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厚生年金106万円の壁撤廃で実際の手取りはどうなるか #専門家のまとめ

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表
(写真:イメージマート)

厚生年金「106万円の壁」が撤廃され、週20時間以上働く労働者が新たに厚生年金に加入する方向での見直しが進められています。

具体的に手取りはどう変わってくるのか、人々の関心も高いようです。

ココがポイント

厚生年金保険料は賃金の18・3%で労使折半なので半分は雇用主持ちだ。国民年金の保険料よりかなり軽い負担で済む。
出典:47NEWS 2024/12/5(木)

そのため厚労省は年収156万円未満の人に限り、保険料の一部を企業の判断で肩代わりできる仕組みを検討。

出典:産経新聞 2024/12/5(木)

エキスパートの補足・見解

厚労省サイドは「新たに厚生年金に加入しても労使折半なので手取りが減るわけではない」との説明を行っているようですが、実際の企業内ではどういう対応がなされるのでしょうか。

実際の企業では、雇用にかかるコストすべてを含めて人件費と設定しており、新たに社会保険料が発生すれば(それが本人負担であろうが会社負担であろうが)それはそのまま賃金を圧迫することになります。

一時的に企業の負担が増えることはあっても、中期では以下のような経路をたどって本人負担に転嫁されることになります。

・賃上げの抑制

・労働環境のブラック化(従来5人で回していた仕事が3人に減らされる等)

これは実際に90年代から2000年代にかけて企業内で起きていたことと重なります。当時、消費税などの増税が凍結される一方、厚生年金をはじめとする社会保険料の引き上げは続けられ、企業は上記のようなツールを駆使して従業員に転嫁しました。

一向に上向かない賃金、ブラック企業という概念の登場は、まだ多くの人の記憶に新しいことと思われます。

今回新規で加入することになるのは労働者全体からみれば一部ですから「失われた30年」の再来のようなことは起こらないでしょうが、対象となる家計へのインパクトは決して少なくはないでしょう。

まとめると「世の中にただ飯はない」ということになります。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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