使うのを見ると、個人的にもやもやとした疑問がわく。なぜ、その民族はクレジットされないのか」。
「有名人が他民族の服を着た時には賞賛されるが、もともとはその民族のもの。なぜクレジットは彼らに与えられないのか」とキナム氏も話す。
テレビ番組やどこでも、他国の文化を借りる時には細心の注意を要すると指摘するプレスト氏。
「複数の文化が交錯する今、『これはどこからきたもの?自分たちがしていることは大丈夫か?』と考えることは大変だが、必要な作業だ」とする。
テーマはファッションからヘアスタイルへと移る。
肌の色以上に、「髪」は繊細なテーマでもあるとするパネリストら。
「髪も文化の盗用議論の重要な一部。最も大きな差別というのは、カラー。だから髪は政治的なものになる」とするプレスト氏。
「ヨーロッパで良しとされる髪型はストレートのようだ」だという同氏は、大量の薬剤で髪をストレートにしようとする子どもたちがいることを問題視している。ノルウェーでは安い価格で買うことができる薬剤だが、危険な薬剤であり、個人的に理解に苦しむ傾向だとする。
音楽祭の期間中だったので、最後の話は音楽と文化の盗用についても触れられた。
アフロビートで歌うノルウェー人が増えているが、どこの国からかクレジットがないことに違和感を感じる、という意見が出た。
ファッションにせよ、音楽にせよ、自分たちの国のものが他国でクレジットなしで話題を集めることに、言葉にしにくい違和感を感じるようだ。
会場からは、「白人のノルウェー人を不快にさせずに、このテーマや歴史をどう議論できるか?」という疑問も投げられた。
「彼らが気分を害さないようにと気を遣うことは、そもそも僕の責任なのでしょうか?ノルウェーにも奴隷の歴史があります。2017年においても歴史認識に欠け、議論のレベルは高いとはいえない。難しいテーマですが、口にすることに罪悪感を感じる必要はないのでは」とプレスト氏は答えた。
トークショーを聞いていたノルウェー人女性らと、筆者はその後に話をした。
「文化の盗用という言葉は、私たちは学校では習わなかったもの。よくわからない、という人のほうが多いと思います。でも、財務大臣のコスチュームがきっかけで、みんなで考えるようになったのはいいことでしょうね」。「私は自分の子どもがインディアンの格好をしていたことに、何も疑問を抱いたことがなかったわ」というような声があった。
※各発言は個人の見解です
Photo&Text: Asaki Abumi