ウクライナに供与される対ドローン迎撃システム「ヴァンパイア」とはレーザー誘導ロケット弾システム
8月24日、ロシアによるウクライナ侵攻開始から半年が経ちました。アメリカはこの日に過去最大の30億ドル分のウクライナ支援パッケージを発表しています。
今回の供与リストにある「ヴァンパイア対ドローンシステム」が何なのかはっきりしないのですが、直後のレーザー誘導ロケットシステムとセットで使われる装備としてL3ハリス・テクノロジーズ社のモジュラーパレット式ISRロケット装置「ヴァンパイア」というものがあるので、これではないかと推定します。(ISRとは情報・監視・偵察の略語)
【追記】コリン・カール国防次官から「ヴァンパイア対ドローンシステム」とはL3ハリス・テクノロジーズ社のロケット装置のことだと説明がありました。
VAMPIRE | L3Harris
VAMPIRE | Vehicle-Agnostic Modular Palletized ISR Rocket Equipment (車両に依存しないモジュラーパレット式ISRロケット装置)
APKWSなどに代表される70mmレーザー誘導ロケット弾の4連装発射機とL3ハリス・ウェスカム社製MX-10光学センサー・レーザー照射機を組み合わせたシステムです。対地攻撃だけでなく対空射撃も可能で、近接信管を搭載した誘導ロケット弾でドローンの迎撃が行えます。
この「ヴァンパイア」システムはピックアップトラックに簡単に取り付け可能で、光学センサーを高く伸ばして偵察も可能です。また70mmレーザー誘導ロケット弾は戦車以外の地上車両を撃破可能で、偵察任務で敵の警戒車両を排除できます。あくまでこのシステムは偵察や警戒用なので敵の戦車と交戦することは考えていません。細長い70mmロケット弾(元は攻撃ヘリコプター用の空対地ロケット弾)は対戦車ミサイル1発のスペースに4発が入る上で、有効射程は対戦車ミサイルと同等の5km以上あります。
そして空中のドローンとの交戦も可能となるので、敵の弾着観測ドローンの排除にも活用することができます。
70mmレーザー誘導ロケット弾「APKWS」に近接信管を搭載してドローンを迎撃する試験は以前から行われています。この弾薬はレーザー誘導なので、高価な赤外線センサーを用いる携行地対空ミサイルよりも費用が安いという利点があります。ただし歩兵が手で持ち運べる大きさではないので、車両に搭載する必要があり、「ヴァンパイア」システムの場合は照準用のMX-10光学センサーが高価なので、初期費用は掛かってしまいます。
アメリカ国防総省のコリン・カール国防次官は「ヴァンパイア」を対ドローン迎撃システムと説明していますが、実際には対ドローン迎撃は補助的なもので、地上でのISR(情報・監視・偵察)が主任務である可能性があります。
70mmレーザー誘導ロケット弾は対空に使えるといっても、本来は対地用です。対空専用の弾薬ではありません。対ドローンとISR、どちらの任務にも使えるでしょう。
【参考記事】ドローン迎撃ドローンはジェットエンジンを搭載した遅い迎撃ミサイル ※ドローン迎撃が主任務の兵器の例。